クリスマス番外編
街中華やかに赤と緑で装飾され、男女のカップルが嫌でも目につく。そっか、今日はクリスマス―――。
私はそんなことなどこれっぽっちも考えておらず、会社近くの喫茶店でのんびりと、いずれ行われるプレゼンの資料に目を通しながらコーヒーを飲む。
近くに座る人々はチラチラと私を見ながら、あんな人が何で一人なのだろうと言う。別にそんなの人の勝手じゃない、仕事女とか思ってればいいでしょ。
そんな声をかき消すためiPodを取り出して音楽を流し込む。これでやっと自分の世界に入れるわ。
…といってもやはり何処か落ち着かない。周りのカップルを見渡すと出るのはため息。
ずっと仕事に追われた日々だったからだろうか、恋愛だなんて真面目にしたことが無かった。それに私は男が苦手だし…
「はぁ…」
やっぱり帰ろう。いつもの特等席で、しかも午前中からこれだもの、家に帰って―――
「 」
…?今誰か私を呼んだかしら?…それは無いか。
片付けを始めるためイヤホンを外すとハッキリとそれは聞こえた。
「メイコさん」
顔を上げるとそこに立ってたのはトレーを持ったカイトくんだった。
「あ…」
「向かい側いいですか?」
「い、いいわよ。ちょっと待って、今片付けるから。」
私は机の上に散らかった資料をまとめてクリアファイルに入れる。
まさかこんなところでカイトくんと…って何考えてんのよ私ったら…。
片付け終わり、彼はテーブルの向かいに座るとトレーに乗っていたコーヒーにスティックシュガーとミルクをたっぷり入れてかき混ぜた。
「…すごい量の砂糖ね。」
普段ブラックで飲む私にとっては信じがたい光景だったためか、思わず本音をこぼしてしまう。
「オレ、苦いのダメで…」
はは、と笑う彼を見て一瞬ドキッとしてしまった。今日は特別な日だからだろうか、私は重大なことに気付いた。
私、カイトくんのことが好き。
だって、彼と過ごす時間はとても楽しい。彼は今まで仕事に追われた日々に色付けてくれたような気がして。他愛のない会話でさえ私にとってはとても大切な時間に感じた。
「あの、メイコさん」
そんなことをぼんやり考えていると彼が声を掛けた。
「今日何か予定とかあるんですか?」
「特に何も…」
それを聞くとカイトくんは黙り込んでしまった。
え、何、何なの?
しばらくすると彼は両手の握り拳を膝の上に置いて口を開いた。
「よ、良かったら…その辺ぶらぶらしません、か?」
「…!!」
「や、あの、今日そこのツリーが限定色でライトアップされるらしくて…その…ていうか美人なメイコさんとオレなんか釣り合わないですよね!あはは」
私が驚きのあまり黙り込んでいると彼はしどろもどろに言い訳やら何やらを口々にしはじめた。そして再び訪れた沈黙。
「…私で良ければ。」
「え」
「だから!私で良ければ、って言ってるのよ!」
意を決して言ったのに間抜けな返答をされあろうことか逆ギレしてしまった。
「あ、ご、ごめん…」
どうしよう…私ったらせっかくのチャンスを自分で…
「もちろん喜んで!あ、どこか行きたいところありますか?荷物ならオレが持ちますよ!」
え…じゃあ今日私はカイトくんと一瞬に…
「ありがとう。」
今日クリスマスという特別な日に、特別な人と一緒に居られるだなんて夢にも思っていなかった。
―今日くらいはいいですよね?神様。
どうか素直でいられますように―。