※R18







夜中に目が覚めた。
悪い夢を見たわけじゃない、しかし、全身にびっしょりかいた汗が髪や寝間着を濡らし、気持ち悪いと感じた。おまけに夜中だというのに、部屋の中がうだるように暑い。もやもやとした空気が部屋中にたちこめていた。
住み慣れた西涼よりもずっと、蜀の地の夏は暑い。昼間はもちろん、夜の間もそれは変わることなく、寝苦しい日がここ最近ずっと続いていた。


「うぅ…夜でもこんなに暑いとか、ありえないよぉ…!」


そんな蜀の暑さに、馬岱はすっかり参ってしまっていた。あまりの暑さに、夜中目を覚ましてしまうこともしばしばあった。
今日もその例に漏れず、すっかり目も冴えてしまった。寝間着の裾でぱたぱたとあおぎながら、額に滴る汗をぬぐった。


「こんなに暑いってのに、よく若は平気だよねぇ」


ぼやきながら、ふと隣で眠る馬超に目をやった。
熟睡しているようだが、馬超の肌はしっとりと汗ばんで、寝間着もうっすら湿っていた。ときおり『んー…』だの『うぅ』だの寝苦しそうにうめいて身じろぎするが、目覚めそうにはなかった。


(やっぱ、若はカッコイイなー…)


寝てるのをいいことに、つい馬超の顔をまじまじと見てしまう。
いつもは兜に隠れて見えない金糸、すっきりと整った鼻筋、すべらかな肌、薄く色づいた唇。まるで上等な作り物のようにさえ見えた。
幼い頃からいつも側にいて見慣れた姿。けれど普段と違った様子の馬超に、馬岱はどうしようもなく心を乱された。


(いつもの暑苦しい若も好きだけどさ、たまにはこういう静かな若もドキドキしちゃうなぁ)


起こさないようそっと金糸を指に絡め、くるくると指で弄びながら、馬超の寝顔をまじまじと見つめる。


「ん…う……」


あおむけに寝ていた馬超が、寝返りをうって馬岱の方を向くような格好になる。
起こしてしまったか。馬岱は慌てて髪から指を離し身を固くした。しかし一度うめいたきり、また馬超は穏やかな寝息をたてだした。


「………あ」


寝返りをうったはずみで、馬超の寝間着の胸元がはだけた。
露わになったそこは日に焼けずに白く、雄々しく鍛えられて、美しい均等をのぞかせていた。


(いつも俺、この胸に抱かれてるんだよね…)


馬超との情事を思い出し、馬岱はひとり赤面した。
いつも彼の下で好きなように喘がされ乱され、背に腕をまわしながらそのたくましい胸元に顔をうずめる。
まざまざとその場面を思い描いてしまい、馬岱は慌てて目をそらす。しかし、一度思い出してしまったその光景は、馬岱の脳内に深く焼きついて離れなかった。


(どうしよ…欲しくなっちゃった……)


そっと己の下半身に手をやると、そこは既に軽く熱を持ち始めていた。
情欲をを忘れてしまおうとするも、どうしても視線は馬超の方を向いてしまい、脳裏からは情交の場面が消えない。


(ちょっとだけ、ちょっとだけなら…!)


頭の中でそう言い訳すると、馬岱は下半身に手を伸ばした。
寝間着を緩め、砲身全体を進むように握りこむ。そのまま上下に擦ると、熱が下半身に集まる感覚に襲われた。根元から雁首へ、手を動かすと、先端からとろとろと先走りが溢れだした。


「っん、んぅ、ぁ…若、わかぁ…」


―――バレたらどうしよう。けど、気持ちよくてやめられない。

馬岱の思考は、背徳感に増幅された快楽で蕩けだしていた。蕩けた思考は馬岱の理性を剥ぎ取り、本能のまま快感を求め、手の動きをより大胆にした。
先走りのぬめりを使って、擦りあげる動きを早めながら裏筋を摩る。
鈴口を指で刺激し、ときおり焦らすように指を離すとドクン、とさらに熱が中心に集まり先走りの量が増えた。この弱点をいじると、馬岱の自身は解放を求めて、ビクビクわななきだした。


(岱…好きだ。愛してる)


「若、んん…くっ、はぁっ…」


いつも馬超がする愛撫。彼らしい、まっすぐに囁かれる愛の言葉も一緒に。それを思い出すだけで、どうしようもなく下半身が熱く痺れ、ぞくぞくと背が震える。抑えようとした声も、どうしても口をついて出てきてしまう。


(でも、これじゃ足りないよぉ…!)


