小悪魔
めーちゃんはモテる。異性はもちろんのこと、同性からもだ。当の本人であってもが受けた告白の回数なんて把握しきれないほど。ただオレが知ってるのは彼女は全ての告白を断ってきたということくらいだった。
そんな彼女に好きな人は居るのだろうか?
幼馴染みで、小さい頃から一緒だったオレたち。幼馴染みだったけどオレが彼女に抱いてしまった“好き”という感情。だけどそのことは伝えていない…いや、伝えられない。どうせオレのことを幼馴染みとしか見ていないであろう彼女に伝えたところで何がある?距離を縮めたいという願いと今の関係を壊したくないというジレンマ。
一人生徒会室の窓から外をチラッと見ればグラウンドでサッカー部や野球部が練習に励んでいるのが目につく。
あ、アイツってこの前めーちゃんに告って玉砕した奴だハハッ。
「はぁ…」
ため息が虚しく響く。
「…なぁーにため息ついちゃってー。幸せ逃げるわよ?」
「いや…めーちゃんって好きな人居るのかなー、なんて。」
思ってたんだ。
…いやいやいやいや、オレ今口に出したよね、言ってるじゃん!
我に返って振り向くと、いつの間にかオレ以外誰も居なかった生徒会室に現れためーちゃん。その後ろから同じ生徒会のメンバーもゾロゾロと入ってくる。
「あ、アンタいきなり何言うのよ…っ!
アタシはべべ別に好きな人なんて…!!」
ものすごい勢いで左右に手を振り、そして書記のがっくんが手にしていたプリントをかっさらって生徒会室を飛び出した。
「あ、メイコ殿、何処へ!」
「明日のミーティングの資料コピーしてくるっ!」
ピシャリと扉が閉まる。そして生徒会メンバーの間に流れる微妙な空気…。
「…あの様子だとメイコさん、好きな方いらっしゃるようですね。」
静まり返った生徒会室に、ポツリと議長のルカの声が響く。
…え!めーちゃん好きな人居るの!?
声には出さなかったけど心の中でそう叫んだ。自分の血の気がだんだん引いていくのが分かる。言われてみれば去り際、ほんのり頬が赤かったような…
「む、それは誠か。」
「メイコさんの数え切れないほどの告白を断った回数…これはつまり好きな人としか結ばれたくないという思いの現れでは?」
そんな議長と書記の会話をオレは呆然と席に座ったまま聞いていた。
めーちゃんの好きな人にオレは…勝てる?
成績優秀な彼女のことだ、馬鹿なんて相手にしないだろう。オレは頭がいいどころか赤点をいくつも抱え込んでる始末。その上運動だって出来るわけでもない。やっぱりオレは幼馴染みとしか見られてないな…。
「はぁ…」
再びため息が出たが今回は誰も相手にしなかった。
* * * * *
生徒会室の時計はミーティングの始まる時刻を示していたが、めーちゃんの姿はない。時間厳守を徹底している彼女が居ないだなんて…。ケータイにいくら電話を掛けてもコール音が鳴り響くだけで彼女の声は聞こえなかった。
ルカにめーちゃんを連れて来るよう頼まれたわけだが…さて、どうしたものか…。
「教室には居ない、下駄箱には靴はあるから帰ってないんだよなー…」
頭を掻いてさあ困った。ふと目についたのは屋上へと続く階段―――まさかな。
だけどオレの足取りは階段へ自然と向かいドアノブに手を掛ける。
一瞬冷たい風が外界から入り込んで思わず目を瞑ってしまった。開けた視界のその先に居たのは…
めーちゃんと
一人の男子生徒。
え、ちょ、待って、オレどうすりゃいいのさ!ええっ!
てかあの生徒って…
ちょっと前の話だ、生徒会の後輩女子たちが学校で一番カッコイいのは誰だなんて話をしていたことがあった。なんでもソイツは頭も良けりゃ運動だって出来る、オレとは対称的なタイプ。
今、その対称的な奴がめーちゃんと一緒にいる。めーちゃんは首を横に振って軽くお辞儀をするとこちらに向かってきた。
…どうすりゃいいの!?
慌てふためいていると男子生徒はめーちゃんの腕を掴む。彼女の方はというと少し嫌がっている様にも見えた。だから…
「…手を離せ」
二人の間に割って入って男子生徒を睨みつける。何だお前、といった様子でこちらを見るだけで手は離さなかった。
「メイコに手を出すな」
そう言うとさすがに諦めがついたらしく相手は舌打ちしてこの場を立ち去った。
その様子を見届けると少し安堵した。だがオレの今の行動はただ彼女を独占したかったにすぎない。こうやって誰かからの告白を邪魔して…。
彼女は今何を思っているかと考えると自身を襲う不安。
カイト、と名前を呼ばれ恐る恐る彼女の方へと振り返る。案の定困惑した表情の彼女が居た。
「……ごめん」
「何が?」
謝ると間一髪も入れずに聞き返される。
「いや…こんなことして……」
「何で?」
「……。」
やはり、邪魔をしない方が彼女のためになったかもしれない。でも彼女が他の男のもとに渡ってしまうことはオレには耐えられなかった。
「ほら、会議の時間とっくに過ぎてるから……行こ?」
声が震えていた。情けない、今にも泣きそうだ。彼女に背中を向けると腕をぐいと掴まれる。
「…逃げるの?」
その言葉に驚いて彼女を見ると眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいた。
「私は理由が聞きたいの。会議なんてどうにでもなるわよ。」
「それは生徒会長としてどうかと…」
「話反らさないの!」
「……」
もう話すしか無かった。どうせ幼馴染みとしか思われていないオレの片思いはここで散ると覚悟して。
「めーちゃんが好きだからだよ。好きだから他の男と一緒に居られるのが嫌だし、触れられたくなかった。」
「それでお終い?」
「え?」
「好きだから、何なの?」
「好きだから…そりゃあ………つ、付き合ってほしかった。」
「何よ、過去形?」
「いや、可能であれば今でもまだ…」
「だったらちゃんと言いなさい。」
彼女の真意がよく分からず、言われるがまま言葉にした。まさかこんな形で告白するだなんて。
「つ…付き合ってくだ、さい」
あぁ、完全に終わったな、オレの初恋…。よく言われてるよね、初恋は実らないって。でもここまでずっとめーちゃんしか想ってなかったって結構すごくない?…って、あのー…
「め、めーちゃん…?」
色々とブツブツと考え事をしていたらいつの間にかめーちゃんの腕はオレの背中に回っていて胸に顔をうずめていた。
「…その言葉ずっと待ってたのよ。」
「へ?」
我ながら間抜けな声だ。そんな声を聞いた彼女は顔を上げて真っすぐこちらを見つめる。
「今までずっとアンタからの告白待ってたのよ、ばか…。」
「え、ええっ!?じゃ、じゃあ…」
あたふたしているとめーちゃんはオレから離れて階段へと向かい、
「…私を待たせた罪は重いわよ?」
と悪戯っぽく笑った。
▼あとがき
アリス様のリクエストでカイトが告白を邪魔するお話でした!
最初はギャグで何人もの犠牲者を出す予定でしたがいつの間にかシリアスなお話になってしまい…;
何かあればいつでも書き直しいたします。
リクエストありがとうございました(^O^)