見たことのない景色に立っていた。足の裏には砂利混じりの冷たい地面の感触があって、山々の間から太陽が顔を出し始めたとこらを見るに、朝の時刻のようだ。

(ここはどこ?分からない!)

ふと、視界にきらきらしたものが見えた。
手に取って、くん、と引っ張ると頭皮が突っ張った。痛い。

(私の髪の毛!なんだかラプンツェルみたいじゃない!)

手を離して、くるり、と踊るみたいに一回転すれば、背よりももっとずっと長い金の髪の毛が宙に踊った。
動きに付いてくる金色を目で追いかけていた、その片隅に人の姿が見えて、立ち止まる。じっと目を凝らせば、蹲るように二人、立っている人のような何かが一人、いるのが分かった。
そして目立つ、散る赤色。

(怪我した人がいる!)

それは天啓のような発想だった。

「わーお!これはつまり、目の前の人を助けるってことなんだわ!ミッションインポッシブル!」

黒い学生服を来た男の子たちに向かって走った。裸足なので野生児みたいだと思った。
駆け寄ると、悲痛な顔と血みどろの青白い顔と猪の顔面がこちらを向いた。

「ハァイ!ちょっと失礼!」

挨拶もそこそこに、膝をついた怪我人らしき人の側に毛先を投げる。即座にその周りを走って、長い金の髪の毛で人をぐるぐる巻きにした。
炎のたてがみの人の前に座っていた、おでこ丸出しの男の子も巻き込んでしまったけれど、まあいいだろう。

「な、なんなんだ君は!やめてくれ……!」
「最期の想いを聞いていたってとこかしら!嫌だよそんなの、悲しみのお別れなんてさせないわ!ねずみーランドの世界はハッピーエンドって決まってるの」

耳飾りをぶら下げた男の子が切実に泣き叫ぶ。彼の気持ちは分かる。たぶんきっと、大切な人なんだろう。大事な時に変人に邪魔をされて、このまま永遠の別れになるなんてふざけるなって話だ。
だけど、そうならないように、馬鹿みたいな真似をしてるんだ、こっちも。
くるくるっと頭皮近くまで接近、顔を間近で付き合わせたところでひとつ任務完了。
巻きつけてる最中に、死にかけの人の土手っ腹に穴が空いてるのを見つけて眉を顰めた。見ているだけでこっちが痛い。
じわじわと地面に広がる赤色が、金色の髪を染めていく。

「あなたたち、絶対いい人だもの!赤と黄色!太陽の色!悪役じゃないわね、分別するなら正義の味方に決まってるわよ絶対」

だから、助けるの、わたし。

「 花はきらめく 魔法の花。時を戻せ 過去に戻せ。傷をいやせ 運命の川。さかのぼれ よみがえらせろ。過去の夢 」

すう、と息を吸って流れ始めた歌。ゆったりとした調べが進むと共に、髪の根本から、光り輝く魔法の力が流れて行く。
やがて光は毛先まで満たされた。
治れ、癒せ。想いながら歌い、終わると同時に閉じていた瞼をそっと持ち上げる。

「……どうかしら?」

返事がない。
閉じていた左目は閉じられたままだ。

「あの?生きてる?死んでないわよね……?」

おっかなびっくり、もぞもぞと髪の毛の中に手を突っ込み、太陽のような人の腹に触れる。穴に手を突っ込むことになったらどうしようかと思ったが、たどりついたのは地肌だった。
範囲を広げて手探りで腹回りを触診したところ、どこにも穴はないので、どうやら治ってはいるらしい。

「だとすれば失血で意識混濁?やめてよ。怪我は塞がっても血は戻らないなんて、そんなのナシ寄りの無しだわ」

ちょっと失礼。と声をかけて、手を伸ばす。
顔の輪郭に手を添え、閉じられたままの左目付近に付いた血を、親指で拭った。

「まだ痛みます?」

狐につままれたようにぼんやりとしていたお人は、感触と声に我に帰ったらしい。急に顔付きに覇気が戻った。





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