―――アイツらは、とかく仲がいいと思う。

話し声がする部屋からは死角になっている位置で、そっと聞き耳を立てる。
元々人通りが少ない回廊だったので、周りには誰もいない。賈クが立ち尽くしていても、誰も見咎める者はいなかった。
しんと静まり返った薄暗い空間に不釣合いな、明るく親しげな声が響いていた。


次の戦について少し話をしておきたい。
ある日資料を広げながらそう思い至った賈クは、書簡を片手に城中を歩きまわっていた。
執務室やら書庫やら、思いつく場所をさんざ探しまわり、ようやくお目当ての姿を見かけた。そこまではよかった。だが、荀イクの隣には既に先客がいた。

こちらに背を向けているせいで顔は見えなかったが、あのくすんだ金色の頭は間違いなく郭嘉だ。
内容までは聞き取れなかったが、何やら楽しそうなのは二人の声からよくわかる。見えないその表情はきっと笑顔だ。


―――二人の仲を裂いてはいけない、自分が入ってしまってはいけない。

なんの根拠もなかったが、何故かそんな気がしてやまなかった。
声をかけるのも憚られて、やましさなんてないのに思わず壁際に身を隠してしまった。まるで密会を目撃してしまったような気分だ。


「……俺は一体何やってんだかね」


己の馬鹿げた行動に嘲笑する。
以前郭嘉から聞いたところによると、荀イクとは曹操殿に使える前からの知己だそうだ。ましてやお互い軍師なのだし、二人で相談をしている、とか理由はいくらでも思い当たるだろうが。
そう頭では理解しているのに、足はぴたりと止まって言うことを聞いてくれない。思考だけがいやに目まぐるしく働いて、変な方向に持って行ってしまう。


(…ま、美形同士で一緒にいる方が見栄えもいいってモンだ)


そうだ。そもそも、こんな親子ほども年の離れた男に執着しようと思う方がどうかしている。
郭嘉の大好きな、女性らしいやわ肌も丸みのおびた体の線も、何一つ持ち合わせちゃいない。
それどころか、くたびれた肌に筋張った貧相なからだつき。全てが真逆だ。仕方ないだろうが、もういい年なんだから。

仮に男を抱くにしたって、若く見目麗しい美少年か美青年…荀イクみたいなのが相場だ。まかり間違っても、こんな男に欲情する理由なんてこれっぽちもない。
それなのにあの佳人は。賈クに好きだだの、愛しているだの甘ったるい睦言を囁いて、あまつさえ抱きたいと言うのだ!全くもって酔狂な話だ。


(アイツは荀イク殿を相手にしたいとは、思わなかったのかねぇ)


がしがしと頭を掻きながら、思考の海にどんどん沈んでいく。
だってそうだろう。
なにも賈クでなく荀イクを抱いてたって不思議じゃない。いやむしろ、長いこと一緒にいるのだし、そっちの方がしっくりくる。
…もしも、荀イクが郭嘉に抱かれたら、どんな声を出して啼くのだろうか。少なくとも、自分よりもずっとイイ声を出すに決まっている。
もしかしたら抱く側かもしれない。どちらにしろ、清廉でお優しい彼なら、真摯な態度で郭嘉を愛してやるはずだ。その方が郭嘉にとっても幸せだろう。


「……なんで俺を選んだんだ、郭嘉殿」


いくら考えても、アイツに愛とやらを吐かれる理由が見当たらない。
もやもやとした感覚が胸中を駆け巡っていく。仄暗い感情に、臓腑まで侵蝕されているみたいだ。

あぁくそ、面白くない。
……いや待て。俺は今、なんと言った?


「――殿、賈ク殿?どうかされましたか?」



気がつくと、荀イクがいつの間にやら目の前に佇み、不思議そうにこちらをのぞき込んでいる。
もう会話は終わったらしく、郭嘉はいないみたいだ。


「あっははぁ、何でもないですよ。ちょっと考え事をね」
「そうですか。大事ないのならよいのですが…」


荀イクの表情は、心から賈クを案じるものだった。
一瞬とはいえ、彼に対してあんな不埒なことを考えていた自分が愚かしい。


(……本当に何考えてんだか、俺は)


少し頭を冷やした方がいい。
ロクに内容も頭に入らないまま荀イクとの要件を手短に終わらせると、賈クはそそくさとその場を後にした。








―――今夜は、賈クの様子がおかしい。


「んっ、ん……ふ…」


夜着を乱し、寝台に腰掛けた郭嘉は内心ごちる。その股ぐらには賈クが顔を埋めて、懸命に奉仕していた。しかもその姿は一糸まとわぬもので、衣服は寝台の側に脱ぎ捨てられていた。
こんなこと、いつもなら恥ずかしがってやらないのに、だ。

