:: ▼将校
▼将校とお店の主
使用後のお皿を洗い終わったのと同時に、カランカランとドアのチャイムが鳴ったのが耳に入って顔を上げた。
小さな店にはよく響く音を響かせたのは、一人の青年だ。アメリカにしてみれば少し背が低いような気がする。
「いらっしゃい、」
小走りでカウンターに移動する。私を入れて厨房にいる店長と、ウェイターであるロラン以外にこの店には従業員が居ないのだ。
私が愛想よく声をかければ、そのお兄さんはニッコリ笑ってHi.と返してくれた。
よく見れば短い綺麗な銀髪で、服の胸のところにサングラスかな、バイザーかもしれない物を格好よくかけていた。瞳は透き通るくらいの青く、いとも簡単に吸い込まれてしまいそうだ。
俗にいうイケメンである。
前にも見たような気がするなぁ、でも雰囲気も違うし何より目の色が違うかも…なんて思いながら、お持ち帰りですかそれとも此処でお食べになりますか、と私は決まり文句を言った。
お兄さんは此処で食うよ、と言いながら、カウンター席に座った。何もかも絵になる仕種である。
…しかし前にも見たような…似たような銀髪のお兄さんが来たことがあるので、何だかふわふわした気分になる。
「ご注文は?」
『ケーキセットで、コーヒーとショコラケーキで。あ、あと食い終わったらアップルパイ3つお持ち帰り。』
「え、3つも?!」
『No.2様にさー買って来いって言われちまったんだよね。ほら、前に真っ赤な目した銀髪のお兄サンが来ただろ?』
「あ、はい、」
まさかの知り合いだったという事実が発覚。
『此処のアップルパイ、えらくお気に入りみたいだぜ?』
頬杖をついてニヤリと笑いながらそんなことを言ってくるものだから、ドキッと心臓が跳ねたのは言うまでもない。
なにせ、アップルパイだけは私が作る自慢作というか自信作なのだから。店長から唯一認められた私のスイーツが、好評だったと言われれば嬉しくない筈がない。
紅い目の銀髪お兄さんは、言動が印象的だったから記憶に留めている。うわぁ嬉しいなぁ。
「あ、ありがとうございます…。」
『俺も食ったけど、美味かったよ。』
「そうですか、」
『それで、おネェチャンが作ったって聞いたから、どんな子かなーと思って来てみたわけ。』
意外と、飄々と喋るお兄さんはやはりイケメンだ。ドキドキと胸が鼓動しているのが解る。
「はい、渡して。」
「ありがと、あ、おまちどおさま、」
『お、サンキュー。』
私が接待していたからか、ロランがケーキを持ってきてくれた。
かたりとテーブルに置くと、まじまじと私を見詰めているお兄さんと目が合ってしまった。
本当に綺麗な青だなぁとかうわぁああどうしようとか思ってると、その目が細められて、くいっと口角が上がった。
『照れてる顔、可愛いな。』
「えぇっ?!」
『ほら、そーゆーの。なぁあんたも食べて良い?』
―――
.
2012.10.20 (Sat)
prev│next