折原臨也にとって人はある意味駒なのかもしれない、とふいに彼女、矢霧波江は眉間に皺を寄せた。
自分を有利な位置に立たせるための切り札としての駒、または自分が生き残るための犠牲となるべく駒。
両方ともが折原臨也が自己を貫くために使われ、壊される。

最初は彼らが望むところまで臨也が手を引く。甘い、甘い砂糖菓子のような言葉で心の隙間を浸透させて。
やがてその浸透した言葉は、彼らの心に何か、そう得体の知れない何か、黒くてけれどもまっすぐな何かを芽生えさせる。
そうしてその芽が十分成長し満開を迎えると同時に臨也はその花を折るのだ。
幼子が無邪気に蟻の群れを踏みつぶす如く。
彼はいたって純粋で、歪んだ心で人を絶望へと突き落とす。その者の精神が壊れ、腐っていくのを微かに笑みを浮かべながら。



「.....それで人が好き、だなんて...」

「なに波江?どうしたんだい、いきなり」

「.....別に何でもないわ。」

「人は好きだよ。何よりも愛してる。これほど興味深く、哀れなものはないからね。」

「ただ一つだけ、言っておくわ。人間はあなたを絶対に愛さないでしょうね。」

「そりゃどうも。」


波江の棘の多い言葉にさえ、さわやかな笑みを浮かべて臨也は再びパソコンへと視線を戻した。
開かれているのは、ダラーズの創始者、巷で有名な首なしナイダー、そして自分が傷つくことを恐れる少年、狂った双子と何とも言えない面子がそろったチャットルーム。
折原臨也は指を踊らすかのようになめらかに、キーボードの上に這わせた。
軽快な音とともに入力されていく本来とは違う性別の持ち主のような離し方をする文字。


「....それ、片付けなさいとは言わないからせめて後で整理しておきなさい。」

「ずいぶんと母親のような物言いだねぇ..」

「気色悪いからやめて。」


波江の冷たい視線に臨也は小さく笑いデスクの上に散乱した写真を整える。
尋常でない数のそれは一枚一枚違う人物が映っている。
勿論誰一人として視線はこちらを向いていない、所謂盗撮と言うやつだ。


竜ヶ峰帝人、紀田正臣、園原杏里、運び屋、闇医者、粟楠会の幹部の面々。門田や遊馬崎までも、丁寧に1人が一枚におさまっている。
彼はよくそれを並べては笑う。ひどく冷たく、でもどこか泣いているような声で。
これ、はね、俺のために消えるんだよと、呟くように言う臨也に時に波江はぎょっとする。
その表情はいつもののように嫌味な笑みを浮かべた臨也ではなく、ひどく空っぽで虚無感しかないようなものにすぎない。

折原臨也は滑稽だ。到底愛することもできない全人類を愛していると豪語し、見返りと言わんばかりに愛されることを望む。
それが口先だけのものなのかは不明だが。
愛していると言いながら、彼は人間が苦しみ嘆きもがく姿をよく見かける。自らがそう仕向けて。人間を壊す、それはそれは徹底的に。


その結果として彼はいつも1人になる。それを本人はたいして気にしていないような素振りをするのにどこか寂しげに感じるのは何故なのだろうか。


写真の束の間から、ひらりと床に落ちた一枚を折原臨也は少し驚いた表情を浮かべてから手に取った。


そこに映るは決して最凶と相容れることのない、最強。
それは唯一折原臨也のために朽ち果てない、特別な駒である。
臨也の甘い言葉にも、常識にも従わない。愛すべき対象から外れる人物。


「大嫌いだよ、シズちゃん。死んじゃえばいいのになぁ...」


一つ、大きな嘘をついた折原臨也はまだ知らない。ガラスに映る自身の顔がひどく泣きそうなのを。
折原臨也は知らない、平和島静雄こそが唯一ふらふらしている彼自身をここへと繋ぐ枷であることを。



「誰か殺してくれないかなぁ.....。」



自分の心にまでも嘘をつく青年は知らない、内に秘めたるその想いが、もう許容量をオーバーしていることを。
こうして今日もまた、平和島静雄は折原臨也の圧倒的に黒の駒が多い盤の上で、唯一の白の駒として存在し続ける。


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タイトル無関係です、ごめんなさい←
強いて言うならば意味分からないもの書いたことに対する後悔ですね、はい;
原作6巻やっと買いました←
これ、一応6巻の感想なんだと思います...
  


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