そもそも今日は、最初から何かがおかしかった。
確かに賈クの私室に押しかけてきたのは郭嘉の方だ。だが行為を、それも半ば強引に誘ったのは彼の方からだ。
不意に腕を引かれ、唇を奪われて、それから服を脱いで。性急にコトを進められ、慕情を伝える間も愛撫をする間もなく気がつくと冒頭の状況だ。

恋人に求められるのは、男として素直に嬉しい。現に雄の本能を大いに揺さぶられて、郭嘉自身はいつもより熱く昂っていた。
だけど賈クの常ならぬ態度が、どうしても心の片隅に引っかかって仕方なかった。

本当に今宵はどうしてしまったのだろう。
ただの気まぐれか、何かの拍子にからだが疼いてしまったのか、それとも――。


「ッく!か、賈ク…?」
「こんな時に、何考えてんですか」


いきなり敏感な先端をきつく吸われ、つい腰が跳ねてしまった。
下腹部を見ると、不満げな顔をした賈クが、咎めるようにこちらをギロリと睨んでいた。


「貴方のことを、考えていたのだけれど」
「はっ、どうだか。…やっぱり、ヨくないか?」


男と寝たのは私が初めてだと言っていたから、普段私が彼にシているのを真似ているのだろう。賈クの舌づかいはなかなかに心地よかった。
なによりも、あの賈クが私のを舐めているという光景が一番下半身にクる。本人はそれをちっとも理解していないだろうけれど。


「いや、とても気持ちいいよ。いいから、もっと続けてほしいな」


彼の頭を撫でながらねだると、満足したのか再び雄を咥えられた。
こんなに積極的な賈クは、そうお目にかかれるものじゃない。
とりあえず静観を決めこんでみようか。真意を暴くのは、もう少し楽しんでからでも遅くはないだろう。




「ん、く、んん……」


唾液を絡めながら、茎にまんべんなく舌を這わせられる。敏感な裏筋をくすぐると、気まぐれな舌はくびれを辿りやがて先端へたどり着いた。
竿を手で抜きながら、膨らんだ亀頭にちゅ、と唇を落とし次々と溢れる先走りの露を舐め取られる。
ちろちろと尿道を弄くられると、さらなる快楽を求めて腰が浮いてしまう。


「……ん、は、ぁ…っ、賈ク…!」


熱くぬるぬるとした粘膜に包まれる感覚に、熱を帯びた吐息が勝手に零れる。
無意識のうちに漏れた、恋人の名を呼ぶ声は、情欲でひどく掠れたものだった。


「ッあ、賈ク、かく、そろそろ…!」
「おっと、まだイかせませんよ、っと」


あと少しでイく。
そう告げようとしたのと同時に、賈クは一物から口を離してしまった。そうして、先走りで濡れた口元を手でぬぐって、にやりといつもの胡散臭い笑みを浮かべた。
そんな色気のかけらもない動作ですら、彼相手だと艶めかしく見えてしまうのは何故だろうか。


「…こんなところで止めるなんて、生殺しにでもする気かな?」
「いやいや」


賈クは寝台にあがると、郭嘉を押し倒しその上に跨った。
彼もこの状況に興奮しているみたいだ。その証拠に眼前に晒された茎は、触れられてもいないのに既に膨らみかけている。


「もっとイイこと、してあげますよ」


不敵に笑いながら、彼の手で昂らされた熱の切っ先を、ぴたりと後孔に充てがう。
ほんの僅かでも力をいれて突けば、すぐに飲みこんでしまいそうだ。
だけど、まだ。何も施されてないそこに無理やり挿れれば、ただただ傷つくだけだ。


「でも、まだ解してないのだけど」
「自分で…解してきた、から……」


腰を捕らえて制止すると、俯き恥じらいながら賈クはそう答えた。
…でも、この人がこんなことまでするなんて。
いよいよ違和感が拭えなくなってきた。だのに一人健気に準備する賈クを想像して、郭嘉の剛直はドクンと脈打ってまた膨張した。


「もう、いいから早く…郭嘉殿…!」
「賈ク…っ?!っア…!」


焦れた賈クが腰を一息に下ろして、郭嘉の一物を飲みこんだ。
唐突に訪れた強い刺激に、声が抑えられない。


「ッう……ぐ、っ……!」


熱い。そして、とてもキツい。
無理に拡張させられた内壁が、いっそ痛みを覚えるほどに郭嘉をきゅうきゅうと締めつけてくる。このまま結合部から溶かされて、全て食われてしまいそうだ。
だが賈クもまた、全身を紅潮させ汗を浮かべて、相当辛そうだ。


