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社会人で、オトモダチ。






「…きみ、昨日はそんなこと言ってなかったじゃないか」

ぼくは出来得る限りの渋い顔を作って、承太郎に抗議する。
目の前には承太郎。ぼくの手には洗濯籠。
ここはぼくの部屋のベランダで、今日も空は快晴である。
風が、ひゅう とぼくの前髪を触っていった。

承太郎は開け放しのベランダの戸を背凭れに、どっかりと腰を落ち着けてこちらを見上げた。
だけど、ぼくのうしろには上がりかけのお天道様。思わずといった風に眩しそうに眉間を寄せた承太郎の表情になぜかドキリと心臓が跳ね上がって、ぼくは慌てて先の渋面を取り戻す。

承太郎はなにも言わない。
沈黙を埋めるように、ぼくはYシャツをパンと鳴らした。








『承太郎、今度の日曜空いてる?来月でもいいけど』
『いや…しばらく無理だ』
『そうかー残念。仕事忙しいの?』
『まあな』


『…エアメール?え、イギリス?え?』
『なんだ知らなかったのか?承太郎いま海外だぜ?』
『はあ!?ぼく聞いてないよ!?』


『…なんでお前、この番号知って…』
『ポルナレフから聞いた!君ねぇ、ぼくにはひと言もなしって冷たくないかい!』
『…言った…と思っていた』
『いーや絶対わざとだ!それで?いつ帰ってくるの』
『…すぐに戻る』
『すぐって?』
『…しばらくだ』



『えっ、帰ってきてるの!?』
『なんだよ、またお前に連絡寄越してないのか、承太郎のやつ』
『…友達だと思っているのはぼくだけなのかなポルナレフ…』
『へこむなって。まあ気持ちは分かるがよ、そんな奴じゃねーだろ?』
『そうだけどさあ…。まあいいや、ちょっと電話してくるよ』
『承太郎にか?多分もう出られねーんじゃねえかな』
『?、仕事?』
『いや、…えーと…』


『ちょっと君!!戻ってきてたならひと言くらいくぁwせdrftgyふじこ!!』
『落ち着け花京院。ほんの一週間だけの帰国だったから、』
『ポルナレフには連絡したくせに!?なんだい君達デキてるのか!?』
『ばっ、気色の悪いことを言うな!!』
『なんだよっぼくだってお土産欲しかったしそっちの話だって聞きたかったしお土産欲しかったのに!!』
『分かった、ポルナレフにでも送っとくから…』
『だから何でそこでポルナレフ!?もういいよ、それより次はいつ帰ってくるのさ!』
『…決まったら連絡する』
『絶対だな!次も黙ってたら本当に怒るぞ!?』
『もう怒ってるだろ…』




記憶を辿るうちに、なんだか腹立たしさよりもむなしさが募ってきた。
少し溜まり気味だった洗濯物がどんどん景色を隠していくから、尚更気分は晴れない。

「…結局、あの後も君はいつの間にか帰国しては黙って海外へ戻る生活…」
「昨日の電話で散々謝っただろう」
「…でも今日帰ってくるなんて、言わなかった」
「まあな」
「まあなって…、やっぱりわざとなのか!」
「驚いただろ」
「〜〜〜〜〜〜」

なんって奴だ!
それでもぼくの口からは、ため息しか出なかった。
予告がなかっただとか、これまでの経緯はどうあれ、承太郎はいま目の前にいる。帰国したその足でぼくの家に来てくれた承太郎が。
嬉しくないはずがない。だけど心の準備ってやつが…

「…何年ぶりだと思ってるのさ…」
「10年だな」
「そう、10年だよ!?それだけ会ってなかったんだから、もっとちゃんと、時間作ったり、っていうか…」

洗濯バサミをいじくりながらなんとなく口篭もる。
久しぶりに、本当に久しぶりにみた友人はやたらめったら男前になっていて、会わなかった時間の長さも手伝って緊張してしまう。
結果、こうしてベランダに逃げてしまったほどだ。

「気にするな、…時間ならこれからたっぷりある」
「え」

言葉に含んだものを感じて彼を振り返ると、目の前に承太郎が居た。
…いや承太郎がっていうか、承太郎の胸板が、言葉の通り眼前に…

って、なんなんだこの距離と身長差は!

「な、びっくりさせないでよ!て、ちょ、」



…ああ、ぼくの友人は長い間海外で生活をしていたせいで、すっかり向こうの人になってしまったようです。
こうも簡単に、男が男に抱き締められてしまうなんて。


「じょじょじょ承太郎!」
「…なんだ?」
「いや、なんだ、って…その、日本暮らしのぼくは、ハグに慣れてないんだけど…っ」
「そうだろうな」
「…は…恥ずかしいんですけど…!」
「そうか」
「ソウデスヨ!…もう、離しっ…ご近所さんに見られる…!!」

混乱のあまり昼ドラの奥さんのようなことを口走りながら、ぼくは必死で承太郎を押し退けた。

「…洗濯物で見えやしねぇよ」
「(なにこの展開!?)」

ぼくはますますうろたえた。
承太郎はぼくのセリフを「フリ」だと思ってボケてくれたんだろうか?
じゃあここはつっこむべきなのか?!

「…10年経っても気持ちが変わらなければ、その時は伝えようと決めていた」
「ななんでやねん!」
「…聞いてくれ、花京院」
「すいません…」

承太郎は一拍おくと、ぼくを抱き締めていた腕の力を抜いた。
え、と思った瞬間には体が離れて、次にぴたりと承太郎が目を合わせてくる。

承太郎の瞳は不思議だ。身体は自由になったはずなのに…視線に力があるみたいに、動くことができなくなる。
ああそういえば、ぼくは学生の頃この瞳がどこか少し怖かった。


「…花京院、…俺は…」











(2010/06/07)
(2011/04/01)
10をかぞえて、
そら、つかまえた。


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