プワソン・ダヴリル



久しぶりに訪れた池袋はいつもと変わらず色んな人間が居た。
春休みを満喫する家族、友人とはしゃぎながら歩く高校生。

「...あぁ、俺は君たちのことが大嫌いだよ。」


1人呟いたその言葉は春風に吹かれて、消えた。
と、どうじに思わず笑みがこぼれる。今日は4月1日、エイプリルフールなのだ。
嘘をついても良い日。隣を通りすぎた恋人同士が四月馬鹿に便乗して大嫌いだと言いあって笑いあう午前11:50。

4月1日、エイプリルフール。今でもその根源はわかっていない。
いくつか仮説はあるものの、確実な証拠もなく仮説の域にとどまるしかない、そんな謎のイベント。
他の国じゃ、新聞が嘘の記事を掲載したりニュースがニュースジョークを伝えたりする。

こんな日に、俺がここに来た理由はひとつ、だ。
人間のくせに人間でない、化け物に会いに。


ただ今すぐ見つかるわけにはいかない。もう少しばかり時間がたってからじゃないと意味がないのだからと、彼に見つかりにくいところに身を寄せる。

窓ガラスを通して見える池袋は少し輝いて見えて、反吐がでそうだった。










しばらく時間をつぶして、ようやくシズちゃんに見つけられるために外を歩く。
探す必要なんてないのだから、俺はわざと人ごみの多いところで足を止める。
そして息を止めてカウントダウンを始めるのだ。
シズちゃんが俺を見つけるまで、あと___


「臨也君よぉ、池袋に来るんじゃねぇって言ってんだろうが」

「シズちゃんって俺のこと見つけるの本当に早いよね、ってあぁそうだ。」


地を這うような声が鼓膜を揺らして、口元が歪む。
無意識のうちに言葉をつないで、気づく。今日はエイプリルフール。俺はあることのためにここに来たんだから。


「....ねぇ、シズちゃん。大好きだよ。」

「あぁ?何気持ち悪ぃこと言ってんだ手前...!!」

「好き好き、愛してる、シズちゃんらぁぶ!」

「...何企んでやがる...!!」


満面の笑みを浮かべて、愛の言葉を口にする。嘘の言葉。嘘の話。
シズちゃんの表情がひきつるのがわかって、心が喜びの声をあげる。もっと、もっとだ。もっとその顔を歪ませて...!!
シズちゃんの両腕が俺のコートを掴んだと思ったら、固いコンクリートの壁に押し付けられる。
青いサングラスの下の鋭い獣のような目が俺を射抜く。


「いいかげんにしろ...何考えてんだ...??」

「....大好きだよ、シズちゃん。世界で一番愛してる!!....ふ、は...あははは、ははははははは」

「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせぇなぁ!!そんなに殺されたいか?」


風を切る音。そして壁が砕ける音。ちらりと横を見れば、無残に割れた壁のかけらが音をたてて地面へと叩きつけられたいた。
煩いと思うのなら、牽制ではなく本当に俺を殴ればいいのに、平和島静雄という人物はいつもこうだ。
優しさを捨てきれない、化け物。だから苦しむ。どうしようもない力を持ったことに、他の人から恐怖の目を向けられることに。
人間でいることをすっぱりと諦めたら楽になれるのに、と声には出さずただ思った。


「...まだわかんないかなぁ?今日は何の日?それぐらい分かるでしょう?」

「...今日...?しがつ、ついたち.....っ!」

「正解、エイプリルフールだよ。」

「そういうことか。めんどくさいことだけ便乗してくるよな手前はよ、」

「折角のイベントだよ?人が何を思いどうこうどうするのかに興味があるんだよ。」

「....、上等だ。俺は手前が一番好きだ。臨也、愛してる。」

「....あきちゃった、じゃぁね、シズちゃん。あ、追いかけて来てね。」

「っ手前!!」




ふいをついてシズちゃんから逃れて、そのまま走る。人ごみの中をただ、走る。
さすがにこの人数じゃシズちゃんも追いかけてこれないみたいで、あっさりと逃げ切れた。







ふいに立ち止まってみると、体の底から湧きあがるような笑いがこみ上げて来て、こらえきれず声に出して笑う。


「はは、あはははっ!本当馬鹿だなぁシズちゃんは...」


きっと彼は知らないだろうけれど、嘘をつくのは午前中。でも今はもう13時なのだ。
俺が彼に言った言葉も、彼が俺に言った言葉も、午後に言った言葉。
嘘に見せかけた、真実。シズちゃんはきっと永遠に俺の言葉の真意に気がつくことはないだろうけれど。


「ありがとう、シズちゃん最高のプレゼントだよ。」


コートの中に忍ばせておいたボイスレコーダーを取り出して、思わず口づける。
シズちゃんのさっきの愛の言葉は、俺のものなのだ。
嘘に見せかけた真実と、真実に騙された嘘。
この愛の言葉のなかに、真実の愛なんかなくても構わない。偽りの愛でも、欲しかったのだから。シズちゃんの愛が。


心が少し、痛かったけれど、気づかないふりをして笑う俺は、いつでも、これまでも、これからも、永遠にペテン師なのだ。
他人も、自分をも永遠に騙し続ける、悲しきペテン師。



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大遅刻ですが四月馬鹿小説です←
午前中だけ嘘をついていいってのはたしか英国式ですよね...??
本当は甘いの書く予定だったんですけど、大嫌いを言い合うのが日常茶飯事な二人なのであえて好きを言わせてみようとした結果がこれですwww
プワソン・ダヴリルはフランス語表現のエイプリルフールで日本語にすると「四月の魚」らしいですwww

とりあえず、ろっぴが書きたい...
誰か私に八面六臂臨也を下さい!!
  


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