部屋に充満する甘い匂い。
甘いものがそこまで好きじゃない俺にとってそれは苦痛でしかない。
が、残念なことに緩んだ口元は引き締まってくれない。

明日は2月14日。所謂バレンタインデーで。
正直去年までの俺だったら、こんな些細なイベントはスルーしていたはずだと思う。
祝う意味も誰かに何かを送る意味もわからなかった、というかローマのあるキリスト司祭が処刑された日なんて興味さえなかった。
別にバレンタインに告白したからといって必ず想いが叶うわけでもない。
実にくだらないイベント、なのに。


「...なんで俺も作っちゃうかなぁ...」


誰かに頼まれたわけじゃない。シズちゃんに至ってはバレンタインというイベントすら知らないかもしれない。
だから俺が作ってシズちゃんに渡したところで問答無用でどこかに投げられるかもしれない。
まぁそのときはそのときでシズちゃんを殺すまでだけどね。

俺とシズちゃんは特に特別な間柄、って訳じゃない。
言ってみればきっとおかしな関係だ。セックスはするけど、キスはしない。
殺し合いに近い喧嘩はするけど、シズちゃんは俺に好きだという。

嫌いだけど、好きで。愛してるから殺したくなる。こんな複雑な感情の名を俺は知らない。



「...甘い。」


どろどろに溶けたチョコレート。ヘラでぐるりとかき回していると人差指についたそれを舐めてみると、甘ったるい味が校内に広がる。
ぐるぐるとかき混ぜるのをやめて少しヘラを持ち上げてみるとチョコレートが独特の光沢を放ちながらどろり、とチョコレートの海へと落ちて行った。


明日朝一で池袋に行こう。シズちゃんを見つけ出してナイフと特別な甘い甘いプレゼントを。
きっとシズちゃんは眉間にしわを寄せて俺に何を企んでると聞くのだ。
シズちゃんのそういう顔は嫌いじゃないというかむしろ好きだ。うん、愛してる。
0.00000000001以下の可能性でシズちゃんが笑って受け取ってくれたならまぁそれが本望だけど。
投げられようがどうされようが正直渡すことに満足するのだと思う。
食べてもらえるかどうかは、そこまで興味はない。

ただ渡すだけ、というのもきっとつまらないよね?
というわけでバレンタインお決まりのセリフを口ずさんであげようじゃないか。単細胞なシズちゃんには理解できないかもしれないけど。


「Will you be my valentine?」


手に持っていたヘラを手放すと、チョコレートが四方に飛び散った。
このチョコレートの海がシズちゃんの心で、飛び散ったものがシズちゃんの愛だったら飲み干してあげるのに、と馬鹿げたことを考えながら
頬についたそれを指先で拭った。


(シズちゃんとのキスが、甘い甘いチョコレートの味でありますように。)



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....あれです、あれですよほら!キスするのは恋人だけとか思ってるんですシズちゃん!
キス以上のことしてるのに、臨也は自分のことをセフレとしか思ってないとかそういいのなのかもしれない←
臨也も臨也でシズちゃんの気持ちに気付いてなかったらいいな←
  


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