間近で鳴り響いた銃声。重い振動。
突然やんだ肩の痛みと、突如感じた肩の重み。
それが何なのか、何を意味するのかを理解する前に、赤い血液が頬を伝った。


「...弥太、帰るよ。」

(...はい。)


頭の中ではきちんと整理されているはずなのに、心がついていかない。
さっき死んだのはクローンの聡明さんであって、本物の聡明さんじゃないことくらいわかってる。
...ガブリエラさんが、撃って動きを止めたのはクローンだ。大丈夫、ホームに戻ったら何時も通り聡明さんがいるはずだ。
そう、思う、のに。


足が震える。視界が揺らぐ。
もし、聡明さんがいなくなってしまったら、なんて縁起でもないことを考え出す頭に嫌気がさす。
どうしよう、どうしようと叫ぶ心。震えだした指先を、不意に暖かい何かが包み込んだ。



「馬鹿でしょ、君。」

(...はる、かさん...?)

「聡明さんがすぐくたばるような人に見える?普段あれだけうざいんだからしぶといにきまってるでしょ。」

(...そう、ですよね....すいません。)

「それより早く帰って手当てしてもらいなよ。肩、結構血出てるよ。」



あぁそういえば、と肩に手を触れた。クローンに噛まれた皮膚が裂けて血が服を染めていた。
遥さんの撃てという命令を聞けなかった。
クローンであっても聡明さんだから、という理由もあるけれど、それより、きっと___


「ほら、行くよ。」


僕の数歩前を歩いていた遥さんが再び歩き出す。少し暗くなり出した空の下、そのまま遥さんに手をひかれて歩き出した。



-----------

「本当、馬鹿だよねぇ...」

(何がだ?)

「撃つくらいなら、死んだ方がましだっていうのかな?」

(聞けよ馬鹿息子。)

「聡明さんってさ、クローンになってもうざいよね。)

(は?)


聡明さんと会話するのに少し嫌気がさして、そのままベットに仰向けに寝そべった。
何の話だと引き下がる様子もなく纏わりついてくる聡明さんを適当にあしらいながら目を閉じた。

僕の命令に嫌だと叫んだときの弥太郎が思い浮かぶ。
普段僕がなにをしても声なんて出さないのに。聡明さんのことになると....
自分が殺される、って時にまで弥太郎の心の中を支配していたのは聡明さんだった。
聡明さんの歯が弥太郎の皮膚を突き破った瞬間、弥太郎はそれでも構わないとさえ思っていた。
聡明さんに殺されるなら、本望だとでも言うかのように。


「....絶対僕の方が大事にしてるのに。」


僕だったら弥太郎に怪我をさせたりだとか傷つけたりしないのに。
聡明さんは弥太郎を傷つけてばっかりだ。荻さんの時は特にひどかったし...

自分の体がどれだけぼろぼろにされても弥太郎は聡明さんだけを見ている。
昔も、今も、きっとこれからもそれは変わらない事実だ。


「聡明さんなんて死んじゃえばいいのに。」

(おいこら。)


なのに何も気づかない組織のリーダーを人差指で弾いてやった。
ひっくりかえった羊のぬいぐるみを眺めつつ、小さく呟いた。


「いつか絶対僕が奪ってみせるからね。」


*****
聡明さんが荻さんの体に取りつく話と聡明さんのクローンの話が異常に好きです←
嫌だ!の弥太郎が可愛くてしかたないw
  




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