走る、走る。どこまでも、行く宛てもなにもないが。
それでいい。
決まった未来などなんの面白みもないのだから。



暗い暗い、池袋の路地裏。響く複数の足音と怒声。
それは今さっき俺がめちゃくちゃにしたある組の人間のものだ。
躍起になって俺を捕まえたところで何にもならないのに、ねぇ。
でも俺はそういう反応は好きだ。無意味で滑稽で、素敵、じゃないか。


人間の心は隙が多い。心は鍛えようがないから。耐性を持たない体のようだ。
少しの種をまけばあっと言う間に広がって、侵される。
それがいくつも連なって、パンデミックのようになる。
そうなれば、世界は俺の思い通りに動くのだろうか?

いや、きっとそれはないんだろうね。残念だなぁ.....。
大抵の人間は俺の予想通りに動いてくれるんだけど、いるんだよねぇ。
ごく稀に、予測不可能な人間が。



ふ、と思わず笑みが漏れた瞬間後ろで激しい音がなる。
と、同時にあがる悲鳴。そりゃそうだよね、吃驚するよね。突如上から自動販売機が降ってきたんだから。
俺を追ってきた奴らが見事なまでに巻き込まれ、動きを停止する。




「....い〜ざ〜や〜」

「本当、俺の行く先々になんでいるのかなぁ」

「臭ぇ臭ぇ...お前の匂いが充満して気持ち悪ぃんだよ。だから死ね。」

「意味わからないね、相変わらず馬鹿だね。君は」


俺の行く手に立ちふさがったこの男がその典型的な例だ。
この男には理屈も道理もきかない。本物のバケモノだ。

シズちゃんの心にはつけ入れない。哀れな人間は俺を受け入れるのに。
優しい言葉をお望みなら24時間囁き続けてあげる、もちろん本心からじゃないけど。
可哀想だと時折嘲笑も交えて。


シズちゃんは笑う。顔には出さないけど、俺の生き方を笑う。無様だと、卑劣だと。
近寄ろうとすれば本気で突き飛ばされる。似たもの同士過ぎる、いうなれば磁石のS極どうし。お互いに反発し合う。
ふれられそうでふれられない。俺たちはそんな距離だ。

俺はシズちゃんは好きじゃない。寧ろ大嫌いだと声を大にして叫ぶ。
俺を受け入れてくれない彼など、俺の世界にはいらない。

くだらない感情はやはり邪魔だなと、視線を逸らした___


目の前で風を切る音がした。
俺が一瞬気を抜いたのをシズちゃんが見逃すはずもなく、気がつけばコンクリートの壁に押し付けられる体。
悲鳴を上げる全身。折れてたら本当、笑い事じゃないんだけどね。



「......痛いんだけど」

「知るか、」

「......ねぇ、シズちゃん」



俺は君が一番嫌いだよ、と小さく呟いた。すると目の前のバーテンは一度動きを止めてから、憎たらしい笑みを浮かべた。
吸っていた煙草を真ん中で折り曲げ地面へと投げ捨て、片足で踏みつける。
その一連の動作を目で追っていると、ぐっと強い力で顎を掴まれ無理矢理に上を向かされる。

そして君は言うんだ。
青筋を浮かべたその表情で。
もっとも残酷で、美しい言葉を。


「あぁ、俺もだ。俺も手前がこの世で一番嫌いだ。」


降り刺さる言葉の刃。でも君の前で屈するなんて死んでもごめんだと、するりと袖の中からナイフを取り出し振りかざす。
どろり、と溢れだす赤は俺の体から流れ出たものかそれとも心から流れ出たものか。
それは未だにわからない。だから、また俺は走る。シズちゃんが俺を追いかけてくる限り。

俺がその答えを手に入れるまで。


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ベンゼン!←聞きながら書くとこうなった!(^^)!
まったくもって関係がな(ry


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