狂いゆく依存


だいぶ疲れが溜まってきたらしく、視界が霞む。焦点が定まらない状態で体に流し込むのはアルコール。徐々に体温は上がっていく…ただそれだけ。
空っぽ頭なはずなのに思い浮かんでくるのは彼のことばかり。出張先の仕事が長引いてしばらく会っていない。しばらく?たった三日なのに?…あぁ、どうしちゃったんだろう、私…。日に日に増していくのはお酒の量と「会いたい」という思い、もうどこにも行かないで欲しいという願い。ワンカップと一緒に置いておいたケータイの待ち受けを見つめたって連絡は無い。

「カイト……」

一度だけ、彼の名を呟いた私は意識の奥底へと沈んでいった。





翌朝、テーブルがケータイのバイブレーションで音を立て目を覚ました。画面の表示には「KAITO」の文字。

「…もしもし…?」

早く彼の声を電話越しでもいいから聞きたいという思いが早まり通話ボタンを押したが少し後悔した。また仕事が延びたという連絡なのか、そう思うと彼の声を聞くのが怖い。唇を噛み締め、彼の答えを待つ。

『あ、もしもしめーちゃん?もうじき帰れそうだよ』

彼の声を聞くと涙がこみ上げて頬を伝い落ち、それはテーブルに零したアルコールと混じり合って一つの水たまりをつくった。
焦る気持ちと早まる気持ちが私を支配し、震えた声が「あとどれくらい」と彼を問い詰める。

『うーん、そうだなー…』

その言葉を最後に暫く沈黙が続いた。
募る孤独に押し殺されそうになり、どうすることも出来ない私はただケータイをキュッと握りしめて次の言葉を待つことしか出来なかった。

「カイ…ト……?」

電話越しに名前を呟くがそれは朝のリビングに静かに溶け込んで消えてしまった。

―――不意に、背後から温かいものが私を包み込む。かと思えば聞こえたのは

「ただいま、めーちゃん」

という彼の声。慌てて振り返って椅子から立ち上がるとそこに居たのは紛れもなくカイトだった。

「…しかしまた派手に飲んだね。オレとの約束、忘れた?」

約束、という言葉とともに何とも言い難い倦怠感と激しい頭痛が襲ってきた。…そっか、そういえば私、飲酒量減らすよう頑張るってカイトと約束したんだっけ。テーブルにはおびただしい数のワンカップ、酎ハイの空き缶、一升瓶に散らかったグラス。

―――自覚なんてとっくにしてた。アルコール依存症だって。日に日に増してゆく摂取量は異常だとは自分でも気付いていた。でも抑えることなんて出来なくて、カイトには迷惑ばっかり掛けて…

「駄目ね、私…カイトとの約束すら守れなくて…」

寂しかった、一人で……一人で寂しくてそれを忘れようとしたらお酒に手が伸びてて。あと少しが結局いつも以上になってて。

「ごめんなさい………」

完全に呆れられただろうな、見捨てられただろうな…そう思うと頬を伝い落ちる涙は止まらなかった。

「…オレこそ、寂しい思いさせちゃってごめんね。」

だけどカイトは違った。再び、今度は正面からぎゅうと抱きしめられる。そう、私はこれを待ってた。カイトの温もり、一人じゃないという安心感。ずっとこうしていたい。どこにも行かないで、思わず本音が零れる。

「大丈夫、もうどこにも行かないよ。オレ頑張ってめーちゃん支えるから」

そうして再び、より強く抱きしめられた。温かくて彼の鼓動が伝わる。

「だから何かつらかったらオレに頼って。力になるから。」

耳元でそれとは別に何か言われたけど聞こえないフリして私はカイトの腕の中で意識を手放した。





▼あとがき

麗様のリクエストでカイトが好きすぎて
めーちゃんがおかしくなる話でした!

…ヤンデレためーちゃんを書こうとしましたが挫折に終わり、アルコール依存症なめーちゃんになりました;

珍しくオールシリアスです(笑)

こんなものでよろしければ
お持ち帰りください><


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