▼胸の奥に潜むロマンチスト



7月――――――――。



「あれ?部活は?」

「やっと1日オフが出来たんだよ。どっか行こうぜ。」

「? どうして?」

「いや、ほら、夏休みだろ」

「別にどこも行かなくていいよ?」

「…そうか?」



10月―――――――――。



「秋の味覚でも食べに行かねぇ?」

「部活休みになったの?」

「ああ。」

「秋の味覚なら間に合ってるから大丈夫だけど。」

「…おぅ。」



12月――――――――――。



「イルミネーションでも見に行こうぜー」

「特に魅力は感じないけど…?」

「……そーか、」


















ザワつく教室内。涼しげな顔で文庫本を読み耽るカンナを、オレは少し怨みを込めたジト目で見ていた。横顔綺麗だ、とか思ったのは誰にも言うつもりはない。



「…どうしたの清志?」



文庫本から顔も上げずにオレにそう言ったカンナ。これが緑間や高尾だったらオレの誘いを最初に断った時点で「刺すぞ」って言ってるとこだろうに。どうにもカンナには強く出られない。惚れた弱味ってやつだろうか?
成績優秀、品行方正、そして美人。カンナは、そんな、彼女としては完璧な女。困ってるところは2つだけ。少々天然なところと、それからイベントに全く興味を示さないこと。オレだってイベントにいちいち興味を持つタイプでは決してないけど、クリスマスにイルミネーションくらい見に行ってもよくねぇか?



「…なぁ、今日がなんの日か知ってるか?」

「……ポッキーの日?」

「それだいぶ前なー。」



実は今日は、オレらが付き合って2年目の記念日ってやつだ。
オレらの最近の定番デートって言やぁ、どっちかの家で話をしたり、勉強したり、流れでセックスしたり、そんな感じで。会えてるだけましだけど、あんまりじゃねぇか、って思う。最初の頃は、水族館だったり、ショッピングだったり、カンナも楽しそうだったのに。
オレに、飽きたんじゃねぇか、って。最近のオレはそんなことばっか。こんなん高尾あたりに知られたら泣きながら爆笑されるに決まってる。



「今日でオレら2年目だぜ?」

「ああ、そうなんだ?これからもよろしくね、清志。」



文庫本から一瞬だけ目を離して、ほんの少し微笑まれただけなのに、心臓が跳ねてオレはびびった。オレやっぱカンナのこと好きなんだな、とか改めて認識して、これでカンナはオレに飽きてたら本気で泣いちまうかもな、とか思った。



「……なぁ、オレのこと好き?」



昼休みの賑わう教室で、不安を口に出してみた。少し離れたところにいたやつが、ぎょっとした顔でオレを見た。



「好き。」



間髪入れずに返ってきた返事に面食らった。



「じゃあ、なんだよ、イベントとか興味ねぇの?」



安堵から少し涙が滲みそうになったのを隠してそう言えば、カンナは読んでいた文庫本に栞をさして、ぱたりと本を閉じるとオレに向き合った。やっぱり美人だとか思うオレは頭がイカれたらしい。



「興味ない、わけじゃないよ。バレンタインだってチョコは作ったし、ホワイトデーにお返しに指輪貰って嬉しかったし。でも、清志いつも忙しいじゃない。」



そこまで言ってカンナは言葉を切った。意味がわからない、という顔をしているだろうオレを見て、カンナが、意味がわからない、という顔をした。



「どういう意味だ?」

「え?忙しくて、疲れてるのにわざわざ出かけることはないでしょ?私清志といれるだけで幸せだもの。清志といれるだけで私には特別。あれ?違う?」

「〜〜〜〜っ、」

「…? 清志、顔赤いけど風邪じゃないよね?私のために無理して時間作るから…」

「っち、げぇよばーか!ああくそ!もう知らね!」



立ち上がれば、首を傾げたカンナと目が合って、えらく動揺した。

ついに視界が滲んできたから、慌ててトイレに走った。木村とすれ違ってぎょっとされた。









胸の奥に潜むロマンチスト

普段物騒な物言いの宮地サンが彼女大好きだったら可愛いな、と思って。






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