※双子のタクタクでスガタク←タク。片方病んでる。スガタいません。



偶然だった。
タクトとスガタが乱れた衣服で抱き合うのを見てしまったのは本当に偶然だった。
口を押さえてなるべく気配を殺し、彼らがいる空き教室から遠ざかった。どういうことだと混乱する頭で人気の無い階段の暗がりにしゃがみ込み、荒くなる息を整える。
苦しい、吐き出したいくらいに気持ちが悪い。
覚束ない足取りで階段を後にし、近くにあったトイレへと入り込む。手洗い場の上、洒落っ気も無く薄く曇った鏡に映った自分の姿にくつくつと肩を揺らした。
酷い顔だ。今にも倒れそうに血の気を失い蒼白な己の顔に深い真紅の瞳を細め、口元を歪めた。
ああ、本当に酷い顔だ。
でも、僕の一番愛しいひとの顔なんだよ。

軽やかなインターホンの音を聞きつけ重い扉を開くと、肩に学園指定の鞄を掛けた登校時と変わらぬ出で立ちのタクトがいた。
「ただいま」
ちょっと遅くなっちゃった、と続けながら履いていたローファーを脱いで廊下へ上がる。
それはいつもと同じ繰り返される日常の一コマに過ぎなかった。なんの変哲もない、いつも通りの、それでも幸せな。
でも。
「ねえタクト」
着替える為に自室へと向かおうとする彼を呼び止めて、無意識に笑い出しそうになる口元を律した。馬鹿みたい、何も知らないと思っているタクトも、何も知らずにいた自分も。何もかもが馬鹿らしい。
「僕らの間に秘密はナシって言ったよね」
同じ日の同じ時間に血を分けた、互いが唯一無二の存在である僕たち。誰よりも、それこそ両親よりも分かり合える二人だった。隠し事はしないと幼い頃からの約束は、成長した今となっては無効なのだろうか。
「……秘密なんて無いよ」
何言ってるんだとタクトが苦笑いを見せるも、そんなものはちゃちな虚勢にしか映らない。
どれだけの時間を共にしてきたと思っているんだ。
嘘の苦手なタクト。
すぐにバレるのに分かってて使うのはわざとなの?
「――そう」
にっこりと貼り付けたように笑みを浮かべ、一歩近付く。夕焼けにも似た赤い目が落ち着かなく彷徨うのを尻目に互いの息遣いも分かるほどに詰め寄って、タクトの襟元で綺麗に結ばれたネクタイの結び目に指を掛けた。
「これ、誰に結んでもらった?」
びくりと、途端に身体を強張らせるタクトに静かに笑って、掛けた指先に力を籠める。さすれば簡単に結び目は緩まった。
今日は体育も着替えが必要な授業も無かった。朝は互いが互いのネクタイを結ぶことが習慣となっているし、万が一学校で結び直すことになったとしても自分で出来る。
なのに、おかしいじゃないか。今、タクトの身に着けているネクタイの結び方はどちらのものでもない。些細なことだ、きっと気付かれないと思ったんだろう。でも、そんな些細なことでもタクトのことを見逃すなんてあってはならない。
タクトとスガタのことだって薄々嫌な予感はしていて気に掛けていた。それ故にいつの間にという驚愕さえあるくらいだ。巧妙に立ち回っていたのだろうスガタに苦々しく思い奥歯を噛み締める。
二人だけの世界に入り込んだ挙句滅茶苦茶にされたようなものだ。大事な大事な、それこそ自分よりも大事なヒトなのに――
「タクト」
タクトの首から解けたネクタイを皴になるのも気に留めず握り締めて、その身体を引き寄せた。変わらない身長に頬を緋色の髪が掠め嗅ぎ慣れたシャンプーの香りが伝い、そこに僅かに混じる「誰か」の匂いに眉を顰めた。
――本当に、どこまでも邪魔をしてくれる。
だからって、今更だ。そう簡単にタクトを手に入れられると考えているのなら、思い知らせてやる。
あいつと――それから、こちらだけを見ていてくれないきみにも。
鏡映しのように寸分違わずそこにある赤い瞳を間近に覗き込んで、笑みに歪めた口唇で。
「だいすきだよ」
余所見なんて出来ないようにからめとってあげるから。


がんじがらめの紅い糸



タクトが好きすぎて、タクタクが好きすぎてつらい。
@11-0517

モドル
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