あつい。
からだが火照って、汗が噴き出してくる。まるで体内から燃やされているみたいだ。
ほぅ、と息をつきながら荀イクはソファに倒れ込んだ。
その吐息は荒く、やたらと熱っぽかった。


そもそも目覚めた時から何だか変だった。
朝いつもの決まった時刻に目覚めて、朝食を手早く用意して、朝が弱くなかなか起きてこない飼い主の郭嘉を半ば強引にベッドから引きずり下ろして、それから用意してあった朝食を二人でとって。
今日は働きたくない、愛する貴方と一緒に過ごしていたい、なんて(毎朝のことだが)戯言をほざいて出社を渋る郭嘉をなだめて見送った。

普段と何ら変わらない、ありふれた光景だった。…ように見せかけていた。

「はぁ…っ…あ……」

じわり、と涙が勝手に滲み、視界がゆらぐ。
郭嘉の姿が見えなくなって、ふつりと緊張の糸が切れてしまえばもう何も考えられなかった。
必死に抑えつけていた、自身を蝕む気だるさと疼きが一気に荀イクを襲った。
相当につらかったがどうしても郭嘉には気取られたくなかった。こんな姿を見られたくない。それにもし、彼の吐息が触れるほど近くに寄られてしまったら、触れられてしまったら。どうなってしまうか己でもわからない。
敵から身を守るための本能、というよりも、心から郭嘉を好いているからこそ隠していたかった。

(これは、不味いですね)

無理やり眠ろうとしても、寝返りを何度もうってみても、からだの熱は一向に治まる気配がない。それどころか時間が経てば経つほど炎は勢いを増している気がする。
ああ、こんなもの一体どうすればいいのだ。
クッションを抱きかかえながら小さく身を丸め、荀?はため息をついた。

(郭嘉殿の、匂い)

抱きしめたクッションから微かに感じた、鼻腔をくすぐる慣れた香り。
それと同時にドクン、と全身が脈打ったのが自分でもわかった。

―――そうだ、今ならまだ。
ちらりと見た壁の時計の針は正午よりも早い時刻を指していた。郭嘉が帰ってくるにはまだまだ早すぎる時間だ。
見つかる前に、処理してしまうしかないようですね。
そう決心すると荀イクは、淫靡にゆらめく下肢へそろりと手を伸ばした。


「ん、ぅ………!」

下半身だけ露出し、おずおずと股座に触れる。
触れたそこは既に固くなっていて、じっとりとした、湿った感触が布越しでもわかる。
窓からはさんさんと太陽の日差しが降り注いでいる。昼間から自慰にふける背徳感から目を背けたくて、目をぎゅっと閉じた。

「はぁ、ん……」

意を決して砲身を握り、上下に擦るとぞくぞくとした感覚が背を震わせた。
裏筋を辿って、雁首の形をなぞる。溢れる先走りを塗りこめるように亀頭を押すと、足の指がきゅぅと丸まり、長い耳がふにゃりと情けなく垂れ下がった。

「ぁ、あっ、ん…っ」

普段よりもずっと性感が高まった素肌は、ちょっとした刺激にも過敏に反応してしまう。
怠惰さがとても気持ちいい。けれど、まだ満たされない。
本能のまま、夢中になって手を動かしていく。

「んッ、く、ぁ、ァあアッ――…!!」

一度目の絶頂はすぐ訪れた。
先端を強く擦った瞬間、勢いよく精液が飛び出し手を汚した。待ち望んだ射精に声を抑えられなかった。
それでも雄は萎えることなく、再びゆるく立ち上がっていた。

「嫌、あ、ァ、止まらない…!」

とめどない欲求に、手が勝手に動いていく。自身を擦るのをどうしてもやめられない。
手のひらに絡みついた白濁が滑りをよくして、さらなる悦を生む。
股座からくちゅくちゅと粘着質な音が立っている。その淫らな水音と、自分の荒い呼吸とがやけに大きく聞こえて、余計に興奮しているようだ。

「はぅ、ア…んっ……」

触れてもいない乳首がつんと硬度を持つのが自分でわかる。衣服に擦れるたび、じわりと熱が灯る。
たまらず胸元も乱し平たいそこを揉みしだくと、ぞくぞくと下肢が疼いて、腰がいやらしく浮いた。
欲に浮かされた荀イクにとって、もはや男の矜持などあってないようなものだった。ただ飢えたからだを満たしたくて、本能が求めるまま乳輪をなぞり、熟れた頂を指で擦った。
その弱い刺激に呼応するように、性器からだらだらと涙が零れた。

「ぅ、ん…っ、ァ、あ…!」

右手で砲身を擦りながら、左手で胸元をまさぐる。
そうしてやると呆気無く二度目の吐精をした。けれど全身に灯った情欲の炎は鎮まることなく、むしろ慰める前より燃え盛っていた。

