そう、それは突然起こった。
まず初めに頭上から低い声が降ってきた。おい、とだけ発せられたそれにつられ顔を上げると俺の左腕を引く、池袋の喧嘩人形...平和島静雄の姿が目に入った。
あれ、なんでシズちゃんがここに居るの?仕事は?
と一瞬の内に溢れかえる疑問は再び頭上から降ってくる声によってかき消されることとなる。臨也、と名前を呼ばれた。平和島静雄でない誰かが俺の名前を、呼んだ。
先刻のシズちゃんの低く冷たい声よりも、もっと優しい声が降ってきてその声の人物を理解すると同時にその人物は俺の右腕を引いた。
「え、何ドタチン?どうしたんだい?珍しいね....」
「おいこら臨也、ちゃっかり俺のこと無視してんじゃねぇぞ。」
「久しぶりだな、臨也。今日このあと予定、あるか?」
「いや、ないけど?」
「門田、勝手に話進めてんじゃねぇ!手前の用事なんてどうでもいいよな?いつもの人の予定狂わしてんだからそれぐらい許されるよな?と、いうわけだこれから顔貸せ。」
「.......予定がないなら今から少し時間を貰えないか?」
全くもって意味が分からない俺は、頭上で繰り広げられる会話についていくことすらできない。
途中で会話を断ち切られたドタチンはどうやら数秒の沈黙の間にシズちゃんの発言は無視することに決めたらしい。
二人とも、どうやら俺を連れ出したいようだが一体何を企んでいることやら......。
逃げ出そうにも、俺より背の高い二人に腕を......そう腕を!(大切なことだから二度、言っておくよ)しっかり掴まれているわけで
逃げ出そうにも逃げ出せない。と、いうかこの御二方は平日の昼間にこんなところにいていいのだろうか?
仕事、しなくていいの....??
「......門田、死にたくなかったらその手離せ。こいつは今から俺が貰ってくんだよ。」
「断る、お前ももういい年した大人なんだからいい加減そういうところ直したらどうなんだ。」
「あぁ?」
「.......はぁ、とりあえず静雄。お前が臨也の腕を離してくれないか?」
「........ねぇ、ちょっとほんとになんなの.....」
状況を把握しようにも一向になんの説明も行われない。
あぁ、めんどくさいと思わず心の中で悪態をつく。
もしここでドタチンとどこかに行くという選択肢を選んだところでシズちゃんはおそらくずっとついてくるだろう。
後ろから刺すような殺気を送られながらどこかに行くだなんて、まっぴら御免だ。
逆にシズちゃんとどこかに行くとしたところで.............、いや問題はないんだけど、なんかドタチンに申し訳ないっていうか、ね。
かといって、某少女漫画の純粋無垢な主人公のように満面の笑みでどうせなら3人で行こうよ!なんて提案は却下、だ。あんな選択肢は、所詮夢の中の夢、だ。現実問題3人で行ったところでただ単に状況を悪化させているにすぎないじゃないか。
この険悪なムードの二人に挟まれてどこかに、なんてある種の死刑みたいなものだろう。あぁ、家に帰りたい。チェックしたい情報だってたくさんあるというのに。
本日最大のため息をついたところで、俺の視界に見慣れた白衣が映った。
「「.......あ、」」
ばっちり3秒目が合う。混じり合う視線と沈黙。その人物は俺の姿をまじまじと見た後、背後で繰り広げられる二人の争いに目をやり口元に嫌な笑みを浮かべた。
にやり、とそういった効果音がつきそうな笑みを浮かべたそいつは、そのままこちらへと寄ってきて、
「おいでよ、臨也。」
俺の腰に手をまわした。突然のことであったからか、もしくは言い合いに熱が愛っていたからか、はたまたその両者か。
俺の腕を掴んでいた二つの手は、緩んでいて俺の体はそのまま、目の前の人物___岸谷新羅の腕の中におさまる。
「おい、てめ.....っ!」
「新羅、いつも間にお前....!」
「何言ってるんだい、二人とも。臨也は今日俺と過ごすんだよ。ね、臨也。」
「え、あぁ.....うん。」
.......初めに言っておくが抱き寄せられてときめいた訳じゃない。急な展開に驚いて早くなった鼓動を感じながら、新羅のいうことに適当に相槌を打つ。
間違いなく、このなかだったら新羅と一緒に居るのが安心だと(だって今日のドタチン、なんか変だし)思って新羅の手を握る。それに一瞬驚いたあと、新羅はまた笑って
「それじゃあね、また今度。」
「え...あ....っ」
「...な!おい!!」
「........はぁ.........」
珍しく全力疾走する新羅に手を引かれて、俺はそのまま新羅宅まで走ることとなった。俺よりほんの数センチ高いその後ろ姿に、小さく呟いて、みた。
「ねぇ、....新羅.....」
「......なんだい?」
「......好き.....って言ったらどうする......」
「え、何今さら?.....知ってるよ、そんなこと。」
ようやく立ち止まったその男は振り返ってきょとん、とした表情を浮かべる。今さら何を言い出すんだ、というようなその顔に思わずこちらの顔が赤く、なる。
そんな俺を、また新羅が笑う。
「ねぇ知ってるかい?」
「え....?」
「今日はね、いい夫婦の日なんだよ。」
「いい、夫婦の、日......」
「そう、だからね。今日は一日中良い気持ちで良いことをして良い日にしなくてはならないんだよ。そんな日に君をあいつらにあげるはずないでしょ?」
玄関の扉を開けながら、新羅はそう言って心底楽しそうに肩を揺らす。
だから、今日は一緒に良い日にしようね、と新羅はそう言って静かに俺の唇を塞いだ。
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勿論、そのあとは言葉通り『イイコト』をされるんだと思いま(ry
あぁ....新羅出すつもりじゃなかったのになぁ←
当初はドタ+シズ×イザの予定でしたwww
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