「ケータイ…?」



毎朝朝食と昼食を買うコンビニを出て少し行ったところで、見知らぬケータイを拾った。拾わなくても誰に怒られるわけでもないのだから、拾わなければ良かったと思った時、既にそれはカンナ手のひらの中だった。



「誰のか知らないが…すまん、見るぞ」



コンビニに届けるべきか交番に届けるべきか迷ったカンナは、オーナー情報を見るためにケータイを開いた。名前は知らないが、学校名に"海常"の2文字。



「ん?うちの生徒じゃないか。」
















学校に着いて、近くにいたクラスメイトに持ち主の名前を出して、理由を説明する。と、そのクラスメイトは大袈裟に驚いて結構な大声でカンナにこう言った。



「えぇぇっ?!水無月さん、黄瀬くんのこと知らないの?!隣のクラスの超有名人だよ?!」



そうなのか?と首をかしげるカンナを驚きの目で見たまま、クラスメイトは説明を続ける。



「黄瀬くんってね、モデルをやってて、超イケメンでね、しかもバスケが超上手いんだって!だから、女子の間では超有名人!」

「そこまで聞いてないが、そうか隣のクラスか。すまなかったな、行ってくる」



超、超と騒がしいクラスメイトだな、と思いつつ、離れたクラスではなくて良かった、とカンナは歩き出す。ものの数秒で隣のクラスのドアに到着する。



「黄瀬くん、とやら。いるか?」



途端、クラスがざわっとした気がして、女子からの目線が痛いような。なるほど、これは誰か他の人に頼むべきだった、と頭の隅で考えている間に、カンナの目の前に立っていたのはかなり高身長の男だった。



「オレが黄瀬っスけど…。君オレのこと知らないんスか?」

「君が黄瀬くんか。確かに女子が騒ぎそうな容姿をしているな。悪いが君のことなど知らん。用はこれだ。」

「あっ!オレの仕事用のケータイっス!オレ落としてたんスか?うっわ危ね。ありがとうっス!えーっと…」

「水無月だ。君は随分と騒がしいな。では、授業の用意があるから私は帰るぞ」

「…え。ちょ、ちょっと待つっス!」

「なんだ?下の名前ならカンナだが。」

「あ、あの…っスね。オレに何も求めないんスか?」



は?と心底わからないという表情をするカンナに、黄瀬が捕捉する。



「いや、ほら。お礼、とか?」

「そんなものいらん。ケータイを拾っただけで何を請求しろと言うんだ?」

「あ、いや…そう…っスか。」



お礼としてハグして欲しいだのデートして欲しいだの、そんなことを言われ慣れていた黄瀬は面食らった。そもそも、自分を知らないだって?かなり有名なはずの自分を?と、もはや混乱すら生じている。



「…君は変な奴だな、黄瀬くん。」



だから、混乱している中で、



「よくわからんが次は落とすなよ。もう拾わないからな。君みたいな目立つ奴と関わるのはまっぴらだ」



と言って、何が可笑しいのかカンナが笑ったことで高鳴った心臓に、さらに混乱したのだった。




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