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××したいほど愛してる。








少しずつ 少しずつ

異変を感じても、もう遅い



「…全く、だらしのない…」
「なぁんか言ったか?」
「いーや何も。ほら、水だ」
「さんきゅうっカミュ〜〜あいしてる!」
「大きな声を出すな!今、な」

何時だと思っている、と続くはずだったカミュの言葉は、突如彼の腰に纏わりついてきた酒臭い熱い塊りに阻まれた。
薄明かりのみの部屋で輝きを失った真紅の髪が揺れる。陽の光りの下では眩むほど鮮やかなその色が、意外にも闇に溶け込むようだった。
カミュは彼の引き締まった腹筋に頬ずりをするミロを慣れた手つきでやんわり引き離した。

「…零れる」

ミロは聞こえない、とでも言うようになおも褐色の頬を擦り付ける。

「ミーロ、水が零れる」

カミュがもう一度、今度は声の調子を和らげて伝える。
するとしぶしぶといった様子でミロは漸くカミュを解放した。
身を離せば視線が自然と絡み合う。

ふしぎだ、とミロは吐息で囁いた。

「おまえの紅い瞳が、どうしてか良く視える」
「そうか」
「髪はそうでもない。おなじ紅なのに」
「そうか」
「…口移しがいい」

脈略もなく伝えられた要求。だがカミュは黙ってコップの水を自らの口に含んだ。
ミロが気だるげに身を預けているソファの背もたれに手をつき、被さるように唇を寄せる。

「…ん、」

コク、とミロの喉仏が動いたのを確認してから唇を離し、カミュはもう一度コップに口をつけた。

「…おいし。すげーつめたい」

表情を綻ばせるミロにカミュも目を細めた。
顔を近付けて口を開けと瞳で伝える。
唇を合わせ、そっと開いてカミュはミロへ水を注ぎ込む。
コクン、ミロの喉が鳴る。
もう一度。
もう一度。
カミュが彼の水を与える間、ミロはずっとカミュの瞳を見つめていた。
カミュもその瞳を見つめ返しながら唇をそっと開く。
もう、一度。
咥内の水を与え終わったとき、カミュはミロの瞳に色が宿ったのを見つけた。
豪華な金の髪は暗がりにくすんでいるというのに、碧眼だけが薄闇に浮かぶようだった。
カミュは唇を離す。
もう一度だ、まだ足りない。
そう思うのに、カミュは身を起こせなかった。
カミュの瞳から色が抜ける。
ミロがカミュの手からコップを叩き落としたのと、カミュが手にしていた水差しを投げ捨てたのはほぼ同時だった。
硝子でできたそれらが石の床と耳障りな音を奏でてソファの悲鳴を隠す。
喰らい合うように始めたキスは、だがカミュには甘やかに感じられた。
冷え切った舌の上で互いの唾液を混ぜあう。カミュの喉が零さず受け入れたことを示すとミロは一層優しくカミュの舌を食んだ。

くらり、カミュの意識が一瞬混濁した。

「……う、」

重力がどちらに働いているのか分からなくなる。
カミュはたまらず目の前の体に縋りついた。
軽い吐き気に眉を顰めていると、ミロが頭の上で笑った。

「どうした…腰でも砕けたか?」

呼ばれるように顔を上げると、ミロは碧い瞳でにっこりと綺麗に微笑んだ。
カミュも笑みを返した。
気分はすでに回復していた。代わりに、ふわりと浮くような、緩い快感。
体を伸び上がらせて弧を描いているそこへ唇を合わせる。
閉じられたままの唇を舐め上げると、ミロは擽ったそうに笑った。

「…カミュの舌、冷たい」



少しずつ、少しずつ。

同じだけの毒をあげる。








(2011/05/27)
もう一度=もう1℃

(2011/12/23)
一部修正


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