「賈ク殿との語らいはまこと、まことに愉快ですなぁ」
「あははあ、そりゃよかった。陳宮殿とは酒の好みも合うもんだからね、つい話が弾む」


ここはとある基地のとある酒場。
盛大に発展し人で賑わうその地は、酒場ももちろん例外ではなかった。
がやがやと酔っ払い達の喧騒が響く中、その一角で二人の男が膝をつきあわせ、談笑に興じていた。
互いに酒好きでありどこか気の合う陳宮と賈クは、いつしか頻繁に二人だけ飲む仲になっていた。
軍略からたわいもない話まで。机上に空瓶を次々とこしらえながら話に花を咲かせ、延々飲み明かすのが常だった。

それはこの日も変わらず、飲み始めてずいぶん経つ頃、しみじみと陳宮が口を開いた。


「こうして二人で飲むのも久しぶり、久しぶりですな」
「アンタと飲もうにも、しょっちゅう郭嘉殿の邪魔が入るからな。悪いね、陳宮殿」


どうやって嗅ぎつけているのか。宴中の二人の間に郭嘉が割って入るのも、二人の宴では常だった。(その度に不仲の陳宮と郭嘉の間に険悪な空気が流れ、そのしわ寄せが賈クにくるのだからたまったもんじゃない)
やれやれと苦笑する賈クに、陳宮は笑って返した。


「いえいえ。賈ク殿に非は、非はありませぬぞ。あの御仁といて、大変ではないですかな」
「んー、まぁ、そうなんだがね。もう慣れた」
「しかし、しかし賈ク殿とて自分ばかりが振り回されるのも、納得がいかないのではありませぬかな」


確かにそうだ。
こちらの言うことなんかちっとも聞かないあの佳人に、今までどれほど振り回されたか。少しぐらいはあの自由人を振り回しても、罰は当たらないのではないか。
心中を鋭くつかれ、つい賈クは黙ってしまった。
その様子を汲んでかどうか、常日頃の不満を爆発させるように陳宮は畳み掛けた。


「そうです、そうですとも!あんな軽率な輩なぞ私は、私は気に入らないですぞ!」
「ちょっと陳宮殿、落ち着きなって」
「いいえ、賈ク殿ももっと手厳しくしてやればよいのですぞ。大体…!?」
「お、おい!陳宮殿?!」


バン!と机を叩き、勢いよく立ち上がった陳宮のからだがぐらり、と揺れた。
倒れそうになる陳宮の腕を賈クはとっさに引き、その小柄なからだを抱きとめて支えた。


「おい、陳宮殿?大丈夫か?」
「これは、これは失礼。つい飲みすぎてしまったようですな」
「んー、今日のところはもうお開きにした方がいいんじゃないか?」
「いえいえ、ご心配には及びませぬぞ。さぁ、もう一杯、もう一杯参りましょう」


心配する賈クをよそに、体勢を立て直した陳宮は新たに酒をついで渡した。
再び椅子に腰掛け、酒精で多少赤らんだ笑顔を浮かべる陳宮の姿に、賈クも腰を下ろし注がれるまま盃を口にした。


*


ようやくお開きとなったのは、とっくに月が昇りきった真夜中だった。
あの後も思いのほか話が弾み、ついつい盃が進みすぎた。からだが火照り、冷たい夜風が心地いい。
いささか、飲みすぎたかもしれない。
酒精のおかげでまとまらない思考の中で、かすかに反省しながら誰もいない夜道を、帰路へと急いだ。

ふらつく足取りで、ようやく自室にたどり着いた。
このまま寝てしまおう、立ってるのもそろそろ限界だ。
睡魔と戦いながら部屋に入るとそこには、本来いるはずがない、よく見知った姿があった。


「お帰り、賈ク」
「…あははぁ、なんで勝手に人の寝床にいるんですか、郭嘉殿」


我が物顔で寝台に腰掛けている郭嘉の姿に、酔いが少し覚めた気がした。
押しかけられるのはたびたびだが、まさか勝手に居座っているとは。
呆れたように笑う賈クを無視して、郭嘉は立ち上がって無言のまま距離を詰めてくる。そのまま腕を引かれ、無言で寝台に押し倒された。
灯りもつけないでいるせいで、郭嘉の表情は読めない。手首を纏めるように押さえつけてくる郭嘉の手は、いつもよりひんやりと冷たかった。


「あのだな、郭嘉殿。この通り俺は酔ってるんで、今日は勘弁願いたいんだが」
「それは聞けない、かな」
「ん?!んッ…ぅ…!」


おそらく勃たないから無理だ。
言外にそう訴えても、一蹴されて唇を奪われる。
思わず逃げをうつ舌を乱暴に絡め取られ、口内を蹂躙される。呼吸ごと奪うような、らしくない荒々しい口づけに賈クは違和感を覚えた。


