一週間の最後の日、休みである日曜日。小野田坂道は、秋葉原を訪れていた。
今日は部活もお休み。自転車競技に楽しさを見出だした彼にとって、自転車を回すことはもちろん楽しいことであるが、それと同じくらいにアニメなどが大好きなのである。それに関することを堪能できる秋葉原という場所は、まさに一般人にとっての遊園地に相当するようなところだった。
リュックを背負い、眼鏡をかけて、パーカーにジーパンを身に付けて、ママチャリで道路を走っていく。
ロードバイクに比べてペダルは重いけれど、ずっと踏んできたこの重みにしんどさを感じることはない。
今日はシークレットなマニュマニュのガシャポンを狙い、そのあとにラブ☆ヒメのグッズを見に行く予定だ。欲しいものを好きなだけ買えたらいいのだけど、高校生という身であるので、あまり出費は望めない。そのため、店頭での観賞に留まるのだが、それだけでも十分に楽しいひとときだ。社会人になって、給料をたくさんもらえるようになったら、ガシャポンをたくさん回してグッズも買って、一番くじだって何度もやって全種類集めてみせるんだと、空想上の明るい未来に思いを馳せる。
目的地につき、自転車をお店の横にとめて、鍵をかける。ズボンのポケットに鍵を入れながら、外にずらりと並ぶガシャポンのもとへ向かった。
リュックから財布を取り出して、いざ、と機械に小銭を投入する。どうか出ますようにと祈り、取手を回した。
そうしてコロン、と出てきたカプセルの中にいたのは、すでに持っている色のマニュマニュ。マニュマニュは好きだから複数いてもいいけれど、今狙っているのはシークレットなので、残念な気持ちになった。
だけど自分で決めた今日のガシャポン回数限度は五回。あと四回回せる。
最初はだめだったとしても、次こそは、とすぐに小銭を入れて、全身全霊をかけて回した。




お金を入れて、回してを四回繰り返し、手元にあるのは見慣れたマニュマニュたち。シークレットは未だ当たらず、である。
テンションはだだ下がりで、もう当たらないんじゃないかと、五回目を回していないのにすでにがっかりした気持ちでいっぱいだ。
今回もまただめかあ。
もうだめだという後ろ向きの気持ちの中に、ほんの少しだけ期待をかけ、最後の一回をやろうと財布から小銭を出す。
その時、何かにぶつかられ、持っていた小銭が手からとんでいった。

「わっ!」
「わ!あ、すみません!」

チャリン、と音をたてた小銭を探すより先に、ぶつかってきたらしい相手が、謝ると同時にしゃがみこむ。
自分よりも小さくなった相手を自然と見下ろすかたちになり、心の中で、わ!ともう一度声をあげた。
ぶつかってきた人は、コスプレをしていた。制服を着ているけれど、下を向く後頭部が白銀なのだ。光に当たると微かに茶色がきらめくので、ほのかに茶色がかった髪色なんだろう。
特異的な髪の毛は、コスプレをしているんだと思わせるに十分だった。
思わず無意識にじっと見つめる。コスプレのことは知識として知っているけれど、こんなに間近で見たことはなく、好奇心や感動がわき上がってきてのものだった。

「すみません、あの、お金……」
「あ!い、いえ!あ、ああありがとうございます!」

拾ってくれた小銭を差し出されたが、上げられた顔にもまた見入ってしまった。声をかけられて我に返り、慌てて受けとる。
そんな小野田に不信感を抱くでなく、本当にすみません、と何度目かの謝罪するその瞳は、金色だった。眩しく輝く色合いではなく、透き通るような金色。
髪も目も、日本人ではありえないそれは、外国人でも見かけたことのない色。けれど、どちらも、日本人の顔立ちだというのに全く違和感がない。
道行く人が思わず振り返ってしまうほどの美人でもなく、クラスで高嶺の花と言われそうなかわいい顔立ちでもなく、普通の顔なのに、髪色も目の色も、ぴったりとその人におさまっている。
小銭を手に握りしめ、うわあ、と小野田は内心で感嘆の声をもらした。

「すみませんでした」

ぺこり、と会釈をして言葉とともに立ち去る女性を、引き留める手立てなどない。欲を言うならもっと見ていたかったし、さらに言うなら写真を撮らせてもらいたかったくらいだけど。
……きれいとも、かわいいとも違うけれど、素敵だったなあ。
いいものを見た、と満足感に包まれたところで、握りしめる小銭と本来の目的を思い出す。どうせだめだろうと後ろ向きだった先ほどとは違って、明るく軽やかな気持ちで、最後の一回に望んだ。

「あ」

コロン、と転がり出てきたカプセルの中で、白銀のマニュマニュがこちらを見つめ返した。





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