「賈ク…無理はしない方が、いいんじゃないのかな…?」
「うるさい…アンタは、黙って寝てろ…!」


どう見たって無茶をしているというのに。この意固地な恋人ときたら。
郭嘉の労りも聞き入れず、賈クは虚勢を張り続ける。そして挿入の衝撃も引かぬうちに腰を振り出した。


「ッん!ん、ッ、ん…ぐッ…ア!」


郭嘉の腹に手をつき、大胆な動きで快感を追う。
賈クの動きに合わせて、ぞくぞくと悦が背中を駆け抜ける。しかも故意にだろう、時折きゅっと後ろを締めあげてくるものだから、今すぐにでも出してしまいたくなる。
だけど本当に、このまま見ているだけでいいのだろうか。
それにきっと、彼の中では気持ちよさよりも、辛さの方が勝ってる。


「そこまで、かな」
「な、んで…!」
「そんな辛そうな顔でがむしゃらに動かれて、黙っていられると思っているの?」


細い腰を捕らえて、今度こそ力づくで律動を止めさせた。
非難の色を全面に出し、じっと見据えるとふい、と気まずそうに顔を逸らされてしまった。


「貴方を単なる欲のはけ口にしたいんじゃない。熱をわけ合って、愛し合いたいんだ」
「離せ、郭嘉どの、待ッ…!」
「好きだよ、賈ク」
「ひ、ッああア!」


肩を押して、今度は私が賈クを寝台に組み敷いた。
慌てて押し返そうとするが、奥深くまで穿つと途端に背を反らし嬌声があがった。
そのまま労るように、ゆるゆると中を掻き回していく。


「や、ァ!んッ…やぁ、嫌、だ、あァ、嫌…!」
「何が、そんなに、嫌なのかなっ」
「こんな、の…ア、優しく、すんなぁ…ッ!」


逃さぬようぴったりとからだを密着させ、小刻みに動いて中を擦る。
賈クがいやいやと頭を振るたびに、汗でしっとりとした黒髪が寝台に散らばった。
間近で見た、悩ましげに眉根をよせ赤く染まったその表情は、どこか悲痛な色を浮かべていた。


「も、もう、頼むから…!めちゃくちゃに、してくれ、かくかどの…ッ!」


めったに聞けない恋人の熱烈なおねだりに、カッと全身に熱が集まる。
だが、その様子は、快楽を貪欲に欲しているというよりもむしろ――


「そのおねだりは聞けない、かな」
「な…!ァ、む…ん、あ、んんッ…!」


頑なに愛撫を嫌がる賈クをなだめるように、そっと口づけた。
彼の感じる所を優しく攻めてやれば、私の好きな、艶やかな声が漏れる。


「ぅア!や、あァ、そこ、触んなッ」


目の前で揺れる、乳褐色の粒をきゅっと摘む。撫でたりひっぱったりして弄びながら、もう片方はねっとりと舐めると、賈クの腰がビクビクと震えた。
嫌がる言葉とは裏腹に、腸壁は私にぴったりと絡みついてくる。もっとほしいと強請られているみたいだ。


「賈ク、今日は貴方をとことん甘やかしてあげたい気分なんだ」
「ぁ、あッ、ん…ッ」
「だから、私の下で可愛く啼いてほしいな」
「あァ!ん、ん…くッ、あ…あァ!」


嘘つきで本心を決して口にしない恋人から、たまには素直に求められてみたい。
そう思ったことがない、と言えば嘘になる。
だけど今宵のように、本心に何か隠したまま懇願するのなら、その願いと逆の行為をしてやりたくなる。無体を働かれるのが望みなら、まるで姫君を扱うかのごとく優しく大切に扱って、とろっとろに蕩かしてあげたい。
我ながらとんだ天邪鬼だ。まぁ、賈クには負けるけれど。


「あ!ンァ…あ!や、ん、ン、も、無理だ、く、ンっ!」


絶頂が近いのだろう。
賈クから漏れる嬌声が、切羽詰まったものに変わってきた。
その証拠に、二人の腹の間で擦れ揺れている彼の茎がぶるぶるとわなないている。


「もう、イきたい?いいよ、出してみせて…ッ!」
「ア!んゥ、ッ、ああ、ア、ァああアア―――……!!」


高みへ追い上げるため、しこりを押しつぶしながら最奥まで貫く。
同時に一物も手でしごいてやれば、耐え切れず賈クは白濁で腹を汚しながらイッた。
その拍子に郭嘉を包んでいた壁が複雑にうねり、強烈な快感に襲われた。
挿れる前から限界寸前まで高められていた雄が我慢できる訳もなく、求められるがまま中に精を注いだ。


