空っぽな君と | ナノ

「なあ、遥花。」









 テレビの雑音をかき消すよう静かに耳元に響くその声は、いつもと変わらず私の名前を呼んだその声は、やはり優しくて、でも何か煮え切らないような感情を含んでいるように感じた。

 なんですか?といつも通り返事を返すと、言葉が喉の奥に詰まったように黙り込んでしまう。
 彼の喉を塞ぐそれは、どんな言葉なのか。私にとって、幸せと感じられる言葉だろうか。それとも、優しくて残酷な言葉なのか。



 考えたら、私は怖くなってしまった。
 臆病者だった。
 彼に傷をつけられたくなかった。



 そう思った時には、既に私は彼の名前を呼んでいた。少しだけ驚いたような彼を見て怯みそうになったけれど、いっそ傷つくなら自分を全て明かしてから傷つこうと思った。

 もう引き返さないと決めた。










「晋助先輩、ちょっとだけフライングさせて下さい。」





 ああ、と小さく頷く彼の肩に、少しだけ力が入った気がした。







「私の気持ち、こんな風に伝えるのはずるいかもしれないです。晋助先輩が悩んでいる時に、かける言葉も見つけられなくて…」




 静かに話を聞いている晋助先輩。改めて素敵な人だなと思った。内面も、外面も。
 私はそんなあなたを好きになったんだ、好きになってしまったんだ。言わなきゃ、もう、溢れてこぼれてしまいそうなくらいにこのいっぱいな気持ちを。
 
 





「晋助先輩、私、」





 そう言った瞬間、




「……悪ィ、待ってくれねぇか。」







 予想もしなかった彼の言葉に遮られた。



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