君が愛しいと気づいたから










「あ、んな....俺、俺........っ」





「?ユウジくん?ゆっくりでよかとよ?」





「俺、な.......」









千歳のことが好きやねん、とその言葉がどうしても続かなくて。

伝えたい言葉はわかっているのに、どうしても口に出せない。





そんな俺に千歳は優しく微笑んだ。









「ほら、ここ座りなっせ?」





「…おん」





「で、どげんしたと?」







隣の芝をぽんぽんと叩く千歳に促されて、俺は膝を抱えて千歳の傍に座った。

横眼でちらりとみてみると、いつもの千歳で。こないだ財前のことを睨んでた人物と同一人物とは思えないとか、今全く関係ないことを考えて、壊れるんじゃないかと思うほど脈打つ心臓を無視する。





全くもって今さらのことなのだが、俺が正直に千歳に好きだといったところでひかれるのではないかなんていう考えが頭に浮かぶ。

やって、千歳はきっと健全で普通な中学三年生で。普通に考えて男に好きって言われて喜ぶような男なんてめったにおらんやろ。

絶対気持ち悪がられて終いやん。口もきいてくれへんかもしれん。

…それやったらいっそ友達で居る方がええんやないか?

やって、やって…千歳に拒絶されてみ?絶対俺生きてどうしたらええのかわからへんし...

でもこれから先、千歳の隣にだれか俺の知らん奴がおるんも嫌や。

小春やって、折角応援してくれたのに、何も言わずに終わってええんやろか...?





でも、だって、それでも…



千歳のことが好き、それは紛れもない正真正銘の俺の気持ち。

でも、千歳に嫌われたくない、それも本心で。





俺の可哀想な脳みそが正しい答えなんか見つけ出せるはずもなくて

案の定思考回路が爆発して、涙がこみ上げる。





「…ユウジくん?...っ!泣いとっと?」





あぁ、駄目だと思った瞬間にはすでに俺の頬には涙が伝っていて。

千歳が心配そうな顔をして俺の顔を覗き込んだ。





「ちと、せ…」



「…どげんしたと?」



「ごめん、な…本間にごめん….っ」



「ユウジくん、泣いとるだけじゃわからんばい何があったかいってほしか..なんで謝っと?」



「千歳のこと、好きになったりしてごめん…っ本間きもいやんなぁ…」





予想通り、その場の空気が固まる。あぁ、終わったさらば俺の青春。

小春もごめんなぁ折角応援してくれたんに。





「じょ、冗談いいよっと…?」



「こんなこと冗談で言えるわけないやろあほ…っ」





また溢れてきた涙が俺の頬を濡らす。ぽたぽたと地面を濡らすそれを制服の袖で拭っていると、ふいに体が温かいものに包みこまれた。

















「….は?」



「だいぎゃうれしか!!」



「….はぁ?」





温もりの正体は千歳で、何を想ったかきつく俺を抱きしめてくる。

え、ちょ、待てや。なんやねんなこの状況?なんなん、こいつ…?





「お前、俺の言うた意味わかってんのか?」





「ん?わかっとうよ?」





「おまえ絶対誤解してる気しかせぇへんねんけど!わかっとんのか?俺が言うた好きはライクやなくてラブやラブ!!」





「俺もユウジくんのこと好いとうよ、もちろんラブたい!!」





「…嘘ぉ!!」





「ほんなこつビックリしたと!ユウジくんは小春ちゃんのことの好いとうと思ってたばってん…あれ?ユウジくん泣いとっと?」





「…っ泣いてへんわ!!みんなぼけぇ!!」





「はは、たいぎゃむぞらしかねぇ」





「っ、やってひかれるって思っててんもん…」







嬉しいやらびっくりしたやらで一度止まりかけた涙が再び溢れる。

どれだけ拭っても次から次へとあふれるそれは、俺の制服の袖を既にびしょびしょにしてた。

そんな俺に千歳はまた優しく笑って俺よりもひとまわりもふたまわりも大きな手で俺の涙をぬぐってきよる。そしてその手はなだめるように俺の頭を撫ぜる。

あぁ、もうただでさえ涙腺仕事してへんっちゅうのにこんなことされたら、本間にとまらへんくなる。





「そぎゃんないとったら目腫れてしまうけん、泣きやんで」





「そんなんゆうたって無理やねんもん…っ」





「むずかしかねぇ…あ、それなら…」





俺の髪をやさしくすくその手が気持ちよくて身を任せると、千歳の両手がそっと俺の頬に添えられて….





「…っな…!!」





「涙のとまる魔法たい」





俺の赤くなった目元に千歳の唇がふれる。驚いて硬直する俺を千歳はぐい、引き寄せてまた笑う。顔があつくて、俺は千歳の胸元に顔を埋めて、笑った。















「あ-、本間ないわ、千歳さん死んでください今すぐにほら」





「ん-、それは難しかねぇ」





「….っち」





千歳と財前はあのまま険悪なムードを保ち続けるんかと思いきや、案外、いつも通りやった。(まぁ財前の機嫌がいつもより悪い気が、しないわけや、ない、けど)

ぼーっとそんな光景を眺めてると、横で小春がくすりと笑う。





「ユウくんは本間に千歳のことが好きやねぇ」





そんなに見つめちゃって、とからかわれて、俺が顔を真っ赤にするのももう日常で。

…や、ちゃうで。別にみてるわけやないし。ただ何してるんか気になるだけであって別に…。



なんてことを必死で考えてる俺を小春が優しく見守っているのはまた別の話。





「こ、こら光、そんな物騒なこと言うなって、な?」





「うるさいっすわ、ナニワ。」





「えぇぇぇぇぇぇぇ!!ちょ、それは八つ当たりやっちゅー話やで!!」





「ま、そのうち奪ってみせるんで覚悟しといてくださいね。」





「ユウジくんを渡すつもりはなかよ」





「え、俺のこと無視!!??」







その後も殴られるは暴言吐かれるは、若干謙也が可哀想やったりするけど

まぁそれはそれとして。小春にからかわれて、顔を真っ赤にしてた俺は

光の宣戦布告を聞いてなかったりする。

















「ユウジくん」





「ん?」





「そろそろ部活始まる時間ったい。みんなまっとっと」







そういって、笑いながら差し出された手に、そっと自分の手を重ねた。

が、何故かその手を逆に掴まれて、千歳のもう片方の手が俺の後頭部に添えられる。



そっと重ねられた唇は、すごく甘かった。

フリーズして固まっていた俺は微かに響いたリップ音で我に帰り俺の頬は再び真っ赤に染まる。







「ほら、一緒に行くったい」





「…信じられへん…っも、めっちゃ恥ずかしい」





千歳に手をひかれて、顔を真っ赤にしてコートに現れた俺を、小春が楽しそうに笑いながらからかうまで、あと30秒。





end
 


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