「優太、毛!」
「はぁい、センセ!いっきますよー」
【ゆめにゆめみる】
ごつり、不穏な音と共に黒服の頭がコンクリートにたたきつけられる。
こいつらは、ヴァレンティーノファミリーではない。
あのふざけたマフィアとは異なり本物本職(無論あっちもそうなのだろうが、それでも!)マフィアというわけ。
荻野の依頼を【シャンプー券】と引き替えに受けた因幡、付き合わされる形の圭と優太は今、ネオンが映える夜の路上。
「ったく、割のあわねぇ仕事だな」
艶やかな赤髪が闇にはためく。圭は建物の隅から見守ることしかできないが、今日も明らかにスタイリストがついているだろうというセンスの私服を着こなす優太は先ほどから勇猛無尽の活躍ぶり。
助っ人・緒方が放った銃弾がスミスアンドウェルソンを背後に飛ばした。金属音に首をすくませ、因幡が前方に立つ荻野に呼びかける。
「荻!ボスはどっちだ、ケリつけようぜ!」
優太が因幡の背を守った。相棒でさえ入れない、確固たる縦の絆がそこにある。
「ニューナンブなんかぶっ飛ばしましょう先生!」
明らかに日本警察の標準装備を抹消しようとしている腹黒女装少年に、圭は心の中でツッコミを入れた。
(因幡さん以外は全員敵だもんな優太君・・・)
このタイミングばっちこいじゃないか!
「騒ぐな」
圭の口が背後から塞がれたのはそのときだった。
「!?」
「圭っ!」
因幡が目を見開き、短く圭の名を叫ぶ。
自然背を預けあうようになる因幡たちに、圭のこめかみに銃を宛てた男は勝利を確信した笑みを浮かべた。
「卑怯だぞ!」
「先生大丈夫です、圭くんも撃たれたくらいでくたばりませんよ!」
「おいおいおいそんなの荻野だけだからな、どうする弘」
緒方は肩を下げ、ニューナンブのリロードを確認して眉を寄せた。
「チッ・・・」
「銃を捨てろ・・・!警察犬の秘密、暴かさせてもらう」
圭は真っ青で、こめかみにあたる銃の感覚におびえを隠せない。ガブリエラのようにすこしも躊躇は見られなかった、しかも間抜けな要素など、
「わかった、まず圭を」
因幡が一歩、圭を捕らえる男に近づく。
あと3メートル、どうにか出来る距離ではない。
それに安心したのだろう、男も特段警戒した様子はなかった。
「・・・!」
圭は気付く。
その背後、緒方が必死に圭に合図を送っているのを!
「(・耳・・を・・・?)」
必死に自らの耳を指す緒方。
荻野の目が、闇に光る。
「ほら、武装解除だ!さっさと圭を離しやが、」
ぱあん!!
まさしく鼓膜を破くのではないかという勢いで、圭の耳元を何かが駆け抜けた。
這うようにしてそこから離れる。
肩を押さえてもんどりうつ男を、荻野と緒方が確保していた。
「大丈夫か、圭!」
「おい、助手。今明らかに俺を狙ったろう」
ーーー優太君がいない。気付いて振り向けば、妙に長いライフルを抱えた美少女もどき。
「よくやった、優太!」
いつの間に抜け出し背後に回ったのだろう、まあこの人に常識を説いてはいけないか。
嬉しそうに因幡に頭を撫でられる優太を見て、こんなときに不謹慎にも、いいな、と思ってしまったのは圭少年だけの秘密である。
(ちゃんと役に立って、ちゃんと足手まといにならなくて、ちゃんと)
なんて、そんな夢。