「ひっ…!お、い…!今日のアンタ、は…ッ、ん、何か、おかしいぞ」
「そうかな」
「んッ!馬鹿、そこは見える…!」


無遠慮にからだを這い回る手と舌に、息が勝手にあがる。
耳を舌と唇で嬲られ、ピチャピチャといやらしい水音が、聴覚から賈クを犯す。
散々に耳を嬲られるとかぷ、と首筋に歯を立てられ身が竦む。かと思うとそこをねっとりと舐められ、時には強く吸われて赤い痕を次々につけられる。
常にはない乱暴さがかえって新鮮で、言葉とは裏腹に酒精をたくさん摂取したからだでも、敏感に反応してしまっていた。


「ちょっと、ッん!せめて…見えるところは、っ!やめてくれないかね」
「少し黙ってて」
「痛ッ…!や、っん!郭嘉殿っ…痛い…って!」


なだめるように言っても、まるで聞く耳をもたない。それどころか手際よく服を乱され、胸の飾りにがり、と歯を立てられた。
もう片方の胸は、空いていた手でぎゅっと摘まれ弄ばれる。
痛いぐらいの刺激。それすら賈クのからだは快感として受け取っていた。


「や、ぁ…嫌だ…ッ!郭嘉、殿…!ふぅ…っ、ん!も、やめろ、って…ッ!」


喰われる。文字通りの意味で、郭嘉に喰われてしまいそうだ。
痛みで目元に涙が浮かぶ。
激しすぎる刺激にかぶりを振って拒否し、なんとか拘束から逃れようと身をよじる。
郭嘉にとってその仕草が不愉快だったのだろう。ちっ、と舌うちをして、賈クの腕を拘束していた手を離すと、無遠慮に下肢の服を取り払いにかかった。下履きを膝あたりまで下ろしてしまうと、露わになった賈クの茎を握りこんだ。


「あァ!や、は…んぅ!そこはッ、激し…!ダメ、だ…ッ!」


己の砲身を握った白い手は容赦なく、乱暴に抜いてくる。
擦りながら、先端の割れ目に爪を軽く立てられる。すでに濡れだしていた自身からこぽっ、と蜜が溢れ出し、郭嘉の手を汚した。


「ひ、んんッ!かくか、どのッ!も、嫌…!手、離してくれ…ッ、ぅあァ!」


いつもなら歯の浮くような甘い言葉を囁いて、頭がおかしくなるくらい優しく快楽に蕩かしてくるというのに。
あまりに苛烈な責めに、声も抑えられない。
少しでも刺激を逃がそうと頭を振った。黒髪が敷布に乱れ、汗が跳ねる。
快感に歪む思考と視界の中、郭嘉の表情を仰いだ。
やはり暗闇ではっきりとは見えないが、きっと冷たく己を見下しているのだろうと、賈クはぼんやり思った。


「も、イっ、イク…ッ!や、めッ、ァあ!かくか、どの、んぁァッ――!!」


とどめを刺すように、口に含んでいた胸の飾りを噛み、茎の先端を押し裏筋を撫でられる。
その瞬間、頭の中が真っ白になって、陰茎がびくびく震えた。耐え切れようと思う間もなく、郭嘉の手の中に吐精した。


「ぐうぅ…ッ!」


手の平に飛び散った白濁を指に絡めると郭嘉は、その指をまだほぐれていない後孔に突き入れた。
突然の侵入者に驚き縮こまる蕾に白濁を塗りつけ、ぐにぐにと浅瀬を慣らされる。
絶頂の余韻のためだろうか。突き入れたそこはいつになく敏感で狭かった。体内の異物感に賈クがうめくが、郭嘉はそれを無視し慣らす指を増やした。
蕾の奥まで割り開かれるまで、さほど時間がかからなかった。


「ぅ、んッ、かくか、どの…ッ!ゃん、指、抜け…ァああッ!」


前立腺を叩かれ、撫でたかと思うと強く潰される。
背を走るぞくぞくとした感覚から逃れようと、寝台の上へずれようとする。だが郭嘉がそれを許すはずもなかった。
逃げようとする腰を捕らえられ、ぶるぶると振動し咎める指先に、賈クは動きを封じられる。
弱いところを集中的に責められ、一度達した賈クの茎はまた熱を持ち、首をもたげていた。


