夕日が、地平線に落ちる。
帰り道の風景が、オレンジに染められる。空も木も花も家も、俺の少し前を歩く新羅の背中も、綺麗で、でも無性に悲しい、そんな色に染められた。
絡められた指と指が唯一俺と新羅を繋いだ。

手を繋いでいるはずなのに、確かに触れているはずなのに、俺は新羅に届かない。
隣にいるはずなのに、こんなにも近くにいるはずなのに、新羅はいつでも遠かった。
人間を愛してやまない俺と、首を持たない妖精を愛す新羅。
正反対のように思えるけれど、実際は正反対というよりも俺と新羅の間の距離は遥かに遠かった。
何年かかってもきっと辿りつけないほど、俺と新羅の距離は遠い。

そんなことを思いながら新羅の背中を見つめた。
俺より少し高い身長。帰り道の新羅はいつも急ぎ足だ。
...家に帰れば、首なしライダーが新羅を待っているのだ。新羅が心から愛す唯一の存在が、待っているのだ。
新羅が見ているのはいつでも、首なしライダーだけだ。それは永遠に変わらない信実。
でも、それでも今日だけは特別で。新羅は俺とほとんど変わらないペースで歩いていた。




放課後の誰もいない教室で荷物をまとめていると、前の席に座っていた新羅が口を開いた。
いつもと何も変わらない、何食わぬ表情で、何食わぬ口調で、でも突然唐突に新羅は言葉を紡いだ。
僕は首なしライダーを愛している、と。
新羅は、残念ながら馬鹿じゃない。俺の気持ちなんて、ほとんど最初から知っていたのだろう。
突然のことでなにも言葉を返せない俺に、新羅は少し笑って言うのだ。


「でも僕は臨也のことが好きだよ。」


その言葉は、俺が心から待ち望んだものであって、想定外の破壊の言葉だった。
好きでいてくれても、愛しては貰えない。ただそれだけの事実。好きは、愛してるには勝てない。
結局俺は、諦めるしか選択肢はなかったのだ。
新羅の瞳に映るのは首なしライダーだけでしかないのだから。


「......ずるいなぁ」

「そうだね、ごめん。」

「せめて好きだ、ぐらい言わせてよ。」

「...ごめん。」

「っ、大丈夫。君と首なしライダーの間を引き裂くようなまねはしないから、安心して。」

「...いきなり話が飛んだね。」


こぼれそうになった涙をこらえるために押し黙った俺に新羅は困ったような、でも優しい笑みを浮かべて手を差し伸べた。
動けない俺に帰ろう、とだけ言って新羅は俺の手を引いた。
そして、現在に至る。



いつも新羅と別れる道まであと坂一つ。
そこを上りきれば新羅は右に、俺は左に、曲がる。
今日、そこで手を離すのと同時に、俺は新羅への気持ちも手放す。
そう、決めた。
夕日に照らされて少し縦長になった影が揺らぐ。それが本当に揺らいだのか、それとも俺の目に膜を張った涙が揺らしたのかはわからないけれど。


そうこうしているうちに、坂を登りきった。
新羅が立ち止まって、ようやく振り向いて俺を見た。
そんな新羅に俺は笑って、ゆっくりと手をはなした。離れた手が、少し寂しい。
触れていた温もりを、どこまでも追い求めたかった。

「じゃあね、」

「…また明日。」

「ばいばい。」


新羅が後ろを向くより先に、俺が歩き出した。
北風が俺の髪を撫ぜる。数十歩進んだところで振り向くと新羅が曲がり角で曲がるのが見えた。
小さくなるその姿を、俺はいつまでも見ていた。
そして完全に新羅の姿が消えてから、小さく呟いた。

「…好きだよ、新羅。…いや、好きだったよ、かな…。」


初めての告白は、誰に聞かれることもなく冷たい風にかき消された。
マフラーに顔を埋めながら、初恋は叶わないという誰が言い出したか分からないその言葉を、
少しだけ恨めしく思った。



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臨也さんの初恋の相手が新羅だったらなぁというなにかですね、はい。
とりあえず9巻が新臨すぎて....!でも新羅にはセルティがいるから幸せにはなれないのかなと...
ちなみに、補足ですが新羅は本当に臨也のことが好きです。
でも、セルティを愛してるから臨也さんの思いには答えられないというなんかそういう話でした。
....途中から自分で書いてて意味がわからなくなってるのでかなり意味不明な話になってると思います...←
  


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