「はぁ…ッ、ぁ……」
「ほら、起きて。私をあれほどまでに煽ったのだから、責任をとってもらわなくては、ね」


放心している賈クの頬をぺちぺちと叩きながら、埋めこんだままの雄で再び中をかき回す。
その動きを感じ取ったらしく、賈クが慌てて逃れようとする。だが一度ガツンと深くまで穿つと、からだを震わせ抵抗が止んだ。
郭嘉の律動に合わせて、出したばかりの精液がぐちゅぐちゅと淫らな水音を奏でた。


「ア、待て、郭嘉殿、イッたばかりだから…!」
「待ったはなしだよ」
「せめて、少し休ませろ…!」


達したばかりのからだには酷な快楽なのだろう。
熱い吐息を漏らして喘ぎながらも、真剣に郭嘉を止めようとしている。力が全然入ってないおかげで、全く意味はなかったのだが。


「じゃあ休憩の代わりに聞こうか。何故今宵は求めてくれる気になったのかな?」


ずっと胸中に居座り続けていた疑問を、なるべく穏やかに投げかける。
その間も愛撫の手は止めない。産毛を撫でるようにそっと全身を弄り、乳首に触れる。乳輪をなぞり、熟れきった突起を軽く押しただけで、賈クの自身はふるりと震えた。


「別に…俺がシたくてした。ただそれだけだ」
「貴方が気分だけでここまでするとは、とても思えないのだけど」


到底納得できない答えに反論すれば、視線を逸らして口ごもる。
本当にこの人は頑固だ。


「ねぇ、ちゃんと教えてほしいんだ。…どうしても私には言えないのかな?」


汗やら何やらで濡れたからだを抱きしめて、熱い吐息が触れるほどの至近距離で、真意を推し量るようにじっと目を見つめて、問い詰める。
ただこの人の口から真意を聞きたくて、嘘吐きな重い唇が本音を語り出すのをじっと待った。


「本当に何でもないですって。…ただ」
「ただ?」
「……無性にむかついただけですよ」
「…何が、気に入らなかったのかな?」


もしや、気づかないうちに何かしてしまったのだろうか。
不安に駆られながら、己の言動を思い返す。
賈クから心底嫌われるなんてとても耐えられない。この私が一人のひとに執着するなんて、以前なら考えられなかったのに。


「あー……その、だな。アンタが荀イク殿と二人きりでいると、この頃どうにもモヤモヤするんだよ!」


半ばヤケ気味に告げられた言葉に、つい呆気にとられてしまう。
予想外すぎて、二の句が継げなかった。


「だからこんなみっともない感情、忘れたかったのに、くそっ」


顔を赤らめ、吐き捨てるように彼は言った。
もしやこの人は、苛立ちをかき消すために私を誘ったのだろうか。
それに、その感情は、つまり。


「…っふふ、はははは!」
「なに笑ってんだ」
「だって、あの素直じゃない賈クが、こんなにも熱烈に妬いていてくれていたなんて、ね」
「だ、誰があんたに妬いたりするか!」
「だって賈クは、私が荀イク殿と懇意にしているのを見て苛立ったのだろう?なんとも思ってない相手にそんな感情は起こらないよ」
「………」


無意識にだが、事実を見ないようにしていたのだろう。
郭嘉の言ったことが図星だったらしく、ムスッとした表情をして黙ってしまった。
そんなふてくされた態度にさえ、ほほが緩んで口角が勝手にあがってしまう。


「確かに荀イク殿は大切な存在だけれど、私が心から愛す恋人は貴方一人だよ」
「……普通、俺みたいないい年した男じゃなくて、荀イク殿みたいな見目のいいのを選ばんかね。」
「誰がどう言おうと、そんなものは関係ない」


嬉しいような、恥ずかしいような、なんと呼べばいいかわからない愛しさが溢れて、全身を駆け巡る。
愛されることに慣れないこの人には、言葉だけでなく私の全てをかけて伝えなければ、きっと届かないから。ドクドクとせわしなく脈打ってる鼓動を聞かせるように、再び賈クを抱きしめた。


「私をこんなにも昂ぶらせるのは賈クだけだ。…貴方でなくてはダメなんだ」
「………馬鹿じゃないのか、アンタ」


呆れた口調だったが、それでも賈クは抱き返してくれた。
背にまわされた彼の手が、なんだかとても暖かく感じた。


「そうだ、不安ならもう一度教えてあげようか。私がどれほど貴方に恋い焦がれているのか、じっくりと、徹底的に、ね」


二度とこんな不安を抱かぬように、ありあまる慕情をもう一度伝えてあげなくては。
休憩はこれでおしまいだ。
賈クの眦にちゅっと口づけを落として、指でからだの線を辿っていく。


