空っぽな君と | ナノ





「…か……遥花。少しはマシになったか?」
「ん………最初よりは全然。でも、すぐにでも寝ちゃいそうです……」
「寝る分には構わねぇが、その格好じゃくつろげねぇだろ。」


 晋助先輩の家に着いてからなんだかウトウトが止まらない。むしろ少し寝ていたと思うけど。
 安心するというか、晋助先輩の部屋がとってもいい匂いがするからだろうか。このふんわりとした空間で、定期的に襲ってくる睡魔と戦うのは本当に大変なのだ。
 そんな今にも寝てしまいそうな私に、寝づらいだろうと部屋着を持って来てくれた晋助先輩。本当に気の利く人だ。優しすぎて頭が上がらない。



「気使わせちゃってすいません。私このままでも大丈夫ですよ?」
「大丈夫もクソもあるかよ。俺が勝手に持って来たんだから謝る事ねぇだろ。」
「……ありがとうございます。」



 手渡された部屋着を手に取ると、晋助先輩はポンポンと軽く頭を撫でてくれた。なにそれ嬉しすぎるよお〜と心の中で叫びながら、表に出そうになる感情の起伏を抑える。なんでこんなにかっこいいのかな、私の胸の高鳴りをどうしてくれるんだ。
 アルコールで血流が早いのか、先輩が素敵すぎて体が火照るのか。恐らく後者だと思うけれど。
 頑張れ私、平常心だ平常心。



「シャワー浴びるか?」
「へぇっ!?」
「どんな返事だよそれ、びっくりするだろうが。」
「あ、あはは、すいません。シャワーまで貸してもらっていいんですか…?」



 平常心を考えていたら案の定そっちに気を取られてしまい、予想もしない事に意味のわからない声を出してしまった。なんというか、恥ずかしさの極みである。
 少し笑いながら構わねえよと言う晋助先輩の顔を見たらちょっとだけ顔が熱くなってしまった。



「何から何までありがとうございます。お言葉に甘えてシャワー借りちゃいますね。」




 洗面所にタオル置いてあるから勝手に使えとリビングから聞こえる声に返事をして、脱衣所に入り服を脱いだ。
 浴室に入ると、少しだけ暖かな空気に身体が包まれる。浴槽に溜まったお湯も白い湯気を上げていた。どうやら私の意識が朦朧としている間に用意をしてくれていたらしい。酔っ払った私を介抱して家にわざわざ連れてきてくれて、お風呂の準備までしてくれるなんて。


「行動も、声も、笑った顔も、全部好きになっちゃったなぁ。」



 私の自意識過剰かもしれないし、晋助先輩が優しいだけかもしれないけど。
 単純すぎる私はまだまだお子ちゃまだから、浴室の鏡に映る自分と目を合わせて少しだけ笑ってしまったのは言うまでもない。



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