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雨をテーマにしっとり甘。




「なにしてんの」

バラバラバラ
傘に雨粒がぶつかる音は存外に大きく、花京院の声を俺に届きづらくしていた。
真上を見上げるようにして顔中でたっぷり雨を感じてから振り返ると、全身ずぶ濡れの俺に明らかな呆れの視線を投げて寄越す瞳と目が合う。



ただ普段となにかが違う気がしたんだ。
花京院の長く伸ばした前髪。
異変というのも大袈裟な、小さな違和感。
髪を切ったか、と問うた俺に、ああ違うちがう、と花京院は訳知り顔で手を振り、それから「湿気のせいなんだ」と答えた。そして

 この季節になるとホンと苦労するんだよねー

花京院は丸く曲線を描く毛先を指で弄りながら、瞳だけで俺を見上げて

 やっぱ、どっかヘンかな?




目を瞑り、雨が長く続くこの時期特有の湿度の高い空気を腹一杯に溜め込んだ。
それを待っていたかのように花京院が俺から視線を逸らせた。細めにデザインされた心棒に添えられた左手が、クルクルといたずらに傘をまわし始める。
遠心力に負けた雨露がこちらに飛んでくることは然程気にはならなかったが、撥水加工済みの黒い布地が時折花京院の顔を隠してしまうのには思わず手が動いた。
ぴたり、傘の回転が止まって弾かれたように花京院が俺を見上げる。

「…チッ」
「え、なんなのその舌打ち」

きみは時々本当に失礼な奴だな、と花京院がぼやききる前に口を開いた。


「お前が可愛く見えた」


バラバラバラ
傘で生まれる雨音は相変わらずこ五月蝿かったが、俺の声はちゃんと届いたらしい。
花京院は僅かばかり大きくなった目をこちらに向けたまま言葉を失っていた。

髪を気にする仕草が、その指先が、
はにかむように笑んだ表情が。

今じわじわと色を染めていく、滑らかであろう頬が


抱き寄せて閉じ込めてしまいたいほどに




「……、それはそれは…、―――」

バラバラバラ
花京院が何か言ったが、その声は雨音に紛れて聞き取れなかった。
すぐに聞き返したが、返ってくるのは同じ音ばかり。

ふと、ストン、と傘が落ちた。
そして言葉通り数え切れない雨粒が盾を失った花京院に降り注ぐ。
花京院は一度仰ぐようにしてそれらで顔を濡らしてから、用済みとばかりにバシャリと傘を閉じ。そして言った。


「確かに、頭を冷やした方が良さそうだ」


俺たちはそれきり、黙りこくって雨に打たれ続けた。











(2011/05/31)
そして揃って風邪をひきました。

花「いィっきし!」
承「くしゃみの可愛くなさに萌えた」

もうだめだこのひと


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