「ということで!今日からもふり隊に新規加入しました、隊員番号第三番、オレンジの新星ブースターです!」
「ぶいぶいー!」

わー!ぱちぱち!
隊長と副隊長で拍手喝采。
育ちの町マサラタウンを含むカントー地方にて、二匹目の隊員を友情ゲットしたもふり隊一行は、一段ともふもふしさを増したパーティーに大層ご満悦である。
一方、新入りのブースターは、熱烈な歓迎を受けてちょっぴり自尊心が高まっているご様子。ひたすらに、ようこそ君を待っていたんだ我らもふり隊に加わってくれたこととても光栄に思うよこれから末永くよろしくね君のもふもふは責任を持って私が持続向上させていくから任せて本当に最高だよ君のもふもふ!ブイブイ!と言われれば、それも仕方のないことと言えよう。
そんなことをはさみつつ、波に揺られて優雅な船旅。
風の吹くまま気の向くまま、お次に向かうは暖かな気候が特徴の、ホウエン地方である。

「ささ、イーブイ、ブースター、ブラッシングしよー」
「ぶい〜」
「ぶーすた!」

ぴかりと輝くお日さまと青空の下、旅立ちの時に何よりも丁重に用意したお手入れセットを使って、順番にブラッシングを施していく。
よくフレンドリーショップなんかのお店では、毛のあるポケモン専用、という説明文とともに販売してあるが、毛皮の子はみんなそれで良い毛艶になるのかといったらそうではない。一般的にはそれ思われているのが普通なのだが、カントー・ジョウト中を巡ってもふって歩いた中で、タイプによってもふもふ具合に特徴があったり、同じタイプでも質感が微妙に違っていたりすることが分かった。イーブイとブースターは進化形ということもあり、割と同じような姿形をしているが、毛の性質が少し違っているので、別々のブラシや洗剤を使っている。
どういった毛並みに仕上げたいか、というところからも、使用するブラシなどの種類が変わってきたりする。
私が大切するのはもふもふ感。イーブイの方は、ふわふわとしたボリュームよりもさらっとした指通りと艶を意識し、けれども空気を含ませているような手触りの良いもふもふを。ブースターの方は、炎タイプの特徴であるたっぷりとした毛を存分に発揮できるよう、毛艶よりもボリューム感を重視したもふもふを目指したブラッシングをしている。
そこに、余分な手入れやアクセサリーは加えない。
飾らない自然さ、それでいて見ても触っても心が満たされるもふもふを。私が求めるのはそういうブラッシングだ。
丹念に手入れをし、出来栄えの良い二匹をもふもふし、お昼寝をし、おいしいものを食べて、空に白くて黄色いくちばしを持ったポケモンが舞い始めた頃。

「やや?」

水色の鳥ポケモンの群れが、船体の上を通り過ぎていく。その後方に、ぽつんと取り残された水色の点があった。それは、ふらりふらりと宙に頼りない線を描くように飛行している。
ようやっと、船の上までやってきて、そのままの調子で通過していくものかと思えば、段々高度を下げていく。と同時にその姿が明確になってくる。

「ちるる〜」

あ〜れ〜といった具合に、飛んできたというよりは落ちてきたその子は、ちょうどこちらに向かってきたので、両手でしっかり受け止めた。

「う。きみ、なんだか重くない?」

支えている指で手触りを確かめ、肉付きの良い体を確認した。
なるほど、この重たさだと、他の仲間たちについて飛行し続けるのは難しいだろう。初めて見たポケモンだが、同種の他個体とは体格が違うだろうということがはっきりと分かるくらい、鳥ポケモンにとって致命的な重さを持っている。
控えめに言っても、とてもぽっちゃりだ。

「ちる?ちるる」
「……自覚なしなのね」

きょとんとこちらを見てくる空色っ子に空笑い。

「どうしようか。追いかけられる?」
「ちる!」
「そっか。じゃあ頑張って。まだそんなに遠くには行ってないと思うよ」

うん!と頷いたのを信じ、合図をして投げ上げる。

「いちにの、さん!」
「ちるー!……ちる〜る〜」
「ありゃ」

投げ上げ、飛び立ったかと思えたその瞬間、即座に落下。羽ばたいてはいたけれど、体は持ち上がっていなかった。
やはり体重が原因か。ここまでよく飛んでこられたものだ。

「うーん。困ったね」
「ちる……」
「ぶい!ぶーい!」
「なあに、イーブイ。……あ、なるほど。分かった。そういうことだね」

イーブイの言わんとしていることをすぐに理解し、しょぼくれている彼のところへ歩み寄る。

「ねえねえ、私たち、今旅をしてるの。世界中のポケモンをもふもふする旅」
「……ちるちる?」
「そう。あのね、実はさっき君を受け止めた時、ビビッときたんだ。君の羽、とっても素敵なもふもふだよ!私気に入った!でね、これもきっと縁なんだよ!」

両手のひらを広げ、感情をのせるままにつむぐ。

「よかったら、私たちと一緒に旅をする、仲間にならない?」

私の言葉を受けて、つぶらな瞳をきらきらさせて黙っていたが、しばらくして大きく頷いた。

「ちる!」
「やった!ありがとう!隊員番号第四番、えーっと、名前が分かんないな」

下唇を指でつまんで考え始めた時、ふわりとした風とともに同じ水色の子が欄干に舞い降りてきた。その子は、ぽっちゃりっ子の隣に降り立ってくるりと首を回す。

「ちる?」
「この子のお友達かな?」
「ちるる!」
「そっか!こんにちは、あのね、この子を仲間にならない?って誘っていたところだったの。大丈夫かな?」

尋ねると、お友達は上を見上げた。つられて空を見ると、そこにはさっき飛んでいた群が滞空している。
そのうち一番大きな、おそらく進化系だろうポケモンがぽっちゃりちゃんに鳴きかけた。

「チルー?」
「ちる!ちるる!」

羽をパタパタ動かして返事をするその子に、ひとつ頷いて、今度は私を見て頷いた。

「チル、リィー」

そうしてふわっと風船が飛んで行くように滑らかに上昇し、群たちも後に続いて舞い上がっていく。
欄干に降りてきていたお友達は、すりすり、とぽっちゃりちゃんに身を寄せて、くちばしで羽を食んだ後、ほこりが風で舞い上がるかのように音もなく軽やかにふわりと上昇した。

「きれいに飛ぶんだねえ、君たちは」
「ちる!」

胸を張るその子と一緒に、仲間たちが遠い空の向こうに消えていくのを見送った。
さて、と新しく加わった隊員に向き直る。

「きみの名前はなんていうのかな」
「ちるっとー!」
「チルトー?」
「ちる!ちるっと!」
「チルット?」
「ちるちる!」

うんうん!と頷いたぽっちゃりちゃんに、ぽんと手を打つ。

「チルット!チルットっていうんだね!」

両羽の付け根に手を差し込んで抱き上げる。高く掲げてくるりと回り、向こう側に広がる空と同じ色をしたチルットを見上げた。
もこもこした翼は、雲のようで、空を生き物の形にしたらきっと、チルットになるんじゃないかと思った。

「これからよろしくね!」
「ちる!」

元気よく鳴いたチルットに、イーブイもブースターも挨拶をする。
船が港に着いたら、新入隊員のために新しいブラッシング道具を揃えよう。翼の感触を確かめながら、出会った新しいもふもふ心地をどう磨いていこうかと、探究心と好奇心と期待とでわくわく躍った。





空からころり、もふり隊!
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