▼純情少年の事件簿



○月×日日曜日。天気は快晴。ついでに言うと溶けそうな暑さ。今ここに、僕、桜井良に起きた事件を書き記したいと思います。偉そうに、スイマセン。




















その日の練習は、午後からの体育館の点検もあり、珍しく午前中で切り上げられました。練習内容自体はいつもと同じ…というかいつも以上に辛いものがあったんですけど、午後から休みというのがあり、何をしようかと顔には出さないようにしながらもウキウキとしていたんです。ここで下手にウキウキ感を出すと、キャプテンあたりに「なんや桜井、妙にウキウキして、デートか?」なんて余計なことを言われてしまいます。(あぁ!余計とか言ってスイマセン!)



「今日、も、疲れました…」

「お疲れ様ー桜井君。」

「?!!あっ、水無月さん!?お、お疲れ様です!じ、自分に言葉をかけるとか、ほんと勿体無いんで!スイマセン!」


同じ学年の水無月カンナさんは、学年一の美少女を桃井さんと競うぐらいの美人マネージャーさん、で。何度か、なんで美少女2人ともがバスケ部のマネージャーをしているのか考えたんですけど、桃井さんは青峰君の幼馴染み、そして水無月さんは、風の噂によると青峰君のことが、す、好き、らしいん、です。それなら納得、と思って、胸のあたりにチクリとした感覚があったのは、きっと僕が水無月さんに…その…惹かれている、せい、で…。そんなことをごしゃごしゃと思い出していたら、僕のセリフに笑っていた彼女を見逃してしまいました。(せっかくの、笑顔なのに。)


「あー…なにやってんでしょう、僕…」

「あれ?今度は凹んだ。桜井君ってほんと面白いよね!」


太陽のような笑顔、とはよく言ったもので。まさしく彼女のその笑顔は太陽のようなんです。


「お、面白いなんて!じ、自分とかもう毛虫ですから!こんな自分で良かったらいくらでも笑ってください!」

「え、あー…。桜井君自身を貶めて笑ってるわけじゃないんだけど…。ま、いっか。ほら、体育館閉めるよー!」

「は、はい!」


水無月さんの笑顔が見られるなら、いくらでも滑稽なことになっても構わない、と思ってしまうあたり、僕はもう水無月さんに落ちてしまっていたんでしょうか?…水無月さんに落ちるなら、どこまでも落ちて行けそうな気がするのは、もう末期だと、自分でも思っていました。





着替えが済んで、よし、今日はケーキでも焼こうと、たぶん一般の男子高校生とは少しだけズレた感覚で家までの通学路を、朝とは逆に向かって歩き出しました。……いえ、正しくは歩き出すはず、でした。








「ワシと、付き合うてくれへん?カンナ。」






突如として校門付近からキャプテンの声が聞こえて、わぁ!スイマセン!って声に出す1秒前。会話の内容にはてなマークがいっぱい浮かんだ僕の視界に入ったのは、校門を背にしてキャプテンに向かい合う水無月さんの姿でした。慌てて隠れて、しまった!と思いました。これじゃ今さら出て行けませんし、盗み聞きになってしまいます。でもその間にも、キャプテンと水無月さんの話はどんどん進んでしまっていて、僕は誤魔化そうとケータイを開いたり閉じたりしていました(誤魔化す相手も居なかったんですけど…ね)。





「今なんて言いました?キャプテン」


「せやから、ワシと付き合うてくれへん?好きやねん。カンナのこと。」


「すみません無理です。」



うわぁ、バッサリだな水無月さん。と感想を持ってみて、ハッとしました。キャプテンが、水無月さんに、こ、告白していて、でも水無月さんは、それを断っていて。で、僕は、キャプテンが断られたことを喜んで?いて?ん?僕、かなり酷い奴じゃないですか?!キャプテンスイマセンスイマセンスイマセン!!


「そないスッパリやられると傷付くんやけど…。ちなみに、なんでワシじゃあかんねん?」

「や、キャプテンがだめとかじゃなくて………私、好きな人、いるん、で。」


言い、頬を染める水無月さんはもうめちゃめちゃ可愛くて、僕もカァッと顔に熱が集まりました。けど同時に、やっぱり青峰君が好きなんだ、と確定してしまったせいか、悲しくもなってしまい。


「それってやっぱり、青峰のことか?」


追い討ちをかけるようにキャプテンが問う。ああキャプテン、そこまで聞かなくてもわかりきってるのに。と、頭を抱えた僕だったんですけど、直後に聞こえたのは水無月さんが驚く声で。


「え?!は?!ちょっ、キャプテンなに言ってるんですか?!青峰とか、私この世で1番あり得ませんから!」




凄い剣幕で酷い言われようの青峰君。でもそんなことを聞いた僕の心は混乱していました。青峰君じゃ、ない?










「私が好きなのは…さ、さ桜井君ですから!」







がっつん。


頭をレンガで殴られたような衝撃。え?え?え?え?な、なんて?水無月さん?あ、でも、桜井違いに決まってる。だ、だって僕なんか…ああ!勘違いだ!そうに決まってる!勘違いとか、うわ、ほんとスイマセン!!

誰も見ていないのに、わたわたあたふたしている僕に気付かない2人の会話は続き。


「桜井…か。それって、うちのバスケ部の桜井良、でええん?」

「は、い。そうです…」


水無月さんの顔は見たことないくらい真っ赤っか。りんごみたいなその顔をキャプテンから背けて、「だから…キャプテンとはお付き合い出来ません。ごめんなさい。」と丁寧にお辞儀した。キャプテンは、「そうか…ならしゃあないな…。」と、納得したみたいでしたけど、困ったのは僕です。明日から、どんな顔して水無月さんに会えばいいんですか?っていうか、キャプテンとどう接すればいいんですか?


ちなみに、この事件からまだ3時間しか経ってないんですけど…誰か……教えてください。










≪純情少年の事件簿≫


キャプテン、実は桜井がそこにいるのに気付いてて、でも悔しいから言ってあげない。みたいな。2人がお互いのこと避けるみたいにしてるのを見て、内心でほくそ笑んでそう。





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