賢者は厄災を追い返したらいつの間にかいなくなり、新しい賢者が来る。
何人もの賢者が都度現れたが、彼らは元の世界に帰ったのかどうなったのか、知る者はいない。この世界に今いる賢者ではない賢者がいたことを示すのは、魔法舎の本棚にずらりと並んだありとあらゆる言語の日記。
しかし、どんな性格で何が好きだったか、どんな気持ちで賢者と接していたかの想いすら、泡のようにぱちんと弾けて消えてしまう。

賢者様のことは覚えていないけれど、合コンだとかバレンタインとか、一緒にいた賢者様は見えなくても何をしてどんな気持ちを抱いたか、思い出は残っている。ちゃんと覚えてる。

それは誰の言葉だったか。
切なくて優しい言葉だと、その時は思った。
自分も今までの賢者と同じように、何百年も生きる彼らの思い出の一部になるほどになれるのなら、嬉しいだろうなと思った。
でも、それはただの事実なだけであって、めでたしめでたし、で締めくくったわけではないのだと、私は知った。
この世界の危機が去って、また一年、次の災厄まで生きていられる。それだけ。そして役目を終えた賢者はいなくなる。
使い捨てのチケットみたいに、厄災を追い返したらお役目御免。
居た事実だけを残し、記憶から消えた賢者の行方を心配する者は誰もいない。だって声も形も、想いも、忘れられたのだから。
使い終えたチケットを回収しようなんて誰も思わない。その存在に、最早意味はないのだから。
厄災だけでない。繋いだ縁の意味も丸ごと全て、弾けて消えてしまった。ーーぱちん。





賢者の約束
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