愛、なんて知らない。
だって、そうでしょ?それは、俺にとってヒツヨウのないモノ、なんだから。
これまでも、これからも。
愛されることは、知らない。俺が知っていることは、ただ愛すこと。
一方的な感情だとしても、愛されることになれるよりましだと思った。

人の気持ちはうつりゆく。
いつか、その気持ちが変わって、突き放されるのなら。一時でも甘い夢は見たくない。




シズちゃんにとっての俺は、俺にとってのシズちゃんは、知り合いであって、もっと深い関係で、でも拒絶し合う。
多くの矛盾を含んだ関係。
コイビトであって、ただの......?することはしてるし、一緒に眠ったりもする。
でも、だからといってそこに愛があるのか、と言われれば困る。
俺は、シズちゃんが好きだ。あの人間離れした力さえも愛してあげるほど。
でも、シズちゃんが嫌いだ。俺を見ない、シズちゃんが嫌いだ。

スキでスキで、大キライ。愛してる、けど、殺したい、憎い、悲しい。

手を繋いで、くだらないことで笑って
ときどきキスをして。
それくらいの関係で、よかった。別にそれ以上のことは望んでいなかった。
四六時中、俺の傍にいて、だとか、俺だけを見ていて、だとかそんなことは望んじゃいない。


せめて温かい雰囲気を、と変えた俺の部屋のカーテンが風になびく。
花を散らせて、緑の葉をつけた木がまだ少し冷たい風に揺れる。
部屋の中の空気が冷たいのは、きっとまだ夜が冷えるからだ、と無意識のうちに言いわけをするように思った。
わかっているのに、こうやって現実から逃げる俺はどれだけ惨めなのだろうか。


横になったまま、白いシーツを指先で辿る。つい先ほどまで確実に俺の隣にあったはずの温もりを探してみたけれど、
そこにあるはずの温かさはなかった。
ベットの端に腰かけたシズちゃんの背中に手を伸ばしてみたけど、ぎりぎり届かなくて、音もなく俺の手は再びシーツに落ちた。
冷たい、空気。きっとなにか些細なことで粉々に砕け散る。



「......」



シズちゃんの口端がくっとあがる。誰に向かって?いや、何に向かって??
答えなんて、一つ、じゃないか。
闇の中で光をはなっている、携帯に、だ。


ね、シズちゃん。
珍しいよね、そんなに嬉しそうな顔、してるの。....俺には全然笑いかけてくれないのに。
いっそ嘘笑いでもしといてよ。
そしたら俺も君の嘘、見逃してあげるから。



「     」



シズちゃん、と呼んだ、
そう、呼んだつもりだった。声は言葉を作ってくれなかったけれど。
呼べなかった。


カミサマとやらがいるとしたら、きっとこう言っているんだろう。
シズちゃんの幸せの邪魔をするな、と。
そうだとしたら、よかったね。
君を愛してくれる誰かと、結ばれればいい。
四六時中、メールしてる彼女と付き合えばいい。そしたら結婚だってできるし、こどもだって....
街中でどうどうと手をつないで、幸せを謳歌すればいい。


ほら、君が望んでた幸せが目の前にあるんだよ。
さっさと俺を捨てて行けばいいのに。はっきりと別れを口にしないのはシズちゃんがやさしいから?
...同情なんかしないでくれないかなぁ本当。大丈夫、傷つくもなにも俺はシズちゃんの愛を知らないよ。

というか、あれだよね。俺の目の前でいつもメールするくらいの勇気があるんだから、ふるなんて造作もないこと、でしょ?




俺とシズちゃんの間に愛なんてない。愛、なんて、ない。
1人だけがまだ思ってるなんて、滑稽で、ひどく惨めだ。



「静雄」


名前を、呼んだ、。これで、最後だと、今までにないくらい気持ちを込めて。
でも、それでもシズちゃんは振り向いてはくれなかった。


話かけても、気づいてくれないなんて、ね。結構ひどいよね。
音もたてずにベットを抜け出して、部屋をでる。
どこへ行くかを聞かないのは、たんにここが俺の家、だからなのだろうか、それともまた別の理由?


そのまま、ゆっくりと部屋のドアを閉めた。これで、終わり。何もかも終わり。
1人は幸せになる。もう一人は、....どうなのだろうか?
でも、シズちゃんが笑ってくれるのなら、贄になっても構わないとさえ思う自分がいて、どうしようもなくなる。



「....大嫌いだよ、シズちゃん」


メールの新規作成の画面。
打ち込むのはいたって簡易な文章。
さよなら、今までありがとう。ただそれだけ。


ポケットに手を入れると触れた、冷たい何か。
シズちゃんの家の合い鍵。
....もう俺がもっている意味もなくなった。

そっと、無機質なそれに口づける。伝えられない愛してるの気持ちを込めて。


シズちゃんの家の鍵は、ポストのなかに入れておくから、
帰る時にでも俺の家の合い鍵と入れ替えておいてね。
朝まで家は空けておいてあげるから、それまでに帰ってもらっていいかな


「愛してるよ、シズちゃん。....だから嫌いだ....」


本当は俺だけをみて、笑ってほしかった。もっともっと抱きしめてほしかった。


「....ばいばい」


送信完了の画面のあと、おれは電源を落とした。




愛、なんて知らない。
知らないからイラナイ。きっとそれは俺にヒツヨウのないモノだから。


愛なんて、イラナイ。
その感情は、人の心にイタミしか与えないから






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シズちゃんが浮気者だったら...というそういう妄想です←
  


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