「ひ!ぁ…まて、郭嘉、殿!」


秘所に押し当てられた熱に、賈クはうろたえた声をあげた。
下肢を見ると、中途半端に脱がされた太ももを持ち上げられ、郭嘉はいつの間にか着衣を緩めていた。
―――無理だ、まだ入る訳がない。
悲鳴じみた嬌声しか出ない口の代わりに目線で訴えても、やはり目の前の男は聞き入れようとしない。


「や、待て、って言って…ホント、に無理だ…!ッああァ!!」
「ッう…!」


おざなりにほぐされた後孔に、いきり立った郭嘉自身を一息に入れられた。
異物感と痛みに、思わず涙が流れる。
ひどい、とてもひどい無体だ。勝手に人の部屋に押しかけ、いきなり貫くなんて。
しかし辛いのは郭嘉も同じらしく、苦しげに小さくうめいていた。
中にキツさに郭嘉の動きが止まった隙に、賈クは震える両腕を郭嘉の背にまわし、軽く口づけた。
ようやく見えた郭嘉の表情は、ひどく驚いたものだった。


「賈ク…?」
「っ、はぁ…ッ、なんて、顔をしてんですか、郭嘉殿…とにかく落ち着いてくれ」


体内を剛直が押し広げ、呼吸もままならない。それでもなお、あやすように抱きしめてやる。
ようやく郭嘉も落ち着きを取り戻したらしく、悲鳴をあげる秘所から一度自身を引き抜き、賈クのからだを労わるように優しくそっと抱きしめた。
今までの暴挙がまるで嘘のようだった。


「本っ当に今日の郭嘉殿はおかしい。…何があったんだ?」
「……」
「…こっちは散々いたぶられたんだ、原因ぐらい話してくれてもいいと思うんですが?」


咎めるように見据えると、多少は後ろめたいと思っているのか、ふいと視線をそらされる。
じぃっと見つめ続けていると、ふてくされたような顔で、重い口を開いた。


「…なんで彼と」
「彼?」
「なんで彼なんかと一緒に酒場にいたのかな?」
「彼、っていうと…陳宮殿のことか?」


思いもよらない人物の名に、つい目を丸める。
だが郭嘉は相当気に入らないらしく、構わず続ける。


「そう、あの軍師気取りのことさ。このところ随分と仲がいいみたいだね?」
「…陳宮殿とはただ酒を飲んでるだけなんだが」
「ただ飲んでいるだけ?それでもあんなのとは関わるべきじゃないよ、賈ク。」


あの二人が仲が悪いのは重々知っていたが、まさかこれほどだとは。
あきれ果てながら郭嘉を見上げる。その様子は、まるでお気に入りの玩具を取られた子供だ。


「それだけじゃないよ。今日たまたま見かけたのだけど、二人で抱き合っていたのはどういうつもりかな?」


よりによってアレを見られていたのか。いつの間に。
変な誤解を持たれても面倒だ。
弁解をしようと口を開くも、郭嘉の勢いはこちらを圧倒していた。


「あれは、酔っ払って倒れそうになった陳宮殿を支えようとしてだな…!」
「そんなの、地面に放っておいていいんだよ。公衆の面前で抱き合うなんて、だいぶ深い仲、だね」


そう言う自分は、べらべら女性を口説くくせに。なんと身勝手な言い草だ。
賈クは起き上がると、まだ何か文句を言っている郭嘉に覆いかぶさった。そして少し勢いを失っている郭嘉自身を、己の秘所にぴたりと当て、一息に腰を下ろした。
痛みと腹の圧迫感に顔をしかめる。重力のせいで、いつもより深くまで埋め込まれるのが苦しい。
それでも、郭嘉の腹に手をつきながら根元まで茎を収めた。


「賈ク…?!ッあ?!」
「っ、アンタとも、ぁ、あろう色男が…ッ!そこまで自信がないとはね…っ」


突然のことに慌てる郭嘉を無視し、賈クは刺激を加えていった。
体内の郭嘉をなるべく刺激し、時折わざとぎゅっと締めつける。己のイイところに当ててしまわないように気をつけながら。
獣のように荒い息を吐きながら、浅ましく腰を振った。


「待って、賈ク…ッ!急に、どうしたのかな…?」
「少し…ッ黙ってろ、ッんぁあ!」
「…これは貴方が、悪い、かな」


制止を求めるように腰に手を添えられるが、構わずに動き続ける。しかしすぐさま下から急に突き上げられ、嬌声が漏れる。
頭が真っ白になるような快楽を与えられ、腰が浮くが今度は腰をがっしり掴まれて、揺さぶられた。