苦しい。いくら慰めても全然足りない。自分の熱い息がうるさい。
もしや、このままずっと治まらないのだろうか。
バカバカしい話だが、まともな理性なんて消えかかった荀イクの頭は半ば本気でそう思っていた。
なんだか切なくて、虚しくて。ソファに頬を押しつけて、固く閉ざされた瞳から涙を一筋流した。

どうか、たすけて、ください。
声にならない声で、彼の人の名を呼んだ。


「―――何をしているのかな?」
「ッ…?!」

熱く湿った空気を、突如かけられた声が切り裂いた。火照りきっていたからだが、さあっと急激に青ざめていく。
その声がした方をゆっくりと見やると、そこにはまだ帰ってくるはずのない人――郭嘉の姿があった。
にげなくては。
ついさっきまで待ち望んでいたはずなのに、今や脳みそがガンガンと警報を鳴らしている。なのにからだは石のように固まって、ちっとも動いてくれなかった。

「な、ぜ……!」
「何故って、荀イク殿の具合が悪そうだったから、早く帰ってきたのだけど…」

上着を脱ぎ捨てながら、郭嘉がつかつかと歩み寄ってくる。荀イクにとって、それが何よりも恐ろしかった。

「どうやら熱があるのではなくて、発情期だったみたいだね」

間近でみた彼の表情は、明らかにこの状況を楽しんでいた。

「すぐに気づいてあげられなくてすまなかったね。どれ、私に見せてごらん」
「いえ、私はもう大丈夫ですから…!後生です、どうか…見ないでください…!」
「そうもいかないかな。こんなに辛そうな顔をしている貴方を放っておけないよ」
「や、ぁ…ッ!」

これ以上はしたない姿を見られたくなくて必死に訴えても、郭嘉はどこ吹く風と聞き流してしまう。
それどころか覆い被さってくるなり、蜜でどろどろになった茎を握られ、引きつった悲鳴が漏れる。
どうにか押しのけようにも、腕に力が入らないせいでビクともしない。

「っひア!嫌、ン、ぁ、ダメです…!」
「ふふ、ぐちゃぐちゃだね。何回イったのかな?」
「そのような…ひゥ!」
「ちゃんと言えるよね?」

口ごもっていると、咎めるように尿道に爪を立てられた。そのうえ敏感な尾の根本をゆっくりと撫でられて、性器への刺激とも違う快感がぞくぞくと背筋を駆け抜ける。
そこはダメだ。敏感すぎるから。
たった指先ひとつでいいようにされてしまう己が恥ずかしい。

「に、かい…です……」
「へぇ、そんなにイってるのにまだ足りないだなんて本当にえっちだね」

淫らな自分を嗤っている。
あまりに恥ずかしくて、今すぐ消えてなくなりたかった。
なのにその声にすらからだが痺れて、頭がくらくらしてしまう。とろっとろに蕩かされた思考はもはや役目を完全に放棄していた。

「おっぱいも自分でいじったんだ?こんなにぷっくり腫らして」
「や…ンン、嫌、あ…!」

自分で触れたせいで凝った乳首を摘まれる。むず痒い刺激に身を捩るも、頂を潰されると腰がビクリと跳ねた。
そのまま女性の乳房にするように胸筋を揉みしだかれ、ふにふにと乳首を捏ねられる。弾力をもった乳頭を擦り合わせ、指を左右に動かし弾くと、蜜がとめどなく零れて郭嘉の手を濡らした。

「ん、ゥ、ッ、んぁア…っ!」

―――郭嘉殿が、私のからだに触れている。
たったそれだけで不思議と全身がぷるぷるとわなないた。
自分の手では決して満たされなかったからだが、急速に潤っていくのがわかる。

「一度私の手に出そうか」
「や、あぁ、ッ、ン、っ、ァああア――……!!」

そう言うなり郭嘉は、追い詰めるように自身を擦るスピードを速めてきた。極限まで昂ぶっていた茎が耐えるなどできる訳もなく、郭嘉の手の中で遂情した。
三度目となると、さすがに粘液はほとんど無色透明で勢いもなかった。
もうイきたくない。射精するのも相当つらい。荀イクの体力はとっくに限界を迎えていた。
だというのに全身はじくじくと甘く疼いて、熱は一向に引きそうにない。まるで脳髄とからだが別々になってしまったみたいだ。

「まだまだ元気そうだ。さすが発情期なだけあるね」
「ひッ?!」
「ここもすっかり濡れてる」

突然、白い指が後孔に侵入した。思わず腰が逃げをうつ。
散々出した白濁のぬめりを借りているおかげで痛みはなかったが、どうしたって異物感はぬぐえない。それは郭嘉も重々承知しているらしい。呻く荀イクをあやすように、耳を甘噛みして、浅瀬をマッサージし、丁寧に慣らしていく。

「ぐ、ぅ……ッあ!?な、何を…」
「…荀イク殿のイイ所はここかな」
「あ!嫌、やめてくださ…ッ、ダメ、あァ!」

気ままな指が体内のある箇所に触れた瞬間、電流のような衝撃が全身を駆けた。神経を直接犯されるような刺激に翻弄される。
郭嘉はそのままぐっぐっと執拗にしこりを押し上げてくる。