馬岱はなるべく音をたてないよう両足を開き、先走りを中指に絡めて後孔に挿れた。まだ狭いそこは、散々馬超によって教えられた快楽を求め、ひくついていた。
締めつけてくるそこをグニグニとほぐしながら、しどどに濡れた自身を擦りあげる。


「ぁ、んんっ、はぁっ…若、くぅ…ん!」


後孔がほぐれてくると、二本めの指を挿れて抜きさしする。少しひっかくように亀頭を刺激したり、爪を軽くたてる。熱に浮かされた馬岱から漏れる声は、さっきよりも大きく、艶やかになっていた。
限界をむかえようとしている馬岱の脳内は、もはや真っ白になっていた。

―――後ちょっとでイく。


「岱……?」


唐突に聞こえてきた声が、いやにはっきりと響いた。
その声に理性を取り戻した馬岱がおそるおそる目をあけると、そこにはいつのまに目を覚ましたのか、馬超がぼんやりとこちらを見ていた。

見られた。隠れて自慰をしていたのがばれた。
熱くなっていた意識が一気に冷えこんだのが、自分でわかった。なんとか取り繕おうと言葉を探すが、うまく口がまわらない。
そうこうしているうちに、はっきりと目を覚ましたらしい馬超が、からだを起こして馬岱に覆い被さってきた。


―――若に軽蔑された。もしかしたら捨てられるかもしれない。

今すぐにでも逃げ出してしまいたい。けれど、覆いかぶさられた上に寝台の端に追いまれて、それも叶わなかった。
間近にいる馬超に馬岱は怯え、身をすくめた。馬超はただ無言で、暗闇も手伝って表情もわからなかった。ただ、恐る恐る見た馬超の瞳は、怒りの炎を宿していた。
ほんの少し前まで恋しくてたまらなかった馬超が、今となってはただ恐ろしかった。


「若…?んぁアッ?!」


怯えて萎えかけた馬岱の自身に、いきなり馬超は手を添え擦りあげだした。
擦りながら陰嚢をもみしだかれ、強い快感に馬岱は目を見開いた。
予想に反して与えられた刺激に、馬岱の自身はすぐさま熱を取り戻して固くなり、ただ馬岱は身を震わせるしかできなかった。


「や、やら、あァ!待って、まってよぉ、んっ、若ァ…!」


馬岱が必死に止めようとしても、馬超は何も答えない。
それどころかなおも自身を刺激しながら、はだけてちらちらと垣間見える馬岱の胸の飾りを、口で弄び始めた。


「あ!若ッ、それ、あ、ん!らめ、やァ!ダメ…やァ!」


乳輪を舌なぞり、頂をべろり、と舐める。飾りが固くなりだすと、歯で軽く噛んでみせた。
痛みにすら馬岱はびくびくと反応を示し、すぐに胸の飾りはぷっくりと赤く充血して存在を主張した。
性感帯を同時にいくつも責められる刺激に、からだ中に熱が駆け巡る。腰がズンと重くなり、解放を求めて、両足がガクガクと痙攣した。


「ゃあ!イっちゃ、待っ、や、あァッ―――!!」


容赦なく射精を促す動きに、馬岱はあっけなく絶頂をむかえた。ビュ、ビュッと勢いよく飛び出た白濁は馬岱の腹や胸を汚し、馬超のほおにも一滴の白を差した。
ハッハッ、と呼吸もまだ整わない馬岱に、馬超はいきなり馬岱の白濁で濡らした指を三本、後孔につき入れた。


