**臨也
目の前が、ぐらぐら...する。
なにこれ、すっごい気持ち悪いんだけど。
「...っはは、当たり前、か」
油断してた、としか言いようがない。
まぁ、静ちゃんと出会ってはや一年と三ヶ月。
毎日毎日喧嘩、基殺しあい三昧してるんだけど、
まぁきっとそれがまずかったんだろうね。
俺に物理的攻撃をしかけてくる奴なんて静ちゃんしかいないと思ってた.....
まさか、学校帰りにこんなことになるとは、ね。
5人って最悪だよね-
2人は伸ばしたんだけど
残りの奴らに手拘束されちゃってこの様。
ま、顔と名前は覚えたから、後で俺らしい方法で仕返し、してやるから楽しみにしててほしいなぁ.....。
「でも、.....そのまえにどうやって帰ろうか....」
鳩尾に何発か入ったのは別にいいんだけど、頭を思いっきり壁にぶつけられたから痛くて、気持ち悪くて仕方ない。
血が出てないだけ、見た目的にはましかもしれないね。
目を開けてるのが面倒になってきて、重い瞼を素直に閉じた。
いつだってそうだ。こうやって、何か予期しない事態が起こったとき一番に思い浮かぶ人物は、365日変わらない。
「........ドタチン.....」
「....、おう。呼んだか。」
まるで子供向けのアニメのヒーローのように。
君は絶対俺を助けにくるんだ。
「ぼろぼろだな......お前らしくない。」
「.......仕方ないでしょ、人数的にも俺の方が不利だったんだ。」
「どうせそんな不利な状況を招くようなこと、したんだろ」
「......」
ドタチンは、優しい。
それこそ優しすぎるくらいに。
俺とドタチンはきっと同類ではない。はっきり言って俺とかかわらない方が彼のため、なはずなんだけど。
ドタチンは俺がまとわりついても、嫌なそぶりを一つも見せずに俺を受け入れてくれる。
今みたいに。
汚れた俺を背負って、新羅のところまで運んでくれたりする。
目の前の制服を、ぐしゃりと握ってみた。
「.....、なぁ臨也.....」
「ん、なに?」
「喧嘩、ほどほどにしとけよ。あと静雄にちょっかい出すのも」
俺から喧嘩を仕掛けるなんて、まずないし。それに静ちゃんについてはあっちが勝手にキレて追いかけてきてるだけだ。
本当に静ちゃんは扱いにくい。言葉もなにも通じない、あれは驚異的な力を持った化けものだ。
ありのままの事実を述べた俺に、ドタチンは盛大なため息をひとつついて。
ごつん、と俺に頭をぶつけた。
「......いた.....。ねぇ、俺一応頭打ってるんだけど」
「色々とお前が悪い。そんなに恨みばっかり買ってるといつか殺されるぞ。」
「.....。心配してくれるの?優しいねぇ....。」
「........」
ドタチン
と、目の前の彼を呼んでみた。彼の肩がなんだ、とでも言いたげに竦められた。
「ねぇ.... 」
俺の言葉は、木々を揺らす風に流される。
しばらくの間、誰も何も。言葉を発しない。俺もドタチンも世界も、固まったままだ。
「悪ぃ、聞こえなかった。」
「......君は確かに優しいけど、その優しさは俺には残酷だよ。」
再び吹く風が俺の髪を撫でる。
俺は眠るように、俺の知る限りこの世で一番優しく、同時に残酷な彼の背中でそっと意識を手放した。
**京平
「.....臨也?」
「.....」
ぐったりしたまま動かない臨也に小さな声で呼びかけてみる、が勿論反応なんてない。
あぁ、気を失ったかと冷静な自分がいた。
臨也は突然俺の前に現れた。
全くかかわりが無かった俺に、突如なついてきた。
こいつの性格がよくない....というか最悪なことは知っているが放っておけないのが本音だ。
俺はよく弱ってる臨也を拾うことが多い。
今日みたいで街中で拾うこともあれば、静雄との戦争のような喧嘩のあとで倒れてるのを拾ったりする。
見捨てておけばいいのかもしれないが、どうも俺以外の奴が最初にこいつを見つけるのは気に食わない。
「ねぇ....好きだよ、ドタチン。」
臨也はよくその言葉を口にする。
いつものようなとげとげしい言い方ではなく、すごく弱弱しい言い方で。
でも、俺はいつも聞こえないふりをする。
受け入れてしまえば、こいつが俺の手の届かないところに行ってしまうような気がする、ただそれだけの理由で。
だったら俺はこの微妙な距離を保っていたい。
「......好きだよ、俺も。」
俺の返事を臨也はずっと、知らないまま俺にまた拾われる。
******
両思いなのに、結ばれない。
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