「ひ、ァ、やめ…何か、クる、キてしまいます…から、かくかどの」

前立腺ばかりを刺激されているうちに、尿意とも射精感ともつかない感覚が下半身を襲ってきた。大量の先走りがソファを汚していく。けれどもはや己の意思でどうすることもできず爪を立てて悶え続けた。
未知なる快感が恐ろしかった。
いくら懇願しても郭嘉は止めてくれない。指でしこりを挟み、震わせ、爪弾かれ、押しつぶされる。むしろ畳みかけるように、嬲る動きが激しくなった。
本当に、これ以上されたら。

「ッ、ア、ぐッ、ア、ぁあアア――……!!」

刹那、目の前が真っ白に染まった。
からだが弓なりにしなり、獣のような咆哮が漏れる。今まで味わったことのない、苛烈すぎる快楽に神経を蝕まれ太ももが痙攣する。
こわされる、しんでしまう。
快感に溺れながら、ただその二言だけが馬鹿みたいに頭を駆け巡った。

「あ、ッ…はぁ……ァ…」
「あぁ、出さないでイってしまったんだね」
「な…ひぃッ?!やら、や、アっ、あア!」
「こうするとイキっぱなしで気持ちいいでしょ?」

確かに達した、はず、なのに。
涙でぼやけた視界のピントを合わせると、確かに己の一物は萎えることなく天を仰いだままだった。
それを恥じる間もなく、すぐさま激しい快感に襲われる。中のしこりに触れられるたびに全身がビクンビクンと大仰に跳ね、強い絶頂感が続く。射精もできないから、郭嘉が指を止めるまで際限なくイかされる。あまりの衝撃にぼろぼろと涙が溢れた。
気持ちいいを通り越して、もはやこれは拷問だ。

「も…これ、や、です…や、いやァ…!」
「…そんなに物欲しそうな顔で泣かれては、もう我慢できないな」
「アん、ン……んゥっ!」

ようやっと指が抜かれたと思っていると、脱力したからだを容易く転がされマウンティングの体勢を取らされた。
背後から布が擦れる音がして、なにか熱いモノが蕾にピタリと添えられた。
郭嘉殿の一物だ。そう認識するよりも先に、膨らみきった剛直に後孔を貫かれた。

「ァ…あつ、い…です……」

指とは比べ物にならない、熱さと大きさ。腹部を埋め尽くす郭嘉の雄に思わず息が詰まる。
だがそれ以上に、郭嘉に挿れられているという事実に幸福感や満足感で心身が満たされていた。
自分だけでなく彼も興奮している。それだけで蕩けてしまいそうだ。

「動くよ」
「待ッ…!ア、んっ、ぅ、あァ!」

ドライでイッたせいで全身がひどく敏感だ。
ほんの少し中壁を擦られただけでとんでもなく感じてしまう。耳を塞ぎたくなるような甘ったるい嬌声があがる。

「本当に、可愛いよ…!こんなにもいやらしい子は、私がちゃんと、躾けてあげなくては、ね!」
「はぅ、ア、ん…ッ、く、ン、ぅ」
「イイ声、もっと聞かせてほしいな…ッ!」

尾のつけ根を嬲りながら無遠慮に揺すられる。
郭嘉もまた美しい眉根を寄せ、獣のような荒い吐息を漏らしていた。背後から聞こえる、真剣に荀?を求めるその声に恍惚としたため息が零れた。

「ねぇ、このまま中に出したら、孕んでしまうかな」
「な…!おやめ、くださ…ァあ!ン、ッ、あ」
「荀イク殿、私だけの雌兎になってよ」

うなじにキスを落としながら、ガツガツと奥まで蹂躙される。あるはずのない子宮に子種を届けるように深いピストンを送られる。
雄だから孕む訳などない。こんなの戯言だとわかっているのに、あまりの激しさに本当に孕んでしまいそうな気さえした。

「ひぃ、ッ、ん!さわらな、で…!」

茎を握られ、竿を抜きながら尿道を広げるように抉られる。その動きは出口を求め体内で暴れる精の流れと同じ動きだ。
限界まで昂ぶっているからだには酷な刺激だ。
出したい。けれど、こわい。そんなにされてしまったら――

「ぐゥ、が、ッあ、ア、ぅアあア――……!!!」

ゴリッと一際強く最奥を穿たれた瞬間、細く精が吹き出した。悲鳴のような嬌声が零れる。
すさまじい快感に逃げようと藻掻くが押さえこまれ、奥まで突き責められる。

「ァ、く、ッ、ア……!」

郭嘉の律動に合わせて、溜まっていた精がぶしゃ、ぶしゅ、と断続的に吐き出される。
体液の量は多く、しかもひどくゆっくりと尿道を駆け上っていく。終わらない射精にいつまでも絶頂感が消えてくれない。

こわされ、た。
そう思ったのを最後に、意識がフェードアウトした。


「おやすみ、かわいいかわいい私の荀イク殿」





戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -