【クリスマスの夜にロマンティックな恋愛映画を恋人と二人で】


そんな誘い文句に一も二もなく飛びついてはがきを出した。
まさか当たると思わなかったけれど、ポストの前で15分祈った甲斐があって…懸賞が当たって右往左往した上に、誘い文句も言えず、差し出したチケットを見て彼女は嬉しそうに笑顔を見せてくれて一言。
『え、何これ、タダ?』
と宣ってくれたので、俺もうんと頷くしかできなかった。
ゆえにクリスマスの夜、お互い暇で、しかも、無料という言葉にめっぽう弱い彼女はせっかくだから恋人のふりをしてペアのネックレスももらってこようということになって…なんだか嬉しいような虚しいような複雑な気持ちで僕はクリスマスを迎えた。










「試写会は9時からだったわよね?」
「んと、そうみたい。あぁ、でも混雑するかもしれないから30分前にはって書いてあるよ」
「それくらいわかってるわよ…」

クリスマス当日の朝、どうせデートだと思ってるのは自分だけだと卑屈な思いで起きだしてきたらいつもは寝坊してくる彼女が起きていた。
決して朝が早い方ではないのに今日に限ってこんなに早く起きてるなんて期待してしまうではないかと。
いや、逆に映画中に寝てしまうのではないかと心配した方がいいのか?!
ぐるぐると頭の中を巡る思考に支配されている中朝の緑茶を飲んでいた彼女は僕の方にも緑茶入れてを差し出してくれて、試写会の時間を訊ねてきた。
もしかしてと、どきりと高鳴る鼓動をひとまず落ち着かせて、彼女の淹れてくれたお茶を飲む。
苦い…。

「それまで暇?」
「え?」
「買物の荷物持ちに付き合ってよ」

にっこりと笑った彼女はまだパジャマ姿。
きっと今からシャワー浴びて、着替えて…出かけるのはお昼ごはんを食べてからってところかな。
要するに午後いっぱいデートできるってこと?!

「よ、喜んで!」
「ん。じゃぁ決まりね。お昼ごはんも外で食べるからあんたも早く着替えてきて」
「え?シャワーは浴びないの?」

僕がそう聞くと彼女はなぜか急に顔を真っ赤にして、入った、と答えてそのまま部屋にずかずかと上がっていってしまった。
何が彼女の逆鱗に触れたのかはわからないけれど、なぜか怒らせてしまったらしい。
首をかしげながら僕も部屋に戻って着替え始めた。
お昼ごはんも外で食べるなんて…珍しい。





いつもの白いコートに赤いマフラー、赤い手袋。
白いふわふわがついた毛糸の帽子をかぶった彼女が部屋から出てきて僕は思わずぼうっと見つめてしまった。
こんな日に限ってなんでこんなに可愛い格好をしてくるのかな!!
なんだか嬉しいやら戸惑いやらであわあわと僕は酸素の足りない金魚さながらに口をぱくつかせてしまった。

ううぅ…隣に並ぶのも緊張する…。

「魚じゃないんだから…ほら、行くわよ、荷物持ち」

さっさと茶色いショートブーツに足を突っ込んだ彼女の足は黒いタイツを履いていてきらきらと輝いている。
あぁ…いつも以上に眩しい…。

「ちょっと、今日はどこもお店こむんだから、お昼食べ損ねるわよ」
「そ、それはちょっと困る」

すでに朝ごはんなしは確定だ。
試写会をする映画館の近くはショッピングモールがあって買い物もご飯もいっぺんに済ませられるし、試写会の時間もあわてなくて済む。
二人で電車に乗って、ショッピングモールについたのは腕時計の針が二つ仲良く重なる直前だった。
すでにモールの中は人、ひと、ヒト…

「こ、混んでるね」
「クリスマスセールやってるからよ。さ、腹ごしらえしたら行くわよー!」

嬉しそうにそう言って彼女が僕の腕をつかむ。て、て、手を繋いでくれてもいいのに!
そう思うけれど赤いミトン手袋に包まれた手は僕の黒いコートを可愛らしくつかんでいるだけで手には触れてくれない。
しかも、連れてこられたのはマック。

「ぇ…」
「文句言わない!お昼ごはんは腹ごしらえだけなの」

腰に手をあててそういう彼女は手袋をはずすと無造作にポケットの中に突っ込んだ。
普通の女の子は…カバンに入れるんだろうけど、彼女は物を持つのが嫌いでカバンすら持ってない。
財布はコートのポケットの中。
手袋もコートに入るように余計な装飾の付いていないシンプルなミトン手袋。赤。
携帯は基本的に携帯されないので意味がないし…。
あらゆる面で破格。
クリスマスにロマンティックでムード満点でオシャレなランチ…なんて考えた僕が間違ってました。

「チーズバーガー、セットで」
「僕はダブルチーズバーガーのセット」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「「コーラで」」

