(死際-05 或る桜の最期)

 例えるなら、面倒な客。私にとって雨や風はそんな存在でした。
 ええ、でも、何故でしょうね。長い事生きていると、感覚というのは変わるものでして。
 あの可愛らしい花弁が幾ら散ろうとも、人々がそれを春の終わりと惜しもうとも。情けや容赦という言葉を知らない雨風が、強く吹き荒れて私に当たろうとも。もう、そんな事を気にする事はなくなりました。

 そうして世の中というものを佇みながら見て来た私は、少しばかり達観した物の見方をするようになりました。小さく薄い、儚いものの代表である花弁は、私の足元に散り、そしてその色素は来年の花弁の為に私の養分となるのです。
 嗚呼、人様の血ですか? あれは味が濃すぎて、私の口には合いません。お生憎様。まぁ確かに、朝気が付いたら死体が転がっていた、なんて事が幾度かありましたけど。血みどろでなければ構いませんが、それでも気分の良い物ではないですし。周辺を真っ赤に染められた日には、それを吸った養分が酷い不味さで堪りません。

 ――ですがそれも、今日で終わり。私は終わるのです。いや、終えるのです。全てを。
 嗚呼、そこの貴方、悲しまないで下さい。その必要はありません。これは摂理。寧ろ私は、長く生き過ぎたのです。
 しかし、もしこんな私にも“生まれ変わる”という奇跡があるならば、次は光の届かない深海の花にでもなりたいものです。そうすれば、“血で花を染める”などと物騒な事を言われずに済むでしょうから。


死際-05 或る桜の最期
(滅亡を選んだのは、自分)

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