人は何かしらの使命を持って生まれてくると、昔誰かが言っていた。
それは神から半強制的に与えられたものか、もしくは己の手でつかみ取ったものか。
俺は残念なことに神様なんて信じていないから、この使命は自らの手でつかみ取ったものだと言い張ろう。

俺の生きる意味、と考えて思わず口元が緩む。だってそんなもの決まっているじゃないか。

俺の使命など、一つしかないのだ。俺の生まれた意味など、一つで十分。



「俺はシズちゃんを愛するために生まれてきたんだ。」





確かに俺は人を愛してる、愛してる、人ラブ!

でもそれは人生のスパイスにしかすぎない。ただ人生を楽しくさせるだけのもの。

人間は、ただの駒でいいじゃないか。俺のために、傷ついて、泣いて。いらなくなったら捨ててしまえ。

代わりはいくらでもいるんだから、ね。そうでしょう?シズちゃん。

代わりが効かないのはシズちゃんだけ。シズちゃんの代わりだけは誰もできない。唯一無二の、化け物...。



そっと、冷たい壁に手を這わす。

いつも触れる手触りのいい壁紙とは正反対の汚い、薄い壁。

耳を押し当て、声を押し殺して、笑う。

この薄い壁の向こうにシズちゃんが居るのだと思うと、嬉しさで体が震える。

盗聴器とか、カメラとか本当はしかけたい。でもしかけたところできっと優しい優しいシズちゃんは見つけてしまうのだ。

あの驚異的な力でひとつひとつ壊して....!あぁ、考えただけでも体が叫ぶ。嬉しい...嬉しい!シズちゃんが俺のために力を使ってくれるなんて...!!

でも、壊されちゃったら意味がないんだよね。だから残念。





「愛してるよシズちゃん。誰よりも何よりも。誰にも愛されない可哀想なシズちゃんを俺が愛してあげる。.....愛してる、だからシズちゃんも俺を愛して。...愛すべきなんだよ、愛さなきゃ.....シズちゃんの心も頭も全て俺でいっぱいにして...俺のことだけを考えて生きて。」





狭い部屋に夥しい数のコード。

電気はつけない。一応シズちゃん中ではお隣さんは空き家、なのだから。

暗い部屋。でも青白い光が充満する。そこに映る、データ。全部、君の。

基本的なデータは全て俺の頭の中に。何年も何年も見てきたから、頭の中にもシズちゃんの専用スペースができた。

映るデータ、シズちゃんの今日の記録。どこでなにをしていたか。

どこに取り立てに行ったかも、田中トムとの会話も全て調べ上げて。

だって、知らなくちゃ。俺はシズちゃんが好き、なんだから。好きな人のことはもっともっと知ってなくちゃねぇ...

どんなに知っても、知りすぎることはないのだから。





ふと、近くに落ちていたナイフが目に入った。

無意識のままにそれに手が伸びて、壁へと投げつける。

突き刺さる音と幽かに聞こえる、何かが破れる音。





「はは、命中。」





ぐっと力を込めて壁からナイフを、抜く。ひらりと、音もたてず舞い落ちる写真に写る1人の、女。

顔はわからない。だって今俺が、ナイフで抉っちゃったから、しょうがないよね。

邪魔な、女。シズちゃんに女などいらないのだ。あんな女、シズちゃんにとってマイナスな存在でしかないのだから。

シズちゃんの隣は、渡さない。だれにも、渡さない。俺の、俺の...俺だけの場所。誰にも怪我させない、絶対に。





でも、まぁシズちゃんが万が一、彼女が欲しいというのなら、俺はその願いを叶えよう。

シズちゃんの思うままに動く、冷たい人形として。

真っ赤に染められたダンボールに詰めて送ってあげる。シズちゃんの嬉しそうな顔が見たいから。





「...シズちゃんは君のこと、なんとも思ってないみたいだから残念だったね。」





コートのポケットからライターを出した。シズちゃんとおそろいが欲しくて、同じものを同じ店でそろえた。

燃える写真。下側からじわじわと、でも確実に燃える。

....ね、シズちゃん。この子今どうなってるかなぁ?俺からのプレゼント気にいってくれてると嬉しいな。

時計があと二時間進んで、明日を迎えたらこう呟いてあげようじゃないか。

人間である彼女への愛を込めて。





「....そんな子、いたっけ?..てね」







あぁ、シズちゃんが明日朝起きた時に、俺からのプレゼントを一番に受け取ってくれるように、と足元に落ちていた塊を掴む。

そっとドアを開け、シズちゃんの家の扉の前へそれを、置く。

寂しがり屋なシズちゃんのために、俺からの愛のプレゼント。

今日は、ドレッドにメガネを掛けたマネキンの首。...昨日はなんだったっけな?まぁいいや。

本当は本物をあげたいけど、まだそれは先にしようと思う。楽しみは後の方が嬉しさも増すからね。

1人ぼっちのシズちゃんが、寂しくないように。こうして俺がシズちゃんの大事な大事な人をプレゼントすれば、ほら、寂しくなんかないだろう?

お礼なんて、いいから、嬉しそうな表情をしてくれるだけで俺は満足だよ。





シズちゃんが、まだ俺のことを好きでなくてもなんの問題もない。

時間をかけてゆっくりと、骨の髄まで俺で染めてからでも遅くないんだから。

本当は今すぐにシズちゃんが欲しい。大好きなシズちゃん。その頬に触れて、撫でて。全部全部俺の物にしてあげたい。

シズちゃんが俺を愛してくれないぶん、俺がもっともっとシズちゃんのことを愛してあげる。ほら、なにも問題ないよ。

愛は大きい方がいいよね。だから、シズちゃんが俺を愛してくれるまで俺が愛を大きく育てておこう。シズちゃんきっと褒めてくれるよね。



そう思うと、今からその瞬間が待ち遠しくて待ち遠しくて仕方ない。

シズちゃん、と俺のこれが小さく廊下に反響する。そっとシズちゃんの家の扉に頬を寄せる。





「シズちゃん、愛してる.........。いや、愛してるじゃ軽いよね。」







人間に対する愛とシズちゃんへの愛をイーブンで表すことなんてできない。

シズちゃんへの愛は本物で、ちゃんと重さがあるものだから。

愛してるとか、そんな一瞬の感情表現じゃ、足りない。もっともっと、相応しい表現を探しておくよ。



だから、それまではこれで我慢しててね。





「......俺はシズちゃんを永遠に、アイシテル。」



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愛してるじゃ軽いとか思ってるくせにアイシテルしか伝えられないwww
そんなに病まなかったのでとりあえずパスなしで!(^^)!
......マネキンのくだり、一瞬生首にしようとしてさすがにやめました...
トムさんの生首はさすがに.....



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