ぽたり、ぽたり、
真っ赤なモノが、零れていく。
いつも見ていた大きな背中。誰よりも輝いていて、そんな彼の背を見るのが好きだったのに。
「……んで、」
ぐらり。前にあった背は揺らぎ、とっさにそれを抱き止めた。ずるずると、二人一緒に地面に崩れ落ちる。
「なんで私を庇ったの!竹谷ッ!」
竹谷の背から溢れる血に、名前の装束が赤黒く染まっていく。ヒュウ、と聞こえるかぼそい呼吸音が、とても痛々しい。
名前のあげた声に、竹谷は薄く笑うだけだった。
彼の口から吐き出される空気の音が、言葉を形作るものだと気付き、名前の眉間に寄ったしわは、さらに深くなる。
「何が大丈夫よ!あんたの方が…!私の心配するなら、じぶんのしんぱいしろバカ…っ!」
そう言いながら、名前は竹谷を抱える手にぎゅうと力をこめた。釣り上がっていた眉は下がり、瞳は水の膜を張る。
「ばか、ばか、ばか…」
ぼたぼたと、こぼれた涙が竹谷の頬を濡らす。
「ばか、やろ…っ!」
右手を動かし、竹谷の手を握る。固く固く握りしめるも、返ってくる力は弱々しい。
あの時、後ろから名前を狙う敵に気付いた竹谷は、クナイでその首を撥ねた。しかし、同時に相手は、槍で竹谷の右の肺を一突き。その傷を見て名前は分かった。竹谷は助からないと、分かってしまった。
「…ゴホッゴホッ」
「っ!竹谷ッ」
ごぽり。竹谷の口から血があふれ出る。
どうにもできない自分が歯痒くて、名前はギリッと歯を噛み締めた。
竹谷は薄らと目を開けて、柔く笑う。いつもの弾けるような、太陽みたいに輝くような笑顔ではなく、彼に似合わぬ静かな微笑み。
俺、おまえらといれて、すごく楽しかった。
「そんなこと言わないでよバカ左衛門!なんでっわたしなんかをっ……あんたがいなくなったらだれが、いきもののせわするのっ」
みんな上手くやってくれるさ。生物委員会なんだからな。
わなわなと唇が震える。彼が自分を庇ったせいでこんなことになったことが悔しく、そして悲しい。
微笑んだままの竹谷の目から、一筋の涙がこぼれるのを見て、名前はハッと目を見開いた。
もっと、おまえらと居たかったなあ。
その言葉を聞いたとたん、名前の涙腺は決壊し、竹谷にぎゅうとしがみついた。次から次へとあふれ出る涙は、竹谷の装束を濃紺に染め上げていく。
なんで生まれたのがこんな時代なんだろう。もし生まれるのがもっと先だったなら、みんなで笑っていられたのだろうか。
笑いあえる未来。欲しかったのは、ただそれだけなのに。