いつも、俺は一人部屋で待ってた。
いつもと言ったら少し大げさかもしれないけど、よくリビングでコーヒーを片手に夜を明かした。

今日は早く帰ってくる


そう言ってシズちゃんは笑った。けど。現在夜中の1時、帰ってくる気配なんて、ない。
嘘つきだね、今日は早く帰ってくるって言ったじゃないか......、なんて思う俺がどうかしているのかもしれない。


本当に嘘つきなのは俺、の方だ。
寂しいとか、悲しいとか。そういうことは思っていても口にしない。柄じゃないのも分かってるし、シズちゃんに弱みを見せるのも嫌だった。面倒な奴だとか、思われたくないし。
今日だって仕事が伸びてしまったかもしれないのに。いつのまにか自分のことしか考えられなくなっている自分にも嫌気がさす。


つきあって間もないころは、もっと一緒にいたのに。と少し昔を懐かしんでみたけど、結局気休めにもならなかった。
でも、ここ最近。シズちゃんとの距離は離れてくばかりで。
シズちゃんの仕事が休みだとおもったら、俺の仕事用の携帯が鳴り響く。

正直、不安じゃないわけじゃないんだよ。
だってシズちゃんの外見は人の目を引く。中身を知らなかったら女だって寄ってくるだろう。

もし、シズちゃんの目の前に優しくて、素直で、なにもかもシズちゃんの理想通りの女が現れたら、俺はどうなるんだろうか。
捨てられるくらいなら、自分から断ち切って逃げるけれども。


両手の人差指に嵌めた指輪をはずした。
もし俺が女だったら、シズちゃんの子どもも生めるのにな、とそんなことまで思い出してため息をつく。



「さびしいよ、シズちゃん......早く帰ってきて。」


掌の中で遊んでいた指輪が軽い音を立てて落ちる。カラカラと音を立てて転がっていったそれを、見慣れた金髪が拾い上げた。



「.......帰ってたの....?」

「あぁ、今な。」

「.....まさか、聞いてたりしないよね.....?」



さびしい、だなんて聞かれたら笑われるに決まっている。
そう思うと自然と頬が熱い。どうしようもなくて、片手で顔を覆っていると、シズちゃんが俺の隣に腰掛けた。
そしてそのまま、俺の手をとって指輪をはめる。触れた指が冷たかった。
やっぱり仕事が伸びただけなのだとどこか安心している俺がいた。


「......臨也。」

「......なに?」

「悪かった、今度からはちゃんとメールすっから。」

「.....うん。」


顔中にたくさんたくさん降ってくる唇。
額に、頬に、鼻先に........最後に、唇に。
少しタバコの匂いがするシズちゃんの首へそっと手をまわした。

  


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