「はいっ!今日はガトーショコラだよ!」
「わ〜!ありがとうカンナちん!」
紫原くんは毎日毎日、厳しい練習に励んでいて休みもろくにない。だから、私の唯一の特技である料理を毎日してきている。甘いものやお菓子の大好きな紫原くんは本当に喜んでくれて、こう、製作者冥利につきるというか、なんと言うか。
「おーいしー!カンナちん、ほんと天才〜!」
「あ、ありがとう」
照れる。物凄く照れる。大きな大きな手で頭をぽんぽんされると、こう…きゅん、とくる。顔が真っ赤になっているだろうと思って隠していると、あ、そういえば、と紫原くんがぽんと手を叩いた。
「カンナちん、どうして言ってくれなかったの〜?部活の料理コンテスト、優勝したんでしょ〜?」
「えっ?それ、誰に…」
「カンナちんのお友達の…ん〜…なんとかちゃん。」
「覚えてないのね…。うーん、と。…恥ずかしかった、といいますか。えっと…」
言えない。優勝したら告白しようと思ってた、なんて。言えない。
「凄いじゃん優勝なんて〜。ね、ね。今度食べさせて?優勝したやつ。」
「あ、う、うん。はい。わかりました。でもあれ、かなり手間かかるから、いつか時間のあるときね?」
目をキラッキラさせた紫原くんに詰め寄られた。あああ顔が近い近い近い。
あれから、1ヶ月。
毎日、ほんとに毎日お菓子を作って、練習前や後の紫原くんに届けた。美味しい、あ、これも美味しい、と、紫原くんはにこにこしながら食べてくれた。ん、だけど、なんか、なんか…。
「紫原くんって…お菓子と私、どっちを選んだのかな…」
「は?」
いつぞや、紫原くんに私がコンテストで優勝した話をした友達に相談してみれば、何言ってんの?と目で言われた。放課後の、教室。友達がケータイを弄る手を止めて私を見る。
「だってさぁ…もうすぐ付き合って2カ月経つのに…。手も繋いでくれないんだよ、紫原くん…。私じゃなくて、お菓子をとったみたい…。」
「へぇ…。ちょっと前まで、毎日眺めてるだけでいいとか言ってたあんたとは大違いだね。人間って欲深い。」
そうかも。と相槌を打つ。どんどんもっと、と求めてしまうあたり、実に人間らしいな、私は。
「ならさ。お菓子作るのやめてみれば?」
友達が、半投げ槍に言い出したそのセリフに、私はピシャーンと雷に撃たれたようだった。なるほど!と言って立ち上がり、自分のカバンを持ってきてガサゴソと漁り、今日あげようと思っていたフィナンシェを友達に押し付ける。
「あげる!もうすぐ部活終わるから、行ってくる!」
ピューっと走って教室を出ていく私を見て、友達が盛大に溜め息をついていたことを、私は知らない。
「…ったく。色々と先走り過ぎだっつぅの…。あ、美味しい。」
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