「波瑠、なんで俺とデートしてくれないの?」
「私たちいつから付き合ってたっけ、神威くん。」
「確か一昨日かな、チューもしてるよ。」
「捏造もいいところだっての!阿伏兎助けて!!」
「へーへー俺を巻き込むのは止めろバカップル。」
「ホラ、阿伏兎もそう言ってるし、ラブホ巡りしない?」
「とりあえず神威くんの急所ぶん殴ってもいいかな。一箇所だけだしすぐ終わるから。お願い、好きだから。」
「好きならもう付き合おうよ波瑠、ね?」




 また始まったよ、この神威くんのだる絡み。朝からこれが始まるから嫌でも学校に来た気分がどっと押し寄せる。
 毎日毎日飽きずによくもこう私にちょっかいをかけてくるものだ。本気で好きじゃないならこんな風にしてくるのやめてほしい。本当複雑な気持ちである。弄ばれる気持ちにもなってくれ、頼むから。
 
 それに、最近は特にちょっかいの頻度が増えてきて、スケジュール表に組み込まれてるのかってくらいのレベルで日常化してるよ。
 ここ最近は阿伏兎もあんまり助けてくれないし…というか、助けてくれようとしたことはあったけど、神威くんにすんごい冷たい目で見られて腕ギシギシ掴まれてたからもう今は助けてくれなくなってしまった。神威くん許すべからずである。
 阿伏兎も許さねえけど、マジで。知らないふりして教室出て行くなんて裏切り者だ。




「神威くんはなんで私にちょっかいかけてくるの?」
「波瑠可愛いからさ〜、ちょっかい掛けたくなるんだよネ。」
「私だってもうちょっとさりげなくアピールされたりしたら、ドキドキするよ。」
「なんで俺がそんな恥ずかしい思いして波瑠をドキドキさせなきゃいけないんだよ。」
「神威くんの中に恥ずかしいなんて言葉存在してたなんて…」




 じりじりと近寄ってくる神威からじりじりと少しずつ離れる。こっちくんな!とふざけ半分で言ってみた。そうしたら、謎に神威くんはピクリとも動かなくなって、終いには俯いてしまった。
 波瑠の中には、え?どうした?と疑問符が浮かび上がるばかり。いつもなら聞こえな〜〜いとか言ってうざったらしくくっついてくるのに、どういう事なの?と。



「あ〜、神威くん?」
「…なに?」
「なんでそんなしょんぼりしてるの。」
「好きな子にこっちくんなって言われるの結構くるよ。」
「え………好き!?」




 待て待て待て待て、急に動揺させてくるじゃん、焦らすじゃん神威くん。
 驚きすぎて、目も口もガン開きしてしまった。
こういう時ってどうすればいいの。慰める?慰めればいいの!?よし、慰めよう、と思ったけどあまりに雰囲気が重すぎて今の私に下手なことはできない。何も喋らないほうが良いのかもと思い、少し黙ってみることにした。

 が、黙ったら黙ったでこっちが耐えられないからやっぱり話しかけてみることにした。



「かむっ、ぅぐッ、」
「波瑠黙って?」


 心配の声を掛けようと思ったら、思い切り口を塞がれた。ますますどういう状況なのか理解できない。神威くんが何がしたいのかも理解できない。振り払おうと思ったが、神威くんに並大抵の力で勝てるなんて思わないほうが身のためだと察し、されるがままに大人しくしていることにした。
 大人しくしていれば、なぜかじっとこちらを見つめてくるものだから何だか変に緊張してしまう。
 常に飽きるくらい神威くんを見てるはずなのに。



「波瑠。」
「ん?」
「もし俺が今手を離して、キスしたらどんな気持ちになる?」



 なんで今そんなことを聞いてくるのかと聞きたいけれど、口を動かせない。しょうがなく、わからないの意味を込めて首を少しだけ曲げることしかできなかった。
 


「そっか。それなら試してみようよ。」
「んっ、はぁ…神威くん…」


 試してみようの意味は、もちろんすぐに分かった。手を離し、置いてある机に追い詰められる。
 神威くんは机に手をついて、私が逃げないように軽く覆いかぶさった。彼の顔を見る限りおそらく本気なのだと思う。



