体が、沈む。
そんな感覚がする。俺は今確かに両足を地につけて立っているはずなのに。
内側から、崩れる。バラバラと音を立てて崩れる。おかしい。世界はいつもと同じだ。
そう、俺1人がおかしい。


__何、が?


一際大きく揺らいだと思った瞬間、落ちた。それは本当に文字通り落ちた。
深い深い海に?それともここは湖?......わからない、何もわからない、ただ心が痛い、胸が苦しい。
ただ自分の体がやけに重くて沈んでいくのだけはわかる。


__どうして?


水面を通して見える月がなく。苦しくなって、息を吐き出した。ぼこぼこと眼前を浮上していく二酸化炭素。
無性に泣きたくなった。叫びたくなった。助けて、と。ねぇ、助けてよ....×××××


__ねぇ、君はさっきから誰を呼んでいるんだい?


首をひねって下をみた。底など見えない、深い深い闇。あぁ、俺は闇に落ちるのだろうか。
別にそれでもいい。構わない。でも...俺は、俺、は......?


手を伸ばした。体は相変わらず沈んでいくけれど精一杯手を伸ばした。
月が、欲しいのだ。俺はあの金色に輝くあの月が。



__そんなの無理に決まっているじゃないか。何を今さら足掻のさ。お前はもう上がれないんだ。さぁ、さっさと沈んじゃえよ、折原臨也。



ぐい、と体を引かれた。闇から伸びる無数の手が俺の体を掴む。いやだ、離せ、俺は、俺は..........!!
名前を呼んだ、彼の名前を。でも、酸素を取り入れられていない体は限界だった。
薄れゆく意識、指先の感覚がだんだんなくなっていく。

無数の手が俺を引きずり込む。ぐいぐいとすごいスピードで。月が離れて行く。俺は近づきたいのに、月が離れる。
わずかに光るそれを、目に焼きつけながら思った。



(.....ねぇ、月が綺麗だよ。....シズちゃん。)



その思いが言葉となるまえに、俺は闇に消えた。


__さよなら、もう一人の俺。シズちゃんへの恋心を抱いたまま、どうか安らかに





ふいに意識が覚醒した。チクタクという時計の音を聞きながら折原臨也はあがった息を整えた。
いったい何の夢を見ていたのだろうかと思い返すも、なにも思い出せない。
ただ真っ暗な夢だったなとそういう記憶しか残っていなかった。


彼の中で、平和島静雄という1人の人間を愛した折原臨也は、息絶えた。




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自分が死ぬ夢をみるのは何かが変わる前触れってどこかの誰かが言ってたような気がする
  


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