空っぽな君と | ナノ

「痩せの大食いってやつだな、いつ見ても怖ェ。」
「私のお食事タイムにケチつけるなんて、怒りますよ。」
「ああそうか、悪かったな。支払いは遥花に任せらぁ。」
「あはははは冗談ですよ?今のは永遠に忘れて下さい!本当こんな美味しいお肉ご馳走してもらって、涙がちょちょぎれそうです。」




 あの電話から数日経った今、私は某焼肉屋さんに来ている。勿論、晋助先輩と。

 お互い酒も入って、久々に面と向かって会った緊張がほぐれた。とは言っても、別にお酒が入ったところで、先輩に変わった様子はないけれど。

 わざわざ今日は呑むため仕事場に電車で行ってくれたようで、仕事終わりに焼肉屋のある最寄り駅で待っていてくれた。
 やはり行動がイケメン、と言うか、ちゃんと先を考えて行動している感じがとても素敵だ。そして初めてお目にかかるワイシャツ姿はなんだか色気を感じてドキドキする。
 ここだけの話、一々反応が大きくなっちゃってる気がして、なんだか無駄に恥ずかしくなったりもしている。だからいつもと変わらず接してくれる晋助先輩には本当ありがたい気持ちでいっぱいだ。




「泣いてみろや。それに、敬語使うなって言った気がするけどな。」
「クセで出ちゃうんですもん。こっちの方が話し易いですし…?」
「…そうか、まぁ無理にとは言わねぇ。そのうち慣れれば良い。」
「そうですね。知らないうちにタメ口になってるかもしれないので!」


 その代わり、晋助先輩って呼んでたのは気付きましたか?と問えば、俺は遥花が思うほど馬鹿じゃねーからなと言われた。本当この人ってなんか変だよね、気付いてたって言えば良いのに。まったく、紛らわしい男だ。
 そもそも馬鹿にしてないってのコノヤロウ。とツッコミを入れつつ、眼の前で美味しそうに焼けたカルビを口に放り込んだ。



「遥花が食ってる姿見たのは大学以来か?多分。」
「一緒にお食事なんて久しぶりですもん。」
「相変わらずハムスターみたいに食うよな、幸せそうで何よりだ。」
「幸せですよ、晋助先輩と一緒にご飯食べれるなんて。」
「……ああ、幸せっちゃ幸せか。食べるだけでこんな幸せそうな顔するヤツ見れるのは。」
「まあ、そんな感じですね…あはは。」




 あはは、やば。今完全にそれっぽい本音が出てしまった。ポロリしてしまった。
 お酒のせいか、完全に思考回路が鈍ってる。ウワアってなりそうな気持ちと、顔を隠したくて動きそうな腕をぐっと抑えた。
 ちょっとした間が気になったけど、晋助先輩は特に何か気になっている様子もないし、もう気にしない方がいいかな、とは思ってるのは気になるのがコイスルオトメってものなんですよね。困ったものですね。
 
 自分のためにも一旦話を変えよう、忘れよう、ということで、思い出話でもしてみることにした。
 もちろん私だけが知っている、晋助先輩の好きなハンバーグ定食の話に決まってるじゃないか。


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