はもった瞬間、にっと彼女が歯を見せて笑う。
そういうところも好きだ。
いつものちょっと大人な高飛車な笑顔とは違って子供っぽくて…!!
と思っても僕は口をパクパクさせて赤面するしか能のないただの金魚です…。
「おまたせしましたー」
間延びした店員の声にやっと我に返った僕はトレイをもつと席を先に探して座っている彼女の元に持って行った。
大口を開けてぱくつく、ソースが口元についていても気にせずとりあえずすべて食べきる。
口を拭くのはそれからで、最後に一気にずずっと音をたてて飲み物が飲み干される。
…なんてかっこいいんだろう。
僕とは大違いだ。
ちまちまとポテトを食べていた僕は手の中のダブルチーズバーガーを見てこっそりため息をついた。

「ねぇ、あんたは何か見たいところないの?」
「え?僕?」
「そう、あんた以外誰が居んのよ」

特に買い物をする予定なんてなかったから、悩んでしまう。
できればお互いにペアの何かを買ってみたいけれど、映画でペアネックレスがもらえることを知っている彼女はきっといらないというだろう。
クリスマス限定のぬいぐるみ?
彼女の趣味じゃない。
指輪…なんて、付き合ってすらいないし、弟としか見られてないのに断られそうだし捨てられそうだし…あとは…お酒とかしか浮かばない。

「んー…特にないかも」
「なによもう」

僕の返答が気に入らなかったのかむぅっと膨れてしまった彼女にそうか、彼女自身に何が欲しいのか聞けばいいのかと思い当って同じ質問を彼女にする。
何か欲しいものがあるの?
少しニュアンスは違うけれど、尋ねた僕にさらに彼女は膨れてしまった。
あああああああなんで今日に限って僕は彼女を怒らすことばかり!!

「別にないわよ!」

そういうと彼女はがぶがぶとストローにかじりついて氷がとけただけの少し甘い水をずずっと飲んで席を立った。
ほんとに今日は…ついてないのかも。
がっくりと肩を落としてゴミを捨てて、不機嫌になってしまった彼女のあとを追う。
すごい人込みで少し目を離しただけで見失ってしまいそうで、あわてて僕は後ろからずんずん遠ざかってしまいそうな彼女の腕をつかんだ。

「み、見失っちゃうよ!」
「っ…しょ、しょうがないわね!」

モールの中だからか手袋は外したままの手が僕の手をぎゅっとつかんで…

あぁ、このまま死んでもいい。
それがたとえ迷子防止のための行為だとしても、僕にとってはかなり特別で意識はふわふわと軽くなる。
やっぱり今日はいい日かも。

そうして二人であちこち冷やかして回って、結局買い物に付き合って、荷物持ちだ、と言っていた割に彼女は何も買わないまま夕方になってしまった。
ちょっとトイレに行ってくる。
そう言った彼女が向かったのはものすごく混雑しているトイレ。
しばらく帰ってこなさそうだなぁっとぼうっと立っていたら目についたのはお昼ご飯を食べてすぐに入った雑貨屋さん。
欲しいなんて一言も言ってなかったけど、一瞬だったけれどすっごーくきらきらした目で見てた。
小さくて可愛いキーチェーン。
カップケーキの形のそれは赤と青とがあって思わず僕もほしいなと思って…彼女がいないのをいいことに二つ買ってプレゼント包装までしてもらって、そのままそっとカバンの中にしまい込んだ。

「おまたせ、そろそろ夕飯食べようか?」

時刻は18時。試写会に行くなら今からお店に入って…もしお店が並んでたら食べられないかもしれない!!
なんで予約しておかなかったんだろう!!

「う、うん!」
緊張と楽しさであんまりお腹はすいてないような気もしたけど思い切り頷いたら彼女はにっと笑った。
男としておしゃれなお店にスマートにエスコートしたいけれど、ここ数日ぐるぐるとしていた僕はディナーの予約なんて全く頭になくて…へこんだ。
そんな僕を見て、彼女はくすくす笑って、

「この私に任せなさい」

とんと胸を叩いた彼女が自然と僕の手を握ってくれるのが嬉しくてまた意識がふわふわし始める。
買い物中移動するときはずっと手をつないでいてくれたから少しは慣れていたけれど、やっぱりそれでもなんだか特別で足もとまでふわふわしそう。

「予約してたものですが」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

彼女が連れてきてくれたのはフレンチレストラン。
クリスマス特別コース3150円也の立て看板は完全予約制と書いてあって店内は落ち着いた雰囲気。
まさしくクリスマスにふさわしい“オシャレ”空間。
夢見た恋人同士のクリスマス。

「え?え?」
「あんたと二人っていうのは、なんかあれだけど。いいじゃない。街中がこんな浮かれてんだもの」
「ええええ?!僕でいいの!?」
「あんた以外あたしとご飯食べてくれる男なんていないわよ」