「ひッ!あ、馬鹿!動くなァ…!あァ!」
「ここまで私を煽っておいて、それは無理な注文かな」
「ァああ!ひ、そこ、んァ!やめろッ…!あ、擦るな…!」


好きに蹂躙され、弱いところばかりを狙われる。
かつ郭嘉は、自分の快楽を求めて激しく突き上げるのだからたまったものじゃない。
せめてもの悪あがきと再び締め上げると、郭嘉がうッとうめいた。体内の剛直がびくびく震え、もうすぐ達するのだと朧ろげな思考で思った。


「ッ…!そろそろ、イくよ…!」
「ァあ!ん……!」


郭嘉は宣言するなり、賈クの体内で遂情した。どぷどぷと中に注がれ、ようやっと射精が終わると、ずるっと自身を引き抜かれた。
体内に残った熱に感じて震えていると、再び寝台に押し倒された。


「…本当に、いきなりどうしたの。賈ク」
「……」
「ねぇ、賈クの口からはっきり言って欲しいんだ。…やっぱり、無理やり貴方を犯そうとした私を怒ってるのかな?」
「当たり前、だろうが…!八つ当たりでこんな、乱暴しやがって…!」


息も絶え絶えに、怒りをぶつけると郭嘉はばつが悪そうに笑った。
散々嬲った賈クのからだを慈しむようにそっと腕がまわされ、首筋に金糸が沈む。


「でも、私がどれほど傷ついたかわかるかな。私は存外嫉妬深いからね。事故でももうあんな真似はしないでほしいな」


本当にこの男は勝手だ。この期におよんでまだ身勝手な理屈をこねる。
―――もっと賈ク殿も手厳しくしてやればよいのですぞ。
数刻前に陳宮殿が言ってたとおり、少しぐらいやり返しても罰はあたるまい。
先ほどから溜まっていた怒りが、ふつふつと湧き出した。


「アンタ、いい加減にしろよ。たかが不意の事故で、子供みたいな嫉妬心を押しつけられても迷惑なんだ、こっちは。些細なことでこんな真似をするんなら、今すぐ俺の恋人面するのはやめるんだな」


抱きとめる郭嘉を冷たく突き放す。郭嘉の腕から逃れるように身をよじると、逃がさないと白い腕が賈クに絡みつこうとした。


「賈ク、私は…!」
「『本気で愛してるんだ』とでも言う気か?馬鹿らしい。
そもそも、散々俺を惚れさせるとか自信たっぷりに言って、必要以上につきまとって好きだの愛してるだのほざいてたのは誰でしたっけね」


腕を振り払ってなおも冷たく言い放つと、悲しげな表情をして郭嘉は黙った。
逸らされる視線を、郭嘉のほおを両手で包んでこちらに向け、美しい目を見つめながら続けた。


「こちとらこの年になってこんな悪趣味につき合わされて、俺の人生引っ掻き回されたんだ。本気でこの俺をモノにしたいんだったら、つまらん嫉妬なんかしてないで、いつもみたいに堂々と恋人面して、落としにかかってみたらどうだ」


これは私のものだ。
薄暗い嫉妬心を燃やすより、普段からしているように傲慢にそう言いふらせばいいのだ。
言外にそう言われ、郭嘉は面食らった表情をしていた。
その反応に気をよくした賈クは、一度は拒絶した郭嘉のからだを、ぎゅっと腕に力をいれて抱きしめた。


「それにだ。ここまで悪趣味に走ったんなら、最後まで食らいつくしてみたらどうなんだ。享楽の才子様?」


してやったり。
蠱惑的に笑う賈クに、郭嘉は言葉が出なかった。
この男の身勝手さにはつくづく腹が立つ。しかし賈クは、それと同時に優越感を覚えていた。
今まで自分ばかりが、気まぐれな佳人に振り回されてきたのだ。それが自分に子供のように嫉妬して、らしくなく余裕のない面を見られたのだ。賈クにとってそれは、とても心地いい優越感をもたらした。
ほおに軽く口づけてやると、郭嘉はようやくすまなそうに笑って、汗がうっすら浮かぶ賈クの抱き返してきた。


「…賈ク、悪かったよ。これから私の全てを賭けて、貴方を嫌というほど愛してあげるよ。だから貴方も覚悟してほしいな」
「あははぁ。アンタこそ、俺が陳宮殿あたりに目移りしないように、せいぜい頑張ることだね」
「おや、それは困るかな」
「…ところで。俺はまだイってないんだが、ね」


いつもなら絶対しないおねだり。
照れくさくてふい、と横を向いてしまった。こんなのは今日だけだ。
郭嘉は一瞬驚いた顔をして、とても幸せそうに表情を綻ばせた。


「…ふふ。貴方が満足するまで、たっぷりと愛してあげるよ」


end





後日談(ほぼ会話文のみ)



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