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DOTM後 ヒロインが反和平



あぁああ…。

とぼとぼと、額を押さえながら私は人気の一切無い廊下を抜けてゆく。外に出ると、冷たい風に大きく吹かれ足元のバランスを崩した。
何とか転ばすに済んだと思ったら今度は歩いていた先が壁だったのか、そこにごちんと衝突する。

小さく悲鳴を上げたが、大して気にせず、その壁に背を向けもたれ掛かりずるずると引力に従うまま、私は腰を降ろした。


不幸が起こり過ぎじゃないか。
たったこれだけの"僅かな"ともいえる時間に、沢山の不運が訪れているのは何故?
そう思う他なくて、むしゃくしゃとしながらも泣き出したい気持ちを抑えながら、私は深い溜め息をついてから膝を組んだ。



和平。
私たちより遥かなる年を経て、敵対していたオートボットと、ディセプティコンが結んだ休戦協定である。

それまでに私の大切な仲間たちなどの、たくさんの命が失われ、たくさんのものが奪われ破壊された。
そして、危うく地球という唯一の生命体を持つ星が彼らの手で滅亡されかけたというのに、彼らはまだ"今"を生きている。

たくさん、それは言い表すことが出来ないほど言い尽くせないほど、たくさん奪った。

建物はまた再建させることが可能であるが、仲間、家族、友達。
もう戻って来ない者、失われてしまった者には何かしら血縁があることは変わりは無い。そして、彼らが奪ったものの中には私の大切な大切な親友も居たというのに、


(今更、過ぎませんか。)


失われたものはもう戻らない、だけど奪った対象であるディセプティコンと仲良しごっこなんて、私には到底出来ない。出来る筈が無い、無理だ、不可能だ。

つまり私は今回の和平について完全なる反対派である。レノックス大佐には悪いけど、此処ばかりは譲れはしない。



―かけがえのない友であり、軍人である私をいつも影ながら応援してくれた彼女は果たしてどんな表情をして逝ってしまったのだろうか。
遺体を見ていないから解らないが、見たくもなくて、でも。
私はそれを考えるだけで、唇を噛んで涙してしまう。


「…私も死ねば良かったのに、」


戦って、せめて一発奴らに致命傷を与えられてから討ち死にすることが、今では羨ましいと思いがするほど、私は物凄く悔しくて、地面に伏すまで深く項垂れるしかない。


『…………、』


そんな私の様子を、誰かが見ていただなんて知る由も無い。





自殺願望を1人で掲げ、誰かの名前を紡ぎ膝を組んだ人間。

俺には見覚えがあった。この戦いで幾人の人間を見てきたから、その中の一人だろうと解決したのだが、奴の名を聞いて回路を巡るものがあった。
俺が絞殺した人間が、最期に綴った名だ。


(死ぬ間際に吐いた名が誰であろうかと薄らと興味はあったが、)


俺に発砲してきたあの人間だったとは。

怒りが篭っているのに無表情に近い顔で、問答無用といった雰囲気で銃を構えていた。
一瞬であったがお互い目が合った。奴がこちらを向いたのだ。
その時の、髪は黒く、瞳も黒く、しかしながら憤怒を露わにし見下しつつも、その瞳の奥で後悔し嫌悪し哀しみに満ちた光を放つ漆黒には、何かそそるものを感じたのは確かだ。


(興味がないといえば嘘になろう。)


丁度死にたいと思っているのなら、俺が殺してやってもいい―場合によっては、生かすかもしれないが。
どちらにせよ今の、和平という余韻に全くもって浸っていない俺にとっては暇潰しにしかなりえないこと。

あの同胞と同じ死に方が良いのならそうしてやろう。
さぁ何を望む?





――――



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2012.12.28 (Fri)


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