「んアッ?!!はぁ、あ、やぁ!わか、だめ…まだ俺、イッたばっか…やぁア!」


後孔が、いつもより熱い馬超の指をきゅうきゅうと締めつける。しかし、馬岱の指によってある程度ほぐされたそこは、簡単に侵入を許した。
無遠慮に侵入した指は、壁を軽くたたくようにバラバラと動いたり、ぐにぐにと入り口をほぐすように押す。前立腺を強く押されると、強すぎる刺激に馬岱の腰が逃げるように跳ねる。しかし逃がさないように馬超の腕が腰を掴み、前立腺を弄ばれる。
その愛撫は、絶頂の余韻が残るからだには過ぎた快楽となる。快楽に耐えるように固く閉じられた馬岱の目からは、涙がつぅ、と流れ落ちた。


(若、やっぱり怒ってる。こんな若、怖いよ)


「わか、あァ!ごめ…あ、うぁッ、ごめん、んっ、ごめんらさい…!」


まわらない口を必死に動かし、馬岱はうわ言のように謝罪を繰り返した。
馬超が何に怒っているのか、熱に浮かされた頭でははっきりとわかっていなかった。
捨てられたくない。ただそれだけが馬岱の思考を埋めていた。


「…何故、求めない?」
「え…?」
「何故俺が側にいるのに一人で慰めていたのだ、と訊いている」


突然、ぴたりと馬超の責めの手が止まった。荒い息を吐きながら、馬岱がそっと馬超を見上げると、やっと馬超が口を開いた。
いきなりの質問に意味がわからずにいると、もう一度馬超が問いかける。質問の意味がわかると、馬岱は気まずそうに目をそらしてしまう。そんな馬岱を責めるように、馬超の指が強く前立腺を刺激する。
一際大きな嬌声をあげると、馬岱は再び馬超の顔を見た。その表情はこちらに有無を言わせない、馬岱にとっては絶対に逆らうことのできない、『命令』する顔だった。
ようやく観念した馬岱は、おずおずと口を開きだした。


「だって、俺ばっかり欲しがって、その、浅ましいって若に嫌われちゃうんじゃないかって…」
「馬鹿者!俺が岱を嫌うなどありえん!!それに俺達は恋人だろう!俺が欲しいなら素直に求めろ!」


馬岱の答えを聞くなり、馬超が大きい声をあげた。
その声に馬岱はビクッ、と肩を震わせた。その肩を力強く抱きとめ、馬岱の首筋に顔を埋めて馬超は続けた。


「俺は岱が好きだ。お前が望むまま愛してやりたい。けれど俺はお前のように気はまわらぬから、察してやることはできん。だから、俺をもっと素直に欲しがれ。俺ばっかり欲しがるのは、嫌なのだ」


少し照れるような馬超の声色。痛いほどに強く馬岱を抱いた腕。
そのどれもが、馬超の本心を馬岱に語りかけてきた。


(俺ばっかり、欲しがってたわけじゃなかったんだ)


「ゴメン…ゴメンね若」
「わかれば、いい。大好きだ、岱」


馬超をぎゅっと抱きしめながら、馬岱は謝った。馬超に腕をまわして抱き合いながら微笑んで、馬超の口に己の唇を軽く押し当てた。





「ねぇ、若。続き、してほしいな」
「岱…いいのか?」


馬超の胸元にほほをくっつけながら、馬岱は甘えるように行為の続きを強請った。
無理やり犯すような真似をしてしまった。頭に血がのぼっていたとはいえ、乱暴なことしてしまったと後ろめたく思う馬超は、馬岱の誘いに戸惑う。そんな馬超を、にっこりと微笑みかける。

「俺は若が欲しいんだよぉ。…誰かさんのせいで俺、こんなになっちゃったんだからね」


馬超の手を掴むと、馬岱は恥ずかしそうに目をそらしながら、自分の股座に触れさせた。触れたそこは、まだ収まりのつかない熱が脈打っていて。思わず馬超はかぁ、と顔を赤らめた。


「…わかった。岱、口づけてもいいか?」
「ん…」


律儀に許可をとる馬超にせがむように、唇を軽くつき出すと、そっと口づけられる。唇を触れさせるだけの軽い接吻から、次第に舌を絡ませあう。それだけで、忘れかけていた欲望に火が点る。むしろ、それまで以上の情欲の炎となって、からだ中が焼けつくされるように熱くなった。


