すきだよ、すきねぇあいしてるんだわかってよ、うけいれてよ
おれだけをみておれだけをおもっておれだけをきらって

おれだけを、あいしてよ



「シズちゃん」


呟くような声で、臨也が俺の名前を呼んだ。その声につられて振り向くとつい先ほどまで眠っていたはずの臨也がベットに座っていた。
以前にもましてより一層白くなった肌。髪も少しばかり伸びて整った顔立ちに儚さが宿った。
赤い目が、暗闇の中で揺れる。そこには鋭さもなにも、なかった。

ふと目が覚めたのは、確か10分ほど前のことだ。
水でも飲もうと思って隣で臨也がぐっすりと眠っているのを確認してからベットから抜け出した。
俺を呼んだ、その声にあきらかな不安の音色が含まれていて、背中に冷たい汗がつたった。



「....悪ぃ起こしたか?」

「どこに行くの?」

「.....臨也?どうした...」

「おいていかないで、1人にしないでよ....!シズちゃん、シズちゃん...し、ず....」

「.....俺はどこにもいかねぇよ。大丈夫だ、大丈夫だから落ち着け臨也。」



慌てて駆け寄って、震える背中を抱きしめた。シズちゃん、シズちゃんと臨也が俺を呼ぶ声だけが部屋に反響する。
臨也の手が俺のシャツを掴む。その様子を見ながら俺は臨也を抱きしめる手を少し、強めた。






折原臨也は壊れたのだ、と新羅は言った。
原因もなにもわからないども付け足して新羅は目を伏せた。

それは本当に突然だった。
だって俺は、新羅から連絡が来るつい一日前にも臨也と殺し合いをしていたのだ。
少なくともその時までは、臨也は俺の知る折原臨也であったのに。新羅から電話がかかってくるほぼ一日の間で、臨也は壊れた。
まるで、ガラスの置物が地面にたたきつけられて壊されたかのように。砕け散った破片を集めても臨也は、元には戻らない。
誰に言われたわけでもない、それは俺の直感が告げていた。

新羅から連絡があってから、新羅宅に向かったまでの記憶はなかった。気がつけば息も切れていて、ドアを開けていた。
いつもは俺の言うことなど聞いてくれやしない力もその時ばかりは大人しくしていてくれたのか、いつも壊すドアは無事に開けられていた。


玄関で待っていてくれたセルティに導かれて俺はリビングへと入った。
そのにはいつになく真剣な表情を浮かべた新羅と、ぼんやりと宙を見つめる臨也が、いた。

いつも嫌いだった笑みも、胡散臭い言葉もなにも並べずに、ただ折原臨也はそこに存在した。


「臨也.....」


思わず名前を、よんだ。声が掠れて、震えて。一度ゆっくりと瞬きをして、臨也は俺を見た。
そして今まで無表情だったのが嘘のように優しい笑みを浮かべた。今までみたことのない、優しく素直な笑みを。



「シズ、ちゃん....」


差し出された手を、思わず握って引き寄せた。






ぐすぐすと泣き続ける臨也の涙を舌ですくった。自分の行動の意味などわかりはしないが、勝手に体が動いた。
俺の舌が臨也の頬に触れると、臨也の頬に僅かな笑みが宿った。
張り付いた前髪を整えてやると、その手を臨也が弱弱しい力で掴んだ。


「好きだよ、シズちゃん。好き、好き...愛してる。」

「あぁ....」

「好きなんだ、誰よりも何よりも....っね、し..ぅ.ちゃ...」

「好きだ、臨也。」


いつもこの言葉を口にするたび、思う。どうしてもっと早く伝えることができなかったのかと。
どうしてもっとはやく伝えなかったのかと。
俺が一番伝えたい相手は、もうどこにも、いない。もう二度と触れることすらできない。遅すぎたのだ、俺も臨也も。


「あは、幸せだなぁ....」

「......」

「でも、いいよね。これは俺の中の幻想(ユメ)なんだから、幸せになってもいいよね。」

「あぁ、」

「はは、まだ覚めたくないな。.....ここでならずっとシズちゃんと一緒だもん。」


そう言ってあどけなく笑った臨也の唇を、無理矢理に塞いだ
触れた唇は冷たくて、どこかほろ苦く悲しい味がした。


********
臨也さんは幸せを見せてくれる夢に食べられてしまったのです。
現実のシズちゃんは、臨也さんに甘い言葉をささやいてはくれない。
でも夢の中のシズちゃんは優しく抱きしめてくれて。
だんだん好きが溢れて、こらえ切れなくなって。現実を捨てて夢を選んでしまったただそれだけのお話。
ちなみに本当はシズ→←イザです。二人が気付けなかっただけ。
もっと早くにお互いが一歩踏み出せてたら幸せに、なれたのに踏み出せなかったという
  


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