ドジでビビりでおっちょこちょいのダメツナ。そう形容されていた様子は見る影もなく、十年の歳月を経た今は色素の薄い目と髪も相成って、どこから見ても立派なイケツナに進化していた。
それを彼に言うと、「ダメツナもあれだけど、イケツナも嬉しくはないかな……」なんて苦笑いされたのが記憶に新しい。生活のほとんどをイタリアで過ごすようになってから、ツナと会うのは月に一度あればよい方だった。彼も私も仕事が忙しく、連絡を取るのもそう頻繁じゃない。だけどその分、会った時にはこれでもかと気持ちを注いでくれるのが分かるから、顔が見れない日が続いても何とかやっていけている。
とはいえ少し困ったことがあって、イタリアで過ごす時間が長い分、彼は言動がどんどんオープンになってきていて、レディファーストなのはもちろん、スキンシップだって、こっちがびっくりするくらい自然にやる。あまりに自然すぎて、照れるこっちがおかしいんじゃないかって気持ちになる。
いつもいつも翻弄されてばかりなので、たまにはドキッとさせてやりたい。と決意した私は、次にツナに会う時に向けて、どうしてやろうかといろいろ考え準備した。
そして決行したのだ。

「ねえ、ツナ」
「うん?」
「Be mine forever」

イタリア語はよく分からない。だから英語でシンプルに。そして数あるうちからこれだ、と選んだ腕時計を、彼の手をとってはめてあげる。
その間、彼は男性にしては大きな目をぱちくりさせて、自分が何をされているかじっと見ていた。
カチ、と留め具をはめて、手を離す。ひとりでに嬉しく楽しくって、ふふん、と得意げに笑った。
ツナはまじまじとはめられた腕時計を見て、私を見た。その瞳に映るのは、にまにまと変に笑っている私だろう。
いつもやられてばかりだから仕返しだよ、そう言う前にツナが動いた。
ポケットに手を入れ、取り出した何か。先ほどの工程を繰り返すように、私の左手をとり、その何かを薬指にはめた。

「――え、」

きらり、輝く光の輪。

「You are mine forever」

すらりと流暢に吐き出された言葉に、パッと顔を上げる。
ゆるやかに口元は弧を描き、明るいブラウンの瞳はやわらかな熱を灯していて、キャラメルが溶けているようだった。その熱に包まれるのを錯覚するとともに、左手をとったままの彼の親指が、すり、と肌をなでて、そこから一気にぶわわと発熱する。
恥ずかしさと、多幸感と、嬉しさと。そして、してやられたという気持ちで、ぐううと唸った。

「……超直感、ずるいよ」
「直感がなくても、君にはいつだってそう思ってるよ」
「いや、だって、指輪とか、こんな何でもないタイミングだって思わないじゃん……」
「タイミングなんて気にしないよ。君と過ごす時はいつでも特別なんだから、いつ渡しても同じだもの」
「ウワア」
「それより、腕時計までは読めなかったなあ」

とろけたキャラメル色が、腕時計に注がれる。

「すごく嬉しい。大切にするね」

ふふ、と幸せをこぼすように彼は笑った。
これは一矢報いたか……?と思うも、驚きよりも幸せをつめこんだ甘いチョコレートみたいな雰囲気を漂わせる彼に、刺さった矢はチョコレートフォンデュになって甘い海に沈んでいく光景が浮かんだ。試合に勝って、勝負に負けた気分だった。
そして、きっとこれからもそうなんだろうなあ、と思いながら、二つのリングを見つめた。



Be mine forever.「永遠に、私のそばにいて」
You are mine forever.「あなたは永遠に僕のもの」
腕時計。あなたと同じ時を刻んでいきたい。





Be mine forever.
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