「ぁア!や…そこ、あァ、んっ!あァあ!!」
「お前のここ、俺を指を喰らってしまいそうなほど締めつけてくるぞ」
「あァ、んァ!言わな、んッ、いでよぉ…!」


再び後孔に指が侵入した。先刻のようにただ激しく責めたてるのではなく、愛でるように優しく丁寧に、前立腺を摩ったり押し潰される。
馬超に触れられるたびに太ももがびく、とわななく。しかし散々馬超に可愛がられたそこは、さらなる刺激を求めて淫らにひくつく。


「若、も、大丈夫だからぁ、挿れてよぉ…!」
「まだキツイのではないのか?」
「ん、いいからッ…わかが、欲しいよぉッ!」
「…どうなっても知らんぞ」


ひくひくとうずく後孔に、馬超の欲望の切っ先が触れる。押し当てられたそこは、今にも勝手に飲みこんでしまいそうに、物欲しげに収縮を繰り返していた。


「岱…っ!!」
「ん、若、わかぁ…あァッ!!」


腰をがっしり掴まれ、後孔に剛直を半分ほど突き入れられる。
どうしても慣れない、体内を押し開かれる感覚に、つい力を入れてしまう。


「っく…!キツいな……岱、力を抜け」
「はぁっ…はぁ…!…っん、くぅ、あァッ…!」


眉根を寄せ、歯をきつく噛みしめて、馬超は快楽をやり過ごす。
馬超に言われたように、深呼吸をして馬岱は力を抜こうとする。呼吸に合わせて、締めつけが幾分か緩やかになった。その隙に、一気に残りを全部後孔に押しこめられた。


「岱、好きだ。好きだ…!」
「俺も好き…若、大好きだよぉ」


異物感に慣れるまで、馬超は動きを緩やかにして、馬岱のからだを気遣う。
無理なく受け止められる快感に、熱く荒い吐息を吐きながら、馬岱は馬超の背中に腕をまわす。
いつもより少しだけ低く、かすれた声で。馬岱に答えるように馬超が囁いた。馬岱も好き、と壊れた玩具のようにそれだけを繰り返した。
囁きながら、どちらかともなく口づける。最初はちゅ、ちゅっと唇を触れさせる。次第にそれは激しさを増し、口内をまさぐり、舌を絡ませあう。

口づけている間に、馬岱のからだから強ばりがとれた。からだが慣れると、中を犯す動きが激しくなった。


「」
「」


遠慮なく前立腺を抉られる。突かれるたびに、意識が白く飛ぶほどの刺激が馬対を襲う。
本能のまま馬岱を求める激しい動きにたまらず、抱きついた馬超の背中に爪をたててしまう。ちりり、とした微かな痛みに、馬超は眉根をしかめた。強い刺激から逃れようと揺らめく腰を捕らえられ、めちゃくちゃに乱された。


「若…あァん!おれ、も…!んぅ、イっちゃ…あァッ!」
「岱、イっていいぞ」
「あァ!あ、んんっ…それ、だめッ…!だめぇ…ッ!!」


達する直前の自身を握られ、擦られる。敏感になりすぎた裏筋を触られ、揺さぶられる動きが早くなる。結合部からは、ぐちゃぐちゃといやらしい水音が部屋中に響き、馬岱のふとももを伝わって落ちる。
前後からと、聴覚からの刺激。三方から責められ、絶頂を迎えようと、からだが勝手にびくびくとわなないた。


「イっちゃ、ァん!イッちゃあァ―――ッ!!」
「ぐぅ…っ!!」


一際強く前立腺を押され、遂情した。砲身が震え、勢いよく出た白濁が再び馬岱の腹を汚した。
吐精しながら、体内で熱い飛沫が飛び散ったのがわかった。腹を満たす熱い感覚に、馬岱は目を細めいやらしく微笑んだ。


「…ねぇ、若。俺、まだ若が欲しいよぉ」
「…岱!もうどうなっても知らんぞ」


覚悟するのはこちらかもしれない。淫靡な様子の馬岱を再び押し倒しながら、馬超は頭の隅でそう思った。








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