承太郎→←←←←乙女院 どんな魔法をかけてもらえば、きみに、ときめかずに済むの。 「…、はぁ……」 この世でいちばん初めに恋物語を記した人は、きっと自らの経験を綴ったのだろう。 想像で書けっこない。こんな気持ち。 恋に悩んで吐く溜め息は、なんて胸に重くて、熱くて、むず痒くって、そして恍惚とさせるのだろう。 酔っている。 恋に、恋に堕ちた自分に、…きみに。 ああ、今は長い睫毛で閉ざされて見えない、あの深緑の瞳。 あの厚いくちびる。 逞しい胸板、腹筋、広い背中。 引き締まった腰は…、ああ、ダメだ、そんなこと考えちゃあ! そして長い脚が組み替えられるのをみて、ぼくはまた溜め息を吐くのだ。 「…ああ……芸術だ……」 「今は現国の時間だ、バカモン」 丸めた教科書で頭を叩かれ、我にかえる。目の前には現国の教師が、苦い顔でぼくを見下ろしていた。 …そういえば、授業中でした… 「おおい!そこにいるのは空条だな!?昼寝しとらんで、さっさと自分の教室に戻れ!!」 ぼくの視線を辿って彼を――承太郎を見つけた教師が、大声を張り上げる。 承太郎は瞳を瞑ったまま、いつもそうするように帽子の鍔をクッと下げて、その美しい顔を隠してしまった。 途端に各教室から、歓声があがる。 「きゃーっ!!ねぇっ!ジョジョよお!」 「ジョジョー!こっち向いてぇ!」 「やだぁ、来てたのぉ!?ジョジョーっ!」 「きゃーっ承太郎ー!ぼくを見てェー!!」 ……言えるか。 くそっ、彼女らを羨ましく思う日がくるなんて。 「くおらっ!お前ら!授業に集中せんかっ!!」 なんだか上下左右の教室が大変な騒ぎになってしまった。 だけど、その騒ぎの中心である彼は落ち着いたもの。ゆっくりと、再び帽子の鍔を触る様子をみて、ぼくは「あ、」と小さく声を零した。 ―――『…やれやれだぜ。』 いま、きっとそう言った。 承太郎の口癖。 承太郎の低い声が、耳元で囁かれでもしたかのように、絶妙なリアルさをもって脳内再生される。 (…う、わぁ…っ……) …変態か、ぼくは! 承太郎の声を思い出して、興奮するなんて…っ 羞恥と僅かな自己嫌悪でぼくは頭を抱え込んだ。 …その瞬間だった。 僅かに落ち着き始めていた黄色い声が、ワッ と盛り上がったのは。 つられるようにして、承太郎に視線を戻すと。 ピタリ。 遠く離れた彼と、目が、合った。 「………ぇ、」 (なん…―――) 「――――――ッ!!!?」 (あ、うわ、わ、笑、わら…っ!!!?) …そこから先は、どうか察してほしい。 どれほど、どれ程ぼくが嬉しくて、恥ずかしくて、たまらなくって…どれほど叫びたかったか! 承太郎の微笑に、ぼくに向けられた微笑みに、どれ程の破壊力があったのかを! 薔薇色の日々 ああ、ああ、ああ! どんな魔法を使ったって、ぼくはもう二度と承太郎を友達だなんて思えない! (2009/09/14) (2011/04/01) なんという乙女www 楽しかった。反省はしていない。 |