ぷくっと膨らんだ彼女のほっぺたがうっすら桃色で、これはもしかしてテレ隠し!?
いやいやそんなはずがない。でもこれはチャンスだ。
ディナーの予約もろくにしていない僕と違って彼女は用意周到に予約してくれてて、しかもクリスマス特別コースなんて…身に余る光栄…。
あぁ、なんだかまた意識が飛びそう。

「また魚みたいに…ほら、しゃきっとしなさいよ」

テーブル越しにぺちぺちとほっぺたを叩かれて正気に戻る。
食前酒のシャンパンは僕のはシャンメリーだったけど…そこはめげずに!!
次々運ばれてくる料理は綺麗で美味しくて、完全にクリスマスデート。まさか男勝りでガサツで女らしさをかけらも垣間見せてはくれないけれど時々ひどくデレてぼくをキュンとさせてくれる彼女が…まさか…まさかこんなサプライズしてくれるなんて…。

あぁ…泣きそう。


「デザートをお持ちしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、お願いします」

にっこりと笑った彼女は完全によそ行きの顔。
そんな顔、いつもしないじゃないかとウェイターにすら嫉妬しそうな自分を抑える。
なんせ、今目の前に座っていられるのは僕だ。
泣きそうを通り越した僕はにやけそうで必死に顔を整える。

「なにその気持ち悪い顔」
「気持ち悪いって…」
「何ニヤけてんのよ」
「べ、別に!」
「ほら、あたしからのクリスマスプレゼントよ」

彼女がそう言った瞬間運ばれてきたデザートは他の人が食べてるものと違う形で、首を傾げる。
あれ?コースってみんな同じじゃないのかな?
そう思っていたら、ウェイターが説明してくれた。

「こちらお客様のご要望によりアイスケーキになっております」

にこりと笑ったウェイターに一気に顔が熱くなった。
特別に、アイスが大好きな僕のために…!!

「めーちゃん!!」
「な、何よ」

テーブルをひっくり返さんとばかりに乗り出した僕にめーちゃんはすっと体を後ろに引いた。

「だいすき…!」

ふっとなんだか気が緩んでへらりとしまりのない顔で笑ってしまった。
思わず飛び出した言葉に僕が一番驚いてわたわたとしてしまう。
そうしたら、めーちゃんは俯いてしまってめ、迷惑だったかな?!
そう思って顔をのぞき込んだらめーちゃんの顔が真っ赤で…。
「ば、ばかっ…こんなところで…そんなっ…」
「え?え?」
「あんたがあたしのこと好きなのなんて…とっくに知ってるわよっ」

真っ赤な顔で真っすぐに僕を見て、射抜くような視線で、責めるような声でそう言われて、今度は僕の顔も真っ赤になった。
こ、これは?
え?これは?

「とっくに弟だなんて思ってないわよ」

ぼそりと呟いためーちゃんの言葉に今度こそ意識を手放しそうになってテーブルにがっちりと捕まった。
ずるい、ずるいよめーちゃん。

「ここまでしてあげたんだから、今日告白してこなかったら…ぶん殴ってやろうと思ってたわ」

男らしくそう宣言しているけれど、顔はいまだに真っ赤なめーちゃんの可愛さにもうくらくらする。
夢じゃないのかとぎゅっと手の甲をつねってみたらものすごく痛くて涙がにじんできたけれど、でも幸せ絶頂で顔はにやけたまま戻らない。

「すきー、めーちゃんだいすき」
「その締まりのない顔やめなさいよ」

ざくりとアイスケーキにフォークを突き立てて可愛らしいカップ型のそれを迷うことなく崩して口に入れていくめーちゃん。
かわいくて、かっこよくて、僕はもうめろめろです。

そして、ふと目の前のアイスケーキアイスケーキにそっくりで…。

「めーちゃん、僕もプレゼントがあるんだ」

ラッピングされたそれを渡したらめーちゃんはどんな顔をしてくれるかな?
開けたら喜んでくれるかな?
これ以上真っ赤になったらめーちゃんゆであがっちゃうかも。
あぁ、でもそんなめーちゃんも見てみたいな。

ニコニコと微笑みながら僕はラッピングを恐る恐る開くめーちゃんを眺めて、そうして、また見たこともないめーちゃんを目に焼き付けた。
あぁ…ほんとに、なんて可愛いんだろう。










映画の試写会の最中ずーっと手をつないで、こんなに幸せな気持ちで今日が終われるなんて思わなかったなぁ。
ずーっとずーっと、僕はめーちゃんが大好きで。
男らしくて、ガサツで、お酒が大好きで、でも、可愛い。
ぼくのめーちゃん。


「めーちゃん、メリークリスマス」

初めて交わしたキスは、さっき飲んだココアの味がしました。




Merry Christmas for you.


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可愛すぎるクリスマスデート…!!
おかげさまでクリスマス幸せでしたv

もう一生幸せでいてくださいな(*´∀`*)


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