小説 | ナノ


理由は知らない


「プロデューサーちゃん起きてる?」

ちょっと強めのノック音の後に聞こえてきたのは彼の声だった。
「起きてますよ。鍵、開いてるんで」
「Oh!」
本当に驚いているのかわからないな、と漏れる笑いを少し抑えて残ったデスクワークを続ける。
「せっかくのHawaiiなのにenjoyしなくていいのかい?」
「仕事ですからね…というか舞田さん、なぜここに」
「なぜも何も…ね?」
頬にひんやりとした感覚。小さく悲鳴をあげる。
…おや。普段の彼ならけらけら笑うだろうに。
不思議に思いつつ手渡された缶を受け取る。そういえば他のメンバーはみんな未成年だった、と思い出して少し申し訳なくなった、が彼はその程度で拗ねるような質ではないだろう。
とすると、私に何か不手際があったか。
「とりあえず飲もうか?」
「…そうだね!」
間が合いた。絶対なにか思うところがあるときの声色だ。
とはいえ聞く気になれず、少しのわだかまりを抱えたまま他愛のない話が続く。

「ねぇプロデューサーちゃん」
「はい?」
「海外は危険が多いから、Hotelのkeyは閉めてって言ったのはプロデューサーちゃんだよね?」
「それはそうですが…」
「なんでkeyが開いていたんだい?」
まさか、私が不用心だったから怒っている?
「すみません、皆さんに何かあった時の為に開けていたんです」
「それでプロデューサーちゃんに何かあったらどうするの」
「…それは私の考え不足でした」
実際、日本人は海外では被害に遭いやすいと聞く。舞田さんの言うことにはぐうの音も出ない。
ただ、何かあったときに駆け込めるようにと考えていたのは悪い考えじゃないと思ってしまう我の強さが出てきてしまい、舞田さんをまっすぐ見つめる。
「…俺はプロデューサーちゃんが心配で来たけど、プロデューサーちゃんがその様子なら俺がわからせるしかないみたいだね」
「……え?」

静かに缶をベッドサイドに置いた舞田さんは、私の手を取りちゅ、ちゅと口づけ始めた。
「なっ、何を…っ」
びくんと震える体を片手で撫でまわされ、尾骨のあたりがぞわりと疼く。
力の緩んだ手からお酒の缶が奪われ、彼の缶の隣へと置かれるのを横目にどうにか抜け出そうと試みる。
「ほら、逃げられない。プロデューサーちゃんはこんなことを他の人にされかねないsituationだったんだよ」
中指の先を食みながら、舞田さんは怒気と熱情をないまぜにした瞳でこちらを見上げた。
「現に俺にこんなコトされてる」
「やっ…!」
いつの間にか晒された脚を撫でられ、震える手で舞田さんの肩を押したがぴくりともしない。
どうしよう。本当にこんなこと。でも、舞田さんなら。
徐々に快楽に堕ちつつある思考の中、最善の回答を選ぼうとしたその時。
「……なんてね!」
全ての拘束が解かれ、舞田さんは両手を上げて笑った。
「俺、ちょっと酔いすぎてたみたい!プロデューサーちゃんも仕事とかほどほどに……」
「舞田さん」
くい、と彼の寝巻の端を引いたのは、まだ薄く唾液の残る私の片手。

「鍵、閉めてくれましたよね?」

その気にさせたのは一体どちらなのか。明日のスケジュールだとか、そんなものはハワイの夜の暑さと海外のあまり知らないビールの味に溶かされていった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -