第弌話:第肆頁
天禰が話を終えるとクルスは静かに受け入れ、新たな疑問を口にする。
「神様って、元々そんな姿なの?」
なんとなく、ふと思い浮かんだ言葉に、途端に天禰の表情が芳しくなくなる。数秒間が空き、はっと口を覆った。
「あ、ごめん! 触れちゃいけない事だった? もしかして」
事情を、と言うか実体を知っている照前が話そうとしたが、天禰が腕を上げ制止する。不思議そうに見下ろす照前に“言うな“と含意した視線を送った後、天禰はそのままクルスに言葉を紡ぐ。
「この姿でいるのは、お前達になるたけ怪しまれない為だ」
「…………」
「済まない。騙すつもりでやっている訳ではないから、どうか許して欲しい」
「え、いやっ、許すも何も」
照前が天禰を見つめ、仕方ありませんねと呟く。視線の先の主人は何も知らないと言った風に無言を貫いている。
「で、これからどうなさるのです、主神」
クルスが俯きながら今までの出来事を頭で整理している間、照前が天禰に今後の計画を問うた。
「そうだな……此処にずっといる訳にもいくまい。何処か宿を探さねば」
折角クルスに会えたのだがなと、名残惜しそうに天禰が言う。その何とも言えぬ表情を見てしまい、不意に思考が止んだ。
此処にいて欲しい――そう思った時には、もう声が出ていた。
「良いよ」
「え?」
「だから、私の家にいて良いよ。全然、迷惑じゃないし」
「ですが……」
突然の提案に、照前が渋い顔をする。天禰は一瞬考え、それを呑んだ。
「来栖がそこまで言ってくれるなら――この森は不思議と落ち着くしな」
主人の賛成に照前は嘆息して、またもや仕方ないですねと彼の決断を受け入れる。
「それに照前、お前は寝る時にでも鳥になればいいだろう。その方が場所もとらずに済むしな」
「……承知致しました。では来栖様、これからお世話になります」
「こちらこそ! 神様も、宜しくね」
「ああ。宜しく」
こうして、神と少女の新たな生活が始まったのだった。