「ねぇ、シズちゃん」

「あ゛ぁ?何だよ、ぐちぐちうるせぇなぁ。池袋には来るなっていつも言ってるだろうがよぉ....なぁい〜ざ〜や〜くん」


お気に入りのファーコートの襟を片手で掴まれて、地面から体が数センチ浮いてる。
あぁ、なんでこうなってしまったんだと思っても遅い。
結果として池袋の喧嘩人形こと、平和島静雄につかまった時点で俺の今日これからの運命は決定したも同然だ。

くるり、と手の中で一度ナイフをまわしてからその切っ先をシズちゃんに向けるが残念なことに、人間離れした彼の体の皮膚すら傷つけることなく粉砕された。
さよなら、俺のナイフ。ナイフを粉砕されるのは一体何度目だ.....。



「服、離してくれないかな。君にはわからないと思うけど、コレ結構高かったんだよねぇ」

「俺の知ったことじゃねぇな」

「うわ、これだからファッションに興味のない奴は.....」



俺は平和島静雄がキライ。
だって、俺の何倍ものスピードで進化し続ける。
高校一年生のときにはまだナイフで赤い線を引けたはずの腹筋も今では1センチも刺さることはない。
喧嘩という名の殺し合いを始めた時、まだ俺の方が有利だった、そりゃもう確実に。
でも、その差は徐々に狭まっていって、結果抜かれてしまった。
今じゃ俺が本気で逃げたところで逃げ切れることなんて本当に稀でしかない。


それに、


この平和島静雄という男には理屈も道理も、常識もなにもかも通じない。
常識をはるかに超えた力で、何もかも気にせず突っ走られたら
相手してる俺だって、思考回路が閉ざされるわけで。
なによりも考えなしに行動してしまう俺自身が嫌だ。
皮肉な言葉は並べられても、頭の中のコトバがシズちゃんの前じゃ違うコトバになって口から放たれる。


「だから、シズちゃんなんかキライなんだよ....」

「そうか、珍しいな。俺も同じだよ」


俺も手前が大嫌いだ、とにやりと笑うシズちゃんを横目に俺は自嘲気味に笑う。


あぁ、確かに嫌いだ。こんなバケモノ。
俺が愛してるのは人間だけだからね。

でも、シズちゃんだけだった。
俺に従わず真向に向かってきた駒は。
俺の思い通りになんて全くならないで、単細胞のくせに鋭くて。
何度も何度も骨折させられたし、痛い思いはしてきたけど...。


俺はそんなシズちゃんが好きだ。
誰にも流されず、ちゃんと自分を持っている彼が。



「.....この世で一番嫌い....だよ」


スキと心が叫ぶ。全身に血を送るたび、心が叫ぶ。
嫌いという言葉がいつの間にか俺の心にぐさりと刺さる。痛い、けど抜くのも痛い。
俺の残念な口が今日もまたひとつ大きな嘘を吐く。

イタイイタイ、でも痛みなんて知らないふり。
嫌い、でも好き。愛してる。でも大嫌い。

心が土砂降りの雨でも、俺はまた口端を釣り上げて笑う。


(この気持ちは、死ぬまで心の奥底で眠る)



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いざいざの心はすっごく複雑だと思う今日この頃←
ある種の乙女心....??いや、ちょっと違うよね...
  


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