(静←←←臨+セルティ)




その日新羅にトイレットペーパーと電球を買うのを頼まれ、そのお使いの帰りに彼と会ったのはきっと全くの偶然だった。きっと、と言うのはもちろん私の希望だ。

「やあ、運び屋」

颯爽とコートを靡かせ近づいてきたのは、情報屋折原臨也だった。
どうも私は彼が苦手である。
どこが、と尋ねられれば困るが、とにもかくにも相容れない存在だ。新羅に言わせると、相容れられたらむしろ自分が困る、らしいが。
「今、時間いいかな。仕事の話じゃないんだけど、長い話じゃあないからさ」
嘘つけ。
首のない私は胸中で呟くことしかできないし、もし声が出たなら遠慮なくその言葉を彼にぶつけていただろう。
それくらい、彼の言う「長くない話」は信用できなかった。
しかしどう喚いても私が声を発することはやはり不可能で、仕方なくPDAで「問題ない」と告げる。
彼はよかった、と綺麗な顔で微笑み、そのまま天気の話でもするような調子で私に声を投げつけた。

「俺は、シズちゃんが嫌いだ。シズちゃんも、俺を嫌いだ」
なにを今更。そんなことは今更確認されなくとも分かっているし、きっと本人たちのほうが私よりもそれを深く理解している。
『それがどうした』
「でもさあ、違うんだよ。俺とシズちゃんの想いは、全くの逆方向にベクトルが働いてるんだ」
全く話を聞く様子の無い臨也に今更呆れたりもしない。今のこいつは、ただ自分の話を聞いて欲しいだけなのだ。それを分かっているので、これ以上余計な口は挟まない。
「俺は、シズちゃんのことだけが、特別に、嫌いなんだ」
幼子に語りかけるかのようにゆったりとした口調。
しかし、その唇にはありありと自己嫌悪と自嘲の意が見てとれた。
「でも、シズちゃんは違う。俺だけを特別嫌いなわけじゃない。ただ、嫌いなもののうちのひとつ。俺は特別じゃない。ただ、彼の愛から切り離された存在なだけなんだ」
情報屋は空を仰ぐ。眩しそうに目を細めるさまと先ほどの言葉がどうにも結びつかなくて、混乱しそうになってしまう。
つまり、なんだ。

『お前は、静雄に愛してほしいのか』
「……面白くないね、それ。君、ユーモアのセンス最悪にないよ」
『お前を笑わそうなんてこれっぽっちも思っていない。お前はなにを言いたいんだ』
そう言うと彼はくるりと一回転してみせ、別に、と呟いた。顔は無表情を作ってはいるが、声だけはまるで拗ねているので少し面白い。なんだ、こいつは私が思っているよりもずっと感情を隠すのが下手で、素直で、幼いのではないか。

「ねえ、シズちゃんに俺を特別だって思わせるにはどうすればいいと思う?」
臨也は比較的感情をこめない静かな声で、ただ呟くように尋ねた。その顔がどこか思いつめたようで、私ははっとしてしまう。
彼は学生の頃から気づけば静雄のことを口にしていた。それは、ある意味恋に似ている。まるで、こちらが胸を締め付けられるような執着。つまるところ、彼は淋しがりなのだ、ひどく。それも無自覚で、厄介な。
そんな彼に、私から言えること。そんなもの、最初から決まっている。

「……なんとか言ってよ」
『それだ』
「は?」
ぽかんと口を開けたままの臨也に構わずPDAに文字を打ち続ける。それくらい力の抜けた顔していたほうが愛嬌があって可愛らしいのに。きっと、静雄も気に入る。あいつはあんな風だけれど、実は可愛いものが好きだ。そんなことも知っているだろうに、いつも力んで意地を張って。疲れないのだろうか。『なんとか言えばいいだろう。せっかく立派な口を持っているんだから。しかもよく舌がまわるときた。自分の持っているものは最大限活かして使うべきだろう』
「それができたら苦労しないよ」
『そうか、なら一生そこで悩み続ければいい。私は新羅にトイレットペーパーと電球を届けて一緒にコーヒーを飲みながらテレビを見るという大変重要な仕事を思い出した。だから、帰る』

ちょっと、と焦る声を置いて、私はバイクに跨った。これ以上私から言うことは、全くもってこれっぽっちもない。だいたい、第三者がちょっかいかけたって、こいつには無駄だ。自分からどうにかしなければ、静雄だってきっと動かない。

顔を歪める臨也に、頑張れという意をこめてひらひらと手を振ると、罵倒の声が聞こえた。なんてわがままな奴だ。
そういえば明日新羅がうちに静雄が来ると言っていた。そのときに聞いてやろう、臨也はお前が思っていたよりも可愛かったか、と。



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セルティはいけてるお姉さん
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