「机座って、波瑠背が小さいからキスしづらい。」
「でも…私たち付き合ってないよ?」
「じゃあ付き合ってよ、波瑠の事本当好きだからさ。他の男のモノになるくらいなら俺のモノになって。」
「待って、えっと、その…神威くんは、本気なんだよね…?」
「本気だよ、さっきから言ってるだろ。」
「じゃあ私もホントの気持ち言わせて?」
「うん、いいけど。」
「私初めて神威くんに会った時、こんな素敵な人いるんだって一目惚れしちゃったのね。でも、神威くんが私にちょっかいかけてくる理由が、ただ遊んでるだけなのか、本気でそう思って言ってるのか私には分からなかったの。でも私の中では、きっと遊ばれてるんだってしか思えなくなっちゃって、諦めようって思ってる真っ最中だったんだよね。だから、なんて神威くんに返事返せばいいかわからないの…」




 今まで隠していた事を話したらなんだか全てが終わってしまう気がして、言わなきゃ良かったかなと思った。本音を話しただけなのに急に涙なんて出てきて、対処法が自分でもわからない。わからないけど、神威くんが涙を拭ってくれるから、もっと悲しくなってしまう。
 もう少し早い段階でこういう風になっていたら、もしかしたら私はすぐに答えを出せたかもしれないのに。
 今の私には、自分のことをあと一押しできる力がないのだ。



「波瑠、俺のこと好きだったんだ。」
「まあ…そういう事になる、ね。」
「今の気持ちが分からないなら、もう一回俺が惚れさせてあげるよ。」
「かむ、んっ……」




 唐突に出された言葉に波瑠が驚いた瞬間に、彼女の唇に神威の唇が重なった。背の小さな波瑠のために少しだけかがんでキスをした神威。
 名残惜しくゆっくり唇を離し、神威が波瑠の顔を覗き見れば、彼女の頬はさっきよりもピンク色に淡く染まっていた。


「恥ずかしいの?」
「…恥ずかしくないわけない。」
「本当俺が今まで見た女の中で誰よりも可愛いね。」
「うるさいッ!」
「そういうツンデレなとこも悪くないし。俺今すごい波瑠の事抱きしめたいんだけど、ダメ?」
「ん、ダメじゃないけど…」
「じゃあお言葉に甘えて。」




 ゆっくり腕を回してきて、優しく抱きしめられる。細身に見えるけど実はしっかり筋肉が付いていて、意外と胸板が逞しかった。
 なんで私こんなに落ち着いてるのかなって思って、自分のぶら下がった腕をゆっくり彼の背中に回してみる。少しだけギュッとしてみたら、彼もそれに答えるように少しだけ強く抱きしめてくれた。
 抱きしめられるってこんなに温かくて、人のことを幸せな気持ちにしてくれる。神威くんも今同じ気持ちなのだろうか。私と抱き合って、幸せって思ってくれているのだろうか。


「ねえ、神威くん。」
「ん?」
「……もう少しこのままでもいい?」
「俺ももう少しこのままでいいと思ってたところ。」
「ふふ、ありがと。」
「これからも波瑠と抱き合ったり、キスしたりしたいって俺は思うけど、波瑠は?」
「神威くんがそう思ってくれるなら、私もそう思える。」



 こんな私だけど面倒みてね、と笑って見せると、神威くんも珍しくふんわりとした笑みを浮かべていた。こんな風に笑う神威くんを見れるなんて、今日はとってもいい日かもしれないな。





「目閉じて。」
「ん、ふぅ、っ…」
「っは、」



 静かに降ってきた唇は、波瑠の小さな唇を割って舌を侵入させる。波瑠がチロチロと小さく舌を動かすのに合わせて、神威も少しずつ舌の動きを大きくした。
 
 歯列をなぞり、時折焦らすように唇を離す。寂しそうに見つめる波瑠の顔を見て、またもう一度唇を落とした。慣れないキスに戸惑いながらも応えようとする波瑠が可愛くてしょうがない。ブレーキをかけるのも精一杯だ。男なんてそんなものなんだろうけど。



「波瑠。」
「はっ、ん、、神威くん…」
「波瑠が好きになるのは俺だけでいい、他の男の事なんて考えるなよ。」
「うん。神威くんも私だけのこと見て。手離したりしないでね?」
「言われなくてもそうするさ。」



 怪しく笑って見せて、もう一度彼女に唇を重ねた。

戻る