「お、おい郭嘉殿、何を…!」
「貴方のその類まれなる才がとても魅力的だ。軍師としては勿論、こうして二人きりでいる時も、私を存分に楽しませてくれる。貴方に飽きる日なんて、永久にこないだろうね」
「ぁ…ッ、やめろ…!」
「憎まれ口ばかり叩くけれど、本当は私のことを心から案じてくれているのも知ってる。そんな優しいところも好きだよ」
「もうわかったから…!やめろ!」
「私に囁かれると、すぐ感じてしまうところも可愛い」


手と唇で全身をまさぐって、口づけを落として、恋心を片っ端から言葉にしていく。
賈クはというと顔を真っ赤に染め、いたたまれなさそうに身動ぎし、終いには両腕で覆い隠してしまった。それでも後孔は甘えるように郭嘉に絡みついてくる。
こういう恥じらう反応がとても可愛い。


「このまっすぐな黒髪も私は好きだ。ずっと触れていたくなってしまう」
「や、ふぁ……っ」
「無駄のないからだの線も、触れると素直に反応する肌も、私に縋りつく手も、快感に潤む瞳も、全てが堪らない」
「触んな、や、ぅアあ…!」
「愛してるよ、賈ク」


腕の隙間からキッと睨まれた。そんなとろとろに蕩けた目で睨まれても、私を余計に煽るだけだというのに。


「アンタ…こんなことべらべら喋って、こっ恥ずかしいないのか」
「私はただ事実を述べているだけだから、全く恥ずかしくなんてないさ」
「……ほんっと、大馬鹿野郎だな」


大馬鹿でも、それほどまでに惚れてしまったのだから仕方ない。
それを承知で賈クは私といる以上お互い様だ。しかも嫉妬までして、不器用な行動に出ているのだし彼だって相当だ。


「アンタの気持ちは十分すぎるほどわかったから、もう勘弁してくれ……」
「じゃあもう一回、いいよね?」


もうわかっているのだから、答えを待つ必要なんて皆無だ。
返事を待たずに、どちらからともなく唇をよせた。





END




*おまけ



「ずいぶんと機嫌が良いですね」


頬が緩みきっていますよ。
そう指摘してきた荀イクはあきれ顔だ。
対する郭嘉は、荀イクの言などまるで気にした様子もなく、片肘をつきながらニコニコと笑んでいた。


「わかるかな。昨日の夜は愛しい人と、それはもう存分に愛し合ったのだから、ね」
「その手の話は昨日も聞きました。そろそろ口ではなく手を動かしてください」


伊達に郭嘉とのつきあいは長くない。
黙々と郭嘉の目の前に書簡を積み重ねていく。荀イクの扱いは手慣れたものだった。(というより郭嘉と賈クが懇ろになってからというもの、しょっちゅう話を聞かされているのだから、いい加減に慣れっこにもなる)
それでもこうしてつき合ってくれるのは、彼の優しさ故だ。


「惚気話は結構ですが…せめて執務には影響のないようにして下さい」
「わかっているよ。せっかくの類い希な才を、一個人の色恋沙汰でダメにしてしまっては軍師失格だからね。そこは私も賈クもわきまえているさ」
「お忘れでないのなら構いません。それにしても、賈ク殿のことを話す時、本当に郭嘉殿は楽しそうな顔をしますね」
「はは、そうかもしれないね」


そんなに楽しそうな表情をしていただろうか。
自分で自覚はまるでなかったが、慧眼の持ち主がそう言うのならきっとそうなのだ。


「私は今、本当に幸せなんだ。こんなにも人を愛する喜びは、生まれて初めて知ったかもしれない」


しみじみと噛みしめていると、当の本人が入ってきた。


「あぁ二人とも、ここにいたのか…って何だらしない顔してんですか郭嘉殿」
「ふふ、私はとても恵まれているね、って話を今してたんだ。ねぇ、荀イク殿?」
「ええ」
「はぁ……さいですか」


怪訝そうな顔をしながらも、賈クは二人の近くに腰を下ろした。
昨夜あれだけ愛を捧げたおかげか、彼の表情からは不安さはみじんも感じられなかった。


しあわせだ。
そう実感すると、よりいっそう笑みが止まらない。こんな時間が永久に続けばいいのに。
胸を満たすあたたかさに、郭嘉は破顔した。







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