レストランの扉を開けて、ひゅるりと吹き込む冷気とともに中に入る。無意識のうちに縮こまっていた体を自分の両腕で抱きしめ、すぼめた首を少し伸ばして店内を見回した。席はどこもいっぱいで、みんな暖かそうな飲み物や料理をいただきながら、柔らかい表情を浮かべている。外では誰もが冷たい風に追いたてられて、足早に通り過ぎて行くというのに、ここは違う時間を送っているみたいだ。

「いらっしゃいませお客様」

かけられた言葉に振り返ると、爽やかな明るい緑の髪色をした、ウエイター姿の青年が立っていた。

「こんにちは。相変わらずすごい人気だね」
「ええ。この頃は寒いですから、暖かい空間を求めて来られる方が多くて。こちらのお席にどうぞ」

デントくんに案内されて、店内の隅の方の席に腰をおろす。肩に乗っていたチラーミィが身を乗り出して、デントくんに向かって鳴いた。

「だめだよチラーミィ。デントくんはお仕事中」
「チラーミィ!」

遊ぼうよとばかりにしつこくデントくんに鳴くチラーミィ。デントくんは苦笑した。

「懐いてくれてるのは嬉しいけど、今は仕事中なんだ。また後でね、チラーミィ」

ぽんぽんとデントくんがチラーミィの頭をなでる。むう、と頬を膨らませたチラーミィは、肩からするりと降りて私の膝の上に納まった。

「ほら、拗ねないの」
「あはは。メニュー表をどうぞ、お客様」

膝に乗ったチラーミィをそのままに、デントくんに渡されたメニュー表を眺めるが、どれも美味しそうで迷いに迷う。いつもうーんと考え込む私に慣れたもので、デントくんはいつものようにひとつのスイーツを指さした。

「今日のオススメはこれですよ。新鮮なモモンが手に入りましたから、普段より一層おいしくなっていると思います」

にこりと告げたデントくんに、じゃあそれでとお願いする。

「それと、いつもの紅茶も」
「かしこまりました」

お辞儀をして厨房に行ったデントくんは、しばらくするとティーセットとモモンの実がふんだんに使われたパイをお盆にのせて戻ってきた。

「こちら、モモンパイになります。それと」

テーブルの上にパイを置いて、デントくんはもうひとつ、小さなお皿にのった小さなパイを置いた。

「こちらはチラーミィに」

ぱちん、とウィンクをして小声でデントくんは言った。パイの匂いにつられて顔をあげたチラーミィは、目を輝かせてパイをじっと見ている。

「ごめんね、ありがとう」
「いいえ。いつも来てくださってますから、特別に、です」

食べてもいい?食べてもいい?とパイと私たちを交互に見るチラーミィに苦笑しながら、デントくんは言った。さっきまではふてくされてデントくんを見ようともしなかったのに、自分の態度をすっかり忘れたようにキラキラした目をデントくんに向けているチラーミィは本当に現金な子だ。

「ほらチラーミィ、ありがとうは?」
「チラーミィ!」
「ふふ、どうぞ召し上がれ」

その言葉を聞いたとたんに、チラーミィはパイを両手で抱えてパクついた。その顔は幸せそうに緩んでいて、なんともおいしそうだ。

「名前さんには、こちらの紅茶を」

デントくんによってカップに注がれる温かそうな紅茶を見ながら、口を開く。

「デントくんのスペシャルブレンド、お店の品にしたらいいのに」
「これはお客様用にではなく、お友達用ですから」
「そうですか」
「そうなんです」
「…なんか、嬉しいですね」

ふふ、と笑えば、デントくんは「ついでに言いますと、」とにっこり笑った。

「僕のスペシャルブレンドは、特に親しい人にしか淹れないんです」

そう言ってデントくんは注ぎ終わったカップを私の前に置いた。そのカップをすぐに両手で持ち、私は緩みきった口元を隠すように温かい紅茶に口をつける。
紅茶はやっぱりおいしくて温かく、それと別の意味で心もぽかぽかしていた。





